ブレスヴォイストレーニング研究所

ヴォイストレーニング基本Q&A

 

【ヴォイストレーニング基本Q&A索引】

 

(1)ヴォイストレーニングの姿勢フォーム
Q1.歌唱(ヴォイストレーニング) 姿勢動きとは?
Q2.寝た姿勢で発声やヴォイストレーニングできるのは?
Q3.座る姿勢でヴォイストレーニングの練習をしてよいのか。
Q4.外国人や太ることでの、ヴォイストレーニングのメリットとは
Q5.歌唱姿勢 ヴォイストレーニング中に疲れるのは?
Q6.ヴォイストレーニングで喉に力が入る?
Q7.ヴォイストレーニングでの柔軟体操の必要性?
Q8.ヴォイストレーニングでの正しい姿勢のチェックとは?
Q9.ステージで動くためのヴォイストレーニングは?
Q10.ブレスヴォイストレーニングで、前屈するのは?

 

(2)ヴォイストレーニングの呼吸法
Q11.ブレスが続かない?
Q12.腹式呼吸と胸式呼吸の違いは?
Q13.歌唱時にうまく息つぎするには?
Q14.歌唱時に肩が動くのを直すには?
Q15.腹式呼吸に腹筋運動は効くのか?
Q16.腹式呼吸でお腹から声を出すには?
Q17.肺活量が小さいのだが?
Q18.ヴォイストレーニングにスポーツ体験は関係するか?
Q19.歌唱時に呼吸、息が苦しくなる?
Q20.語尾や音程が、しまらないが?

 

(3)ヴォイストレーニング=発声
Q21.しぜんな声が基本の声とは?
Q22.テープの声にギャップを感じる?
Q23.外国人時歌唱の差は?
Q24.ハスキー声、シャウト声、かすれた声はよいのか?
Q25.発声や呼吸のしくみ、知識はいるのか?
Q26.あこがれのヴォーカリストの発声になりたいが?
Q27.喉が弱く、すぐ痛くなる、ヴォイストレーニングで強くできるか?
Q28.声が小さく弱々しい、ヴォイストレーニングで直せるか。
Q29.声変わり、変声期にヴォイストレーニングしてよいのか?

 

(4)ことば 発声と音声表現
Q30.ヴォーカリストは、ことば(発声)のヴォイストレーニングが必要か。
Q31.ことば、発音が、はっきりしないので直したいが?
Q32.声が固い、ハミングのヴォイストレーニングを?
Q33.明瞭な発音、発声にしたいが?
Q34.滑舌が悪い、ヴォイストレーニングで直るか?
Q35.早口ができない。どんなヴォイストレーニングが必要か。
Q36.歌詞が覚えられないが。
Q37.なまり、方言の矯正は?
Q38.日本語では歌いにくいのだが?
Q39.英語発音の歌唱のコツは?

 

(5)声域とヴォイストレーニング
Q40.声や発声と、ヴォーカルの素質の関係?
Q41.構音発声のところで聞かせられないが?
Q42.声域は生来のものか、高音発声と低音発声が安定しないが?
Q43.年齢とともに、声域は拡がるのか。
Q44.ヴォーカルの声域は何オクターブなのか?
Q45.自分の(ヴォーカルトレーニングとしての)声域を知るには。
Q46.キィとは何か?
Q47.声域が狭いので拡げたい。
Q48.ハイトーンを出したい。
Q49.発声が、がさついている、ツヤがないのだが?

 

(6)声量、フレージング
Q50.喉声でなく、体からの発声したいが?
Q51.薄っぺらい声を直したい。
Q52.声のヴォリューム、パワーをつけたい。
Q53.歌唱の一本調子を直したい。
Q54.歌唱にメリハリをつけたい。
Q55.体を鍛えることは、ヴォーカル(ヴォイストレーニング)に有利か。
Q56.歌唱に声量や体は必要か。
Q57.歌唱で、声量を豊かに拡げたい。

 

(7)共鳴(頭部共鳴、胸部共鳴、共鳴法)
Q58.声は、どう共鳴させるのか。
Q59.イ-ウが共鳴しにくい。
Q60.共鳴に統一性やパワーがない。
Q61.共鳴が一定に保てない。
Q62.ビブラート(ヴィブラート)のテクニックとは?
Q63.ビブラート(ヴィブラート)をつけた方がよいのか。
Q64.洋楽ロックヴォーカルのようにシャウトしたい、シャウトのトレーニングとは?
Q65.発声が長く伸ばせない、ロングトーンができない。
Q66.ロングトーンにうまくビブラート(ヴィブラート)がかからない。
Q67.声の張りがなく、歌唱を盛り上げられないが?

 

(8)リズム、リズムグルーヴ
Q68.ヴォーカルのリズム感は生まれつきか?
Q69.リズムに強くなるには?
Q70.途中でリズムが狂うのだが。
Q71.3拍子を体得するには。
Q72.楽譜の読み方、楽典について。

 

(9)音程音感(音痴)
Q73.音程がとれないのは音感のせい?
Q74.音痴は直るのか。
Q75.間違いやすい音程の克服法(4度、7度)
Q76.メロディが覚えられない、覚えても間違うのだが。
Q77.音程や音高(ピッチ)が、はずれるのがわからない。

 

(10)歌唱とステージング(ステージ・パフォーマンス)
Q78.似ているとオリジナリティにならないのか。
Q79.ヴォーカルマイクの扱い方
Q80.MCがうまくなりたい、MCの役割とは?
Q81.ステージとヴォイストレーニングの関係。
Q82.オリジナル曲とオリジナリティについて知りたい。
Q83.歌を1曲マスターするまでの練習とヴォイストレーニング。

 

(11)ヴォイストレーニング一般
Q84.ヴォーカルとしてステージに立つとあがるが、あがらないためには。
Q85.歌唱前のヴォイストレーニング ウォーミングアップは?
Q86.ヴォイストレーニングを意識すると、うまく歌えない。
Q87.ヴォーカル、ヴォイストレーニングで、タバコ、お酒はよくないのか。
Q88.家でやれるヴォイストレーニングは?
Q89.ヴォイストレーニング、ヴォーカルトレーニングは、どこで学べばよいか。
Q90.ヴォイストレーニングは、個人レッスンとグループレッスンと、どちらがよいか。
Q91.ヴォイストレーニングは、独習でも正しく身につくか。
Q92.高校生のときや、習うまえにやっておくとよいヴォイストレーニングは?
Q93.バンドをうまくやるためには?
Q94.ヴォーカルは必ずヴォイストレーニングが必要か?
Q95.ヴォーカルは、楽器ができた方がよいか。
Q96.ヴォーカルにとって、声によい食べものは?
Q97.ヴォイストレーニングは、1日どのくらいやるのか、風邪のときは?
Q98.ヴォイストレーニングのための生活習慣や体力は?
Q99.防音スタジオについて。
Q100.ヴォーカリストになるため、ヴォイストレーニングのための指針、信条は。
 

あとがき

Q101.どうすればヴォーカリストになれるのか?

 

 

[1]姿勢(フォーム)

 

Q001
ヴォーカリストは、さまざまな格好で歌っています。前のめりになったり、上を向いたり、走りまわったり、踊ったり。私も、そのようにはでに動きまわって歌いたいのですが、動くとうまく歌えません。どのような姿勢で歌うとよいのでしょうか。
A001
歌を歌う場合に限らず、姿勢といったときには、1立ったときの姿勢 2座ったときの姿勢 3寝ころんだときの姿勢の三つが考えられます。しかし、ステージで歌を歌うときはほとんど、立っているわけですから、基本は立った姿勢となります。ただし、まっすぐ立ったときにうまく声を出すのはなかなか難しいものです。そこで、座ったり、寝ころんだりした姿勢でトレーニングをする場合があります。
歌うときの、理想の姿勢(フォーム)を身につけるのは、とても難しいものです。プロのヴォーカリストであってもほとんどの人が、いまもって課題としているほどです。ましてや初心者が、本など通して、完璧なフォームをマスターするのは、容易なことではありません。
 よい姿勢とは、無理のないしぜんでリラックスをした姿勢です。最初は姿勢をよくしようと思うだけで、体に力が入りやすくなります。足もきちんとまっすぐそろえて、首すじも力で固めてしまいがちです。それではすぐに、首や肩がこり、体全体も疲れてしまいます。大ざっぱに言うと長時間その姿勢で保てないようなフォームは、間違いなのです。
 等身大の鏡の前で、練習するとよいでしょう。自分では正しい姿勢で歌っていると思っていても、そうでないことはよくあります。チェックポイントをきめて、鏡にうつして点検する習慣をつけましょう。

 正しいフォームを習得するには、
(1)まず両足は少し間を開けて(10~15cm)、つま先を開きぎみ(約60度)に立ちます。
(2)肩から腕は力をぬき、手をだらっと下げる感じにします。
(3)顔は少し上向きにし視点を定めます。目線がきちんと定まると、意識が集中しうまくリラックスできます。しかし、上にしすぎると、あごが上がってしまい声が出にくくなります。見た目にもよくありませんので、注意してください。

 常にリラックスしたフォームを保って歌うのは難しいので、慣れないうちはどこかに力が入ってしまうものです。クラッシックバレエのレッスンは鏡張りの部屋で行われます。ヴォーカルにおいても姿勢は声を出すために重要なことです。いつでも、フォームを意識して練習することが、自分のベストなフォームを習得するための近道なのです。どんなにはでに動きまわるステージであっても、まずは、しっかりしたフォームを身につけること、それが基本です。

 

Q002
オペラをみたとき、ある場面で、歌い手が、床に横たわったまま、朗々と歌っていました。声も全くしぜんで変わりませんでした。寝ころんでも歌えるのは、なぜなのでしょうか。
A002
横たわった姿勢での発声は高度なテクニックが必要なように見えますが、実際は特別難しいことではありません。むしろ、歌うフォームを身につけるための大事な基礎トレーニングの一つとして、ここでは紹介しておきたいと思います。

 私たちは、疲れを癒すときや、睡眠をとるときなどは、しぜんと寝ころんだ状態になるものです。この寝ころんだ状態とは、リラックスのできる楽な姿勢なのです。歌うときのフォームも、リラックスをした姿勢という点では共通しています。トレーニングにおいては、寝ころんで声を出してみて、リラックスをした状態で歌う感覚をつかむことは効果的なことです。特に呼吸法のトレーニングには最適です。腹式の呼吸をマスターしようという場合には、仰向けになって息を吐いてみるのが、一番わかりやすいでしょう。寝ころんだ姿勢で声を出し、体に力が入ってしまうところがないかをチェックしてみてください。この姿勢で常にリラックスを保って声が出るようになったら、次に座った姿勢、その次に立った姿勢と順に、ステップをふんでマスターしてゆくとよいでしょう。

 正しいフォームで歌うことができるようになったら、どんなフォームでも歌えるようになります。もちろん、喉をつめたり、あごをあげすぎたりしてはいけませんが、基本が身につくということは、少々、状況が変わってもそれに対応できる力があるということです。つまりどんな姿勢でも、体と息と声の結びつきが正しいフォームで使えているから、どんな姿勢でも歌えるわけです。

 

Q003
私は立って練習をしていると、すぐに疲れます。姿勢も悪くなって、声も出にくくなります。むしろ、座ったときの方が声がうまく出るように感じます。座って練習してもよいのでしょうか。
A003
基本的には、立ってトレーニングするのが普通ですが、立った姿勢は最初はうまく声がでにくいものです。イスに腰かけて、下半身からリラックスさせたところから、フォームをつくっていくのもよい方法です。

 ただし、きちんと背筋を伸ばし、肩の力をぬいて腕に力を入れないようにすることです。顔はほんの少し上向きにしてあごをひき、視点を定めてからやり始めてください。上半身は立っているときの姿勢と同じ状態にします。猫背にならず、外国人がテーブルにつくときのように胸をはって、ピンと背筋を伸ばすことです。その状態で声を出してみましょう。

 背もたれに寄りかかったり、体が前かがみになったりしないように注意します。イスには浅く腰かけるようにしてください。

 座った姿勢が定まってきたら、少しずつ立った姿勢で歌う時間を長くしていきます。座った姿勢が安定してきたら、それをくずさないように立ち、足腰も含めた体全体のフォームを整える練習に進むとよいでしょう。

 アはあごが出ているうえに、首にも力が入っています。前かがみで背中が丸まってしまっているために、お腹が圧迫されて腹式呼吸がうまくできません。

 イもよくありません。ふしぜんな姿勢なのでからだの中のいろいろな器官が圧迫され、呼吸がしにくいうえに声もひびきません。

 ウが正しい姿勢です。からだのどこにも無理がなく、呼吸が楽な姿勢がよいのです。背筋を伸ばし、上半身はいつもリラックスさせます。

 

Q004
日本人の体格やプロポーションもよくなり、食べているものも変わらなくなったのに、どうして声の点では、外人ヴォーカリストより劣っているように思えるのでしょうか。また、太った方が声が出やすいとか、首が太い方がよいとか、鳩胸でっちりがよいというのは、本当ですか。
A004
歌うための声について考えると、日本人の日本語にはやはり弱点があると言えます。特に欧米圏の言語を話す人々との大きな違いの原因となっているのは、浅い発声で成り立つ日本語そのものの性質、そして日本人の普段からの姿勢です。日本人の場合どうしても猫背になりがちで、声を出すのに有利な姿勢を作るところから、かなり苦労してしまうのです。

 そこで、日本人が理想的なフォームをイメージするときのわかりやすい例えとしてよく用いられるのが「鳩胸でっちり」という表現です。歌うときのよい姿勢を考えてみてください。足腰はしっかりと体を支え、背筋を伸ばし、顔は心もち上向きです。これを実行すると、極端に言えば、鳩胸でっちりの姿勢になるともいえます。誰かに「あなた、鳩胸だねぇ」とか「でっかい尻だねぇ」などと言われたらあまり気持ちのよいものではありませんが、ヴォーカリストを目指す人なら、歓迎すべきことかもしれません。ただし、トレーニング時にあまり意識しすぎると、背筋に力が入ってしまうので要注意です。

 太っていることや首の太さも確かに有利な要素の一つかもしれませんが、そうでないから不利だということは全くありません。大切なのは、正しいトレーニングで正しい発声を身につけることです。無理に体型を変えようとするのはナンセンスです。

 

Q005
ヴォイストレーニングをやっていると、下半身がとても疲れます。足がつったり、ひざがガクガクになったりします。何かやり方がおかしいのでしょうか。ステージでも、そういうことがよくあります。立って歌うとすぐに疲れるのです。
A005
立った姿勢というのは自分の体を支えなければならないのですから、声を出し続けるといった慣れないことをするには、寝ころんだ姿勢、座った姿勢よりも、力が入りやすいのです。立った姿勢で長時間何かをすることは、歌わなくとも、それなりのエネルギーが必要なわけです。ですから、立って歌ったり、ヴォイストレーニングをすると疲れるというのは、当然のことでしょう。

 しかし、すぐに疲れてしまうというのでは困ります。ヴォーカリストは体が資本であり、体力が勝負なのです。ですから、普段から体力をつけておくことが第一です。いくらプロになろうとしても、すぐに疲れてしまうのでは、ステージはつとまりません。体力がなければパワーのある歌を歌うことも難しいでしょう。

 もう一つは正しくない姿勢で歌っていると、疲れやすくなります。リラックスのできていない状態で歌うことになるのですから立って歌うとすぐに疲れてしまうという人は、座った姿勢や、寝ころんだ姿勢での練習から、もう一度やり直してみることをお勧めします。

 ヴォイストレーニングに関しては、本当のトレーニングを、直立不動でやっていたら、ひざがガクガクになったり、足の筋肉がつっぱることは、よくあることです。体に負担のこないようでは、トレーニングではないといえます。要は、同じ姿勢を固くなに守りつづけるから、いけないわけです。疲れを感じてきたら、軽く柔軟体操やひざの屈伸運動などをやってみるとよいでしょう。トレーニング中に首や手足を動かしながらやるのもよいでしょう。

 以上、ヴォイストレーニングと疲労の関係について述べてきましたが、本番では疲れたなどという泣き言は許されません。ヴォーカリストは体が資本なのですから、普段から体力をつけておくことが第一です。いくらプロになろうとしても、すぐに疲れてしまうのではステージは務まりませんし、歌のパワーで観客を魅了することも不可能です。

<日常生活の中でできる足腰を鍛えるトレーニング>
●歩く
 後ろ足をピンと伸ばし、大また、早足でテンポよく歩きます。呼吸は歩に合わせて「吸う・吸う・吐く・吐く」を規則正しく行ないます。
●階段を昇る
 基本は歩くトレーニングと同じですが、後ろ足のストレッチをさらに意識します。
●テレビを見ながら
 うつぶせになり、胸から上を両肘で支えて起こします。片足を伸ばしたまま床から20センチ浮かせ、つま先でゆっくり円を描きます。これを左右交互に行ないます。

 

Q006
リラックスして歌うように心がけているのですが、どうしても体に部分的に力が入ります。喉も痛くなります。どうすれば、うまく脱力できるのでしょうか。
A006

極端なときは、足がつるようになったり、お腹や腰が痛くなったりします。
 これらの症状があらわれるときは、無駄な力が入りすぎているか、その状態を続けすぎていると言えましょう。歌うときの姿勢が悪かったり、練習時間が長すぎたり、力を抜かないために起こる場合には注意しましょう。しかし、ヴォイストレーニングにまだ慣れない状態でやるときにもよく起こることなので、それほど気にしなくともよいとは思います。トレーニングの終わったあとに声がよく出るようになるのが好ましいのです。喉が少々痛んでも、次の日に影響が残っていないのならよいでしょう。喉が痛くなったり声が出にくくなるトレーニングは困りものです。もう一度、座った姿勢などで声を出す練習をしてみることも効果的ですし、足腰が、リキみすぎてしまうのであれば、片足立ちをしたり、両足のひざを少し曲げて体の重心を落として歌ってみるのも効果があります。体の一部分に力が入りすぎてしまうときは、このように体の他の部分に意識をもっていくと、力んでいた部分の力が抜けてきます。あるいは、もっと早く力を抜くためにはその部分に逆に力を入れてから抜くという方法もあります。ストレッチ体操などをしてみてください。
<ストレッチのトレーニング>
 ストレッチは弾みをつけず、ゆっくり息を吐きながら行ないます。1ポーズにつき5~30秒静止して、よく伸ばします。

 

Q007
私は、練習時間があまりとれないので、いつもすぐに歌い始め、うまく歌えないときは、少しだけ発声練習をやっています。しかしヴォーカルの人から柔軟体操をしたほうがよいといわれました。本当でしょうか。
A007
歌うということは、体全体で行う運動なので、音楽のパートのなかでは、スポーツ選手や舞踊といった肉体をつかう芸術に近いものです。そういう分野での考え方の方がうまくあてはまることも多いのです。となると、体を柔軟にしておくことが、とても重要なことです。それが自分の体を思い通りに動かせるこつだからです。そうでなくては、正しい姿勢もできません。首や肩の筋肉が凝っていると、声帯をコントロールする筋肉にも影響が出るので、しゃべるときの声までかれてきます。歌うときにはこの影響がもっと大きくなります。そこで体をマッサージをしたり柔軟体操をして筋肉を柔らかくしておくことは、訓練のできていない声でむやみに歌うよりよほど大切なことなのです。これは、毎日欠かさずにやるべきことでしょう。リラックスをした状態でトレーニングするためにも体がかたい人やいつも凝っている人は、よく全身の筋肉をほぐしておくことです。柔軟な体を保つことは、ヴォーカリストを目指す人にとって必須条件です。

 

Q008
歌うときやヴォイストレーニングをするときの正しい姿勢というのが、皆、いろいろなことをいうのでよくわかりません。いったい、どのくらいのことにどれだけ気をつければよいのでしょうか。正しい姿勢のチェック方法を教えてください。
A008
歌うときの基本は、しぜんでリラックスをした姿勢です。他に細かい注意もたくさんありますが、これが大原則です。
 姿勢のチェック項目を挙げておきましょう。
○しぜんでゆったりとした楽な姿勢
○顔はいく分上向き
○目はしっかりと見開き
○視線はまっすぐより少し上に
○舌先は前歯の裏。舌の両側を奥歯につける
○口頭はやや後ろに
○下あごを少しひく(うなじを伸ばす)上あごより前に出さない
○肩、首に力を入れない。肩は少し後方にひき、まっすぐおとす
○首はまっすぐ立てる
○胸をはり、やや上方に広げる。胸は広げたまま高く保ち、おとさない
○腕は力を抜いてだらっと下げる
○お腹は引っ込める
○下腹部はゆるめ、内側へ吊り上げる感じ
○背筋はきちんと伸ばす
○お尻の筋肉を肛門の方向へ締める。少し緊張させ上にあげる
○ひざから太モモの内側を前方にまき込む感じで骨盤を前方へ少し出す
○かかとは少し(10~15cm)開く
○つま先の方を60度程度に開く(内股にしない)
○体重はやや前方(両親指)へ
○重心は開いた足の中心にもっていく

 

Q009
ステージで動きながら歌うとうまく声が出ないのですが、どのようにすればよいでしょうか。
A009
声を出すことがしっかりとマスターできていないうちに、体を動かしながら歌うと声が出にくくなるのはあたりまえです。しかし、ステージの上では、直立不動で歌いつづけるわけにはいかないものです。激しい動きをしながら歌おうとすると当然、息が乱れ、声も乱れてきます。多少の動きをつけながら、正しいフォーム、息を乱さないような練習をしましょう。
 まず、上半身と足腰をそれぞれに、安定させる必要があります。上半身が動くと、どうしても声までゆれやすくなりますし、首の周りが楽になっていないとつまったような声になってしまいます。足腰は動いていても、上半身の状態は変えないで呼吸を保っていられなくてはなりません。
 寝ころがって、両足を動かしながら声を出してみるとか、腹筋で両足を少しもちあげて歌ってみたりすることも参考になるので、やってみてください。
 動きながら歌うと、呼吸を保つことが難しくなります。体を動かすために、ただ歌うより酸素が多く必要になりますから、ブレスの仕方も深く、素早くできないと、息が保てなくなります。これは、「腹式呼吸」をしっかりと、身につけることによって、克服するしかありません。

<激しい動きのなかで声を出すトレーニング>
●仰向けの状態で両足を床から浮かせ、動かしながら声を出す。
●ランニングしながら声を出してみる。

 

Q010
ブレスヴォイストレーニングでは、よく前屈姿勢で、声を出させているようですが、これはどうしてですか。私は体を曲げて練習すると頭に血が上ぼってしまうのですが、やり方がおかしいのでしょうか。
A010
正しい声の出し方を知るために私は体を曲げた姿勢(前屈姿勢)でのトレーニングを勧めています。腹式呼吸を身につけるためには、お腹の前の方がやたらと動かず、横隔膜をとり囲む筋肉が全体的に使いやすくなることが必要です。こうすると、息をコントロールする場所が感じやすくなるからです。
 両手を肩が上がらないようにウエストの位置、わき腹にあてて、体を腰から前方へ少し曲げてみてください。このとき頭を胴体の位置よりも下げすぎると、頭に血が上ぼるようになるので、床に水平なところ以上に前屈しないことです。そして、息を思いっきり吐いて、そのあとしぜんと吸ってみましょう。ウエストのあたりのお腹に空気がスッと入ってくるのが感じられると思います。体を曲げてブレスをすると、胸や肩に空気が入ってしまう(胸式呼吸)のも防げますので、初期のトレーニングとしては、有効な方法です。
 このときは、体を前屈させたときに、背中の線と首からの頭のうしろの線がまっすぐ一直線になるようにすることです。前屈したときも上半身は立って歌うときと同じ状態でなくてはなりません。

<前屈姿勢のチェック>
 背中と後頭部が一直線上になるように意識してください。

 

 

[2]呼吸(ブレス)

 

Q011
歌っていても、いつもブレスが続きません。長く伸ばしたいのに、途中で息が抜けてしまうのです。ブレスが続かないのはどうしたらよいでしょうか。
A011
“自分は他の人に比べて、ブレスが短いのではないか”という悩みをもっている人は少なくありません。肺活量には個人差がありますが、それほど気にする必要はありません。歌うときに重要なのは息の吸う量や吐く量ではなく、正しい腹式呼吸を身につけて息を上手に、いかに効率よく声として使うかということなのです。声を出す原動力は声帯を振動させる空気なのですから、思うままに声を操るためには、発声以前にブレスをきちんとマスターしておく必要があります。

 難しいトレーニングではなく、深く息を吐き、しぜんと吸うことを心がけて生活するだけでも大分、違ってくるでしょう。限られたトレーニング時間よりも、毎日の生活のなかで、常にヴォイストレーニングを意識していることがより有効な訓練になるのです。

<息の強さを調整するトレーニング>
 むらなく均等な声を出すためには息の強さが問題になりますが、最初から均等な呼吸をするのは難しいものです。次のように、息の強さを調節するトレーニングをしてみましょう。
(1)はじめは弱く、だんだん強く出す。
(2)はじめは弱く、だんだん強く、そして再び弱く。
(3)はじめは強く、だんだん弱く、再びだんだん強く。
(4)はじめから織り輪まで同じ強さで。

 

Q012
腹式呼吸と胸式呼吸との違いがよくわかりません。先生には胸式呼吸だといわれ、直すように注意されたのですが、どのようにすればよいでしょうか。
A012

“腹式呼吸”に対して、歌うのには適さないとされているのが、“胸式呼吸”です。簡単にいうと、胸の周りに呼吸した空気を入れてしまう呼吸方法です。胸式呼吸を確かめる方法は、ブレスをしたときに、肩や胸がもり上がるかどうかです。肩、胸が上がるのなら、胸式呼吸でしょう。つまり、間違った場所に空気を入れているわけなのです。歌う声は「お腹から出す」ものなのですから、お腹から空気を送ることが基本です。

 胸式呼吸だと思ったら、両足をかるく開き、背筋を伸ばして立ちます。肩の力を抜いて手をウエストの両わきへあて、そこに空気が入るように少しずつ息を吸ってみましょう。そのとき、肩、胸が盛り上がったり、力が入ったりしてはいけません。正しい腹式呼吸ができていれば、お腹の周り全体が外側へふくらむのが感じられるはずです。最初はわかりにくいので、上体を前方へ倒してやったり、座ったり、寝ころんだりして、息と体(お腹)との関係をつかむとよいでしょう。

 歌うときの呼吸は、このように腹式呼吸が主なのですが、胸式呼吸を全面的に否定しているのではありません。実際には、少なからず、腹式、胸式の両者が組み合わされているのです。胸部の空気を完全に抜くことは、不可能なのですから、腹式呼吸が基本とはいえ、胸部の運動を停止させ、無視するということでは決してないのです。

 呼吸法が急に切り換わるものではありませんから、徐々に、お腹の力を強くしていき、うまく全身がリラックスできるようになるまで、日頃から心がけてがんばってください。

 特に日本人の女性の場合は、胸式が普通であるといってもよいくらい、呼吸の中心となっています。こういうときは、スポーツや激しい運動などによって覚えていくのも、一つの手段かと思います。

 エアロビクス運動(アエロビクス、ジョギング、水泳など)や、気功、ヨガなどを取り入れれば、より成果が上がります。慣れてくれば無意識のうちにしぜんな腹式呼吸ができるようになりますので、それまでがんばってください。

 

Q013
歌うときに、テンポが速かったり、伸ばすところが続いていたりして、息が間に合わないことがよくあります。そこで、ブレスのトレーニングの必要性を感じるようになりました。吸う練習は必要ないのでしょうか。どのようにすればよいのでしょうか。
A013
声は、息を吐くときに、声帯が閉じて、そこを空気で振動させて出すものです。声のコントロールは、吐く息の調節によって行われるのです。ヴォーカリストのトレーニングは、自分の思い通りに吐く息をコントロールするためのトレーニングといってもよいでしょう。吐く息の量や長さを自由にコントロールできるようになれば、息を吸うこともしぜんとできるようになってきます。

 なかには、吸うことを意識しすぎ、息をつかいきったあとに、吐くのと同じかそれ以上時間をかけてがんばって息を吸っている人がいます。しかし、実際は、“吸う”というより“入る”といった感じが正しいです。よく“花をかぐくらいの息”を理想だといわれます。息を吐いたあと体がバネのように呼応して息を取り入れなくては、ヴォーカリストの歌には、とてもついていけません。吸うなどという動作があってはいけないのです。

 仰向けに寝ころんで、少し厚みのある重い本をお腹の上にのせます。頭や足、肩や首などすべての力を抜いてください。そのまま、できるだけ息を吐き出します。かなりお腹がへこんでしまったのがわかるでしょう。このときのお腹の筋肉の感じを覚えておいてください。そして、そのままでいると、こんどはお腹にのせた本がせり上がって、しぜんとお腹に空気が入っていくのがわかります。腹式呼吸では、息を吸おうとしなくとも、吐いた分だけ空気が入ってくるのです。この息の“流れ”を大切にしましょう。

 こんどは、お腹の上の本の動きを見ながら、途中で2~3秒息を止めてみましょう。ゆっくり吸ったり、ゆっくり吐いたりの途中で、息を止めるのです。舌に力を入れずに前歯の裏に軽くつけ、上の歯としたの歯の間からスゥーと出るようにしてゆっくり吐き出しましょう。のどにも力を入れないようにします。

 次に、時計を見ながら、1回の呼吸を12秒かけて練習してください。吸うのに2秒、吐くのに6秒、その間に2秒ずつ息を止める時間をもちます。これができたら、吐く時間を少しずつ延ばしていきます。

 

Q014
歌っていると、肩が動きます。これは、ヴォーカリストにとってよくないと言われました。どうしてでしょうか。また、肩が動くのを直す方法はありますか。
A014
まず、見た目によくありません。ヴォーカリストのわずかな動きも無駄なものであれば、とても目ざわりなものです。

 ブレスをしたときに肩が動くという症状は、胸式呼吸を行っているときに起こります。きちんとお腹に空気が入っていないのです。激しい運動をするとハアハアと肩で息をしますが、この肩呼吸は吸うのも吐くのもはやいのです。そのためスポーツの後、酸素をすばやくとりいれるにはよいですが、歌のように長く息をコントロールしなければならないものには不向きです。このことに気づいたら、大きな鏡の前でもう一度、歌うときの基本姿勢からチェックしてみましょう。

 どうしても肩に力が入ってしまうという人は、水を入れたバケツなどの重い物を両手で持ち、足は軽く開いて立ってみましょう。このとき、重い物を持っているからといって肩から腕を力にまかせて固くしないように気をつけてください。重さで前かがみ(猫背)になるのもよくありません。背筋は伸ばし、肩の力を抜いてバケツの重さを感じ、地球の重力に自分の体が引っぱられているように意識してみてください。このときには、足腰がしっかりと地についた感じで、安定したよい状態になっているはずです。この状態でゆっくりと呼吸をしてみてください。お腹の底に空気が入ってゆくのが感じられるでしょう。それができるようになったら、バケツなしでも、同じ状態を保てるようにトレーニングしましょう。少しずつ肩の無駄な動きは取れてゆくはずです。

●水の入ったバケツを持つ。
●グランドピアノのボディの下をつかむ。

 

Q015
毎日、私は、腹筋運動をしています。腹式呼吸を強化するために、腕立て伏せから、足上げ上体起こしとやっているのですが、あまり上達しているように思えません。腹式呼吸には腹筋運動がよいのでしょうか。
A015
歌うための体づくりのためには、腹筋運動が有効であると考えがちです。しかし、結論から言うと、腹筋を鍛えないよりは、鍛えた方がよいですが、それほど腹式呼吸に効果的なトレーニングとはいえません。腹筋運動での外側の筋肉の強化はどのスポーツの選手にも必要ですが、ヴォーカリストにとっては実際に腹式呼吸で使われる内側の横隔膜に関わる筋肉や助間筋などを鍛える方がより直接的なのです。

 声は息によってコントロールされます。その息をコントロールするための筋肉はやはり息を吐くことによって鍛える方が早いのです。

 もちろん、それを支えるために腹筋運動をハードにすることでヴォーカリストの体がつくれるわけではありませんが、適度にお腹の筋肉を鍛えておくことも大切なことです。

 簡単な腹筋運動を以下、いくつかあげてみます。

<腹筋を鍛えるトレーニング>
(1)仰向けに寝て両足を少しだけ浮かせるようにします。腰から腹筋で持ち上げていきます。ひざが曲がったりしないように両足をぴったりとつけてつま先まで伸ばすことを心がけてください。
(2)仰向けに寝ころがって上半身を起こすというトレーニングもよいでしょう。このとき、両腕は頭のうしろへ組みましょう。他に、腕立て伏せも腹筋を鍛えるトレーニングになります。
 仰向けになって、おへそのあたりに本などの重いものをのせて、ブレスや発声をしてみると、腹筋の動きを感じやすいので参考になるでしょう。

 

Q016
お腹から思う存分、声が出ません。腹式呼吸で歌っていないから、お腹から声が出ないのだと思います。どうすれば腹式呼吸が一番早く身につくでしょうか。
A016
まず、腹式呼吸だけでは声は出ないということを踏まえた上で、腹式呼吸は声を出すための大切な条件であることを知っておいてください。私たちは眠っているときに、無意識のうちに腹式呼吸を行っています。ですから単に腹式呼吸をすることでしたら全く難しいことではありません。しかし、歌うときに腹式呼吸が無意識的にできるようになるために、意識的にトレーニングするのです。立った姿勢でどんな歌に対しても、しっかりとした声が出るように思い通りに息をコントロールできるようにならなければなりません。そのためには、眠っているときの腹式呼吸とは、ケタ違いに高度な技術が必要なわけです。これには時間をかけて毎日休まずコツコツとトレーニングをして身につけていくしかありません。

<腹式呼吸の習得練習>
両足を少し開き、リラックスして立ちます。
1. まず息をゆっくりとお腹に空気がなくなるまで吐く
2. 2,3秒止める
3. ゆっくりとお腹に吸えなくなるまで空気を入れる。
4. 2,3秒止める
※1、2、3、4、1、2、3、4……とくり返す。

同様の姿勢で行ないます。

1. 4分音符=60を目安にして(始めは4分音符=40位から)
  スタッカートでアッ,アッ,アッ,アッ,アッ一回ごとに、お腹が強くふくらむかんじで。
2. 一回ずつアクセントをつけてさらに声をつなげる。お腹も動くように。
3. 倍の速さで1と同様にスタッカートでお腹が一回ごとに強く動くように。
4. 3と同じテンポで2と同じ歌い方で。
5. 3連符で、1.3と同様に。
6. 2.4と同様に。テンポは5と同様に。
7. 1.3.5と同様に。
8. 2.4.6と同様に。

 初めのうちは、この練習をするときに、1から4くらいのテンポまででしっかりとトレーニングしてください。無理に速いテンポで練習しても雑になるだけです。少しずつ速いテンポに進んでいくようにしましょう。基本の速度も、最初は4分音符=40位から練習してください。

 このトレーニングは腹式呼吸の練習にもなりますし、リズムの練習にもなります。毎日5分間で充分ですので、継続してトレーニングしましょう。一通りできるようになってからも、発声練習のまえに毎日行なって欲しいものです。

 

Q017
私は体が小さくて、肺活量もあまりありません。ヴォーカルとしては不向きのようですが、歌に肺活量は関係あるのでしょうか。
A017

“肺活量が少ないから、歌に向いていないのではないか”と悩んでも仕方ありません。 確かに、肺活量が大きいにこしたことはありませんが、せいぜい、ないよりはあった方がよいといえるくらいです。オペラ歌手でさえ小柄な人はいます。大男や肺活量の多いスポーツ選手がヴォーカリストに向いているわけでもないでしょう。大切なのは呼吸した空気(呼気量)をどれだけ効率よく声に変えられるかということなのです。息がいくら多く吸えても、息もればかりで、それを声として生かせないのであれば何の意味もありません。

 肺活量の大きさはヴォーカリストを目指す上での条件にもならないでしょう。そんなことが有利なら、世の中には、大柄な男性のヴォーカリストしかいなくなります。まず、充分に自分の体を使い切ること、全身で歌えるところまでトレーニングすることです。
 声帯をいかに少ない空気量で振動させられるか、そして、それをいかに共鳴させられるかで声量が決まってくるのです。

 肺活量の大きさなど全く気にせずにロスの少ない正しい発声法をマスターすることが重要な課題です。声が人並みに出せる人でヴォーカルに不向きな人はいません。もし、いるなら、ささいなことを不向きな条件だと思ってしまう人の方です。

 

Q018
私のサークルでは、ヴォーカルをやっている人は、皆、スポーツをやってきた人です。スポーツのできる人は、歌も総じてうまいようですが、何か秘訣があるのでしょうか。スポーツ選手はヴォーカルに有利なのでしょうか。
A018
スポーツで体が鍛えられているという点を考えると、歌うことも体を使うことなので共通する点はあります。また、体力もあった方が有利です。そして、何もやったことのない人よりは、ひとつのことを習得するために必要なこと、そして、身につく過程を体験してきたということを知っているということも、有利な条件だけと思います。

 ただ、歌のためのヴォイストレーニングと、スポーツのためのトレーニングで重なっているものが少なくないのも確かなことです。ヴォーカリストの基本条件の一つとして“柔軟な体を保つ”ということがありますが、これに関しても、常に体を動かしてトレーニングを重ねているスポーツ選手にはわかりやすいことです。

 しかし、スポーツをやってきた人がヴォーカルをやることが多いということの本当の理由は、性格的に明るく人前に出たがり屋で、ステージでも体を動かせるヴォーカルを選ぶからだと思います。しかも、彼らの多くは楽器ができません。だからヴォーカルをやるしかない、ということもあるのでしょう。

 以上、スポーツの経験がもたらすメリットについて述べましたが、これは決してスポーツ選手がヴォーカリスト向きであって、それ以外の人はとてもかなわないということではありません。Q017で述べた通り、普通に声が出せる人なら誰でも、正しいトレーニングによって確実な効果が得られるのですから、コンプレックスを感じたりせずに、スポーツマン精神に負けない強固な意志で、地道な努力を続けることです。

 

Q019
歌っていると、ときたま息が苦しくなることがあります。たいして大きな声ではないのですが、すぐに声が途切れがちになったり、聞こえないような小さな声になります。ブレスか発声の問題でしょうか。
A019

充分に息を吸っているつもりなのに、息を吐くとすぐに苦しくなってしまう人は、まず体を鍛えることです。そうでないと、息が短く、余裕のない歌い方になります。これは、体と呼気の使い方の問題です。息を吐くときに酸欠になりやすい人もいます。これは、エアロビクスやジャズダンスなど、呼吸をふんだんに必要とする運動によっても強くなるでしょう。本当のことを言うと、ほとんどの人は、ヴォーカリストとして息を吐けるだけの体になっていません。ですから、私のところのトレーニングでは、最初はプロレベルの活動をしている人でも酸欠気味になる人が少なくないのです。しかし、本当のプロのヴォーカリストは、そんなことはありません。ということは、まず、ここから鍛えなくてはいけないということです。呼気を声に変える効率が悪く、息のロスが多いから、そうなるのです。

 もう一度腹式呼吸を基本からチェックしていきましょう。ウエストの位置のわき腹を両手で押さえて、きちんとお腹に息が入っているかを確認してください。お腹が空気でふくらんだ状態をできるだけキープしながら、少しずつ息を吐いていく練習をしてみてください。毎日続けていくうちに少しずつ、吐く時間は長くなっていくはずです。声を出して、どれくらい長く伸ばせるかといった訓練もしてください。息もれに注意して、一秒でも長く伸ばそうと心がけて練習をしていきましょう。

 このときに注意しなければならないことは、息を、あまりに吸いすぎないことです。苦しくなるほど限界まで吸うと、かえって胸部まで空気でいっぱいになってしまい、うまくいかなくなってしまいます。

 

Q020
フレーズの終わりが長く伸びたり音程が不安定になったりして、どうも歌全体が引き締まらなくなってしまいます。どうすれば直りますか。
A020
これは“ブレス”に深く関わる問題です。ブレスが浅いと一つのフレーズの終わりごとに声を保つことが難しくなり、音程やリズムが狂いがちになるのです。語尾がうまく切れないのも吐く息に充分な余裕がないからです。息が一定に保てなくなると、声が揺れて多くの場合は音がフラット(下がる)します。呼吸法をしっかりマスターすれば横隔膜の働きで呼気を一瞬にして停止できますから、フレーズの終わりもふしぜんにならなずに切ることができます。息の量も自在にコントロールできるので、音が不安定になることもありません。

<語尾をしっかりと切るトレーニング>
 以下の言葉の語尾をしっかりと言い切ります。ただし、口先で息を止めるのではなく、お腹を使った息のコントロールで言葉を切ってください。
(1)いっちょう、あがり。
(2)こらまたどうした。
(3)イエイ、イエイ、イエイ。
(4)オットトッ、しつれい。
(5)ヤッホー、オーイ。
(6)また、あしたね。
(7)ヘーイ、ラッシャイ。

 

 

[3]発声(ヴォイス)

 

Q021
いつもしぜんな声で歌いなさいと注意されています。自分ではしぜんな声でと思っているのですが、何となく録音したものを聞くとしぜんではないような気がします。しぜんな声とはどんな声でしょうか。どうすればしぜんな声がでるのでしょうか。
A021
しぜんな声というのが、あるわけではありません。あなたにとってしぜんに出している声にしていくということです。この見本は、自分でみつけていかなくてはいけません。一般的には、体をリラックスさせて出した声は、話し声でも、歌声であっても、しぜんな声がでます。反対に、ふしぜんな姿勢で発声をすると、どこかに力が入って、ふしぜんな声がになるものです。体が固くなっていると、声まで固い感じになってしまいます。姿勢や感情に左右されるものもあります。

 歌うときの理想の姿勢であるリラックスをした無駄な力の入っていない状態で出された声は、自分で気に入るかどうかは別問題として、その人にとってしぜんな声といえます。この声があなたの基本となる声です。実際に歌うときにも、この声を忘れてはなりません。

 しかし、しっかりした訓練ができていないと、歌うなかで、このしぜんな声を保つのは容易ではありません。さらに、日本人の普段の声そのものが、しぜんに出ているとは言い難いところがあります。日本語としてしぜんに声を出せるまでにも相当のトレーニングを要します。

<しぜんな声で読むトレーニング>
赤とんぼ
ゆうやけこやけの赤とんぼ
おわれてみたのは いつの日か

山のこかげのくわの実を
こかごにつんだのは いつの日か

ゆうやけこやけの赤とんぼ
とまっているよ さおのうえ

 

Q022
私は自分ではうまく歌えており、声も充分に出ていると思っているのですが、テープにおとしたものを聞くと、どうもイメージが違っています。録音すると変な声になるのですが、どうしてなのでしょうか。
A022
自分の本当の声は案外とわからないものです。というのは、普段、話すときなどに聴いている自分の声は、相手に伝わっている声とは全く違うからです。声を出すと、一度空気中に出されて、耳の鼓膜を通して聴いている声と、自分の体を通じて内耳から入る声と二種類同時に聴こえるからです。しかし、他人が聴いているあなたの声は、口から出された声が空気中を伝った声だけなのです。そこで、自分に聞こえているあなたの声と第三者が聴いているあなたの声とは全く異なっているわけです。

 テープレコーダーで録音したあなたの声は、空間を伝わって録音されていますので、普段、あなたの声として他の人が聴いている声に近い声なのです。自分にとっては、聴き慣れない声なので、変な感じがするものですが、この方が正しいと思ってください。ヴォーカリストは人がどのように聴くかということが問われるのですから、この録音された声がどうであるかが重要なことなのです。レコーディングをしたときや、マイクを通して伝わる声も、この声なのです。

 ヴォイストレーニングでも、自分の声を録音して、客観的に、自分の声を判断できるようになることが必要です。もちろん、どんな録音機でもマイクを通すことになりますから、本当の自分の声を自分で聞くことはできません。ヴォイストレーナーや第三者に聞いてもらうことが、ヴォーカルの場合に絶対に必要だといわれるのは、こういうことからなのです。

 

Q023
私は洋楽をやっています。ところが声そのものの魅力、張りや伸びから音質まで全てが日本人とは全く違うように聞こえます。日本人と外人の声とは違うのでしょうか。また、そのギャップを埋めることはできるのでしょうか。
A023
日本人の話す声と外人の話す声を比べてみてください。言語の違いも関係するとは思いますが、総じて日本人の話し方は音量も小さく貧弱で、話のリズムも平面的でパワーに欠ける気がしませんか。それに対して、外人は深く体についた魅力的な声で話し、明るくはっきりとしていてリズム感があります。歌以前の段階でこれだけの差があるのです。これは、ヴォーカリストを比べてみるとさらに感じることだと思います。外人は、話しているときの声がとてもしぜんなので、その声を基本にそのまま歌に入っていけるのです。話しているときから、リズムがあるので、何気なく口ずさんだだけでも歌になります。いつも単調に話している日本人の私たちより様になるのです。

 しかし、最近は、骨格や背の高さなども外人と日本人は変わらないようになりましたから、きちんとした発声法を身につけることができれば外人と同じように声が出せるはずです。普段の話し声もトレーニングしだいで、克服できます。日常生活から、言葉をはっきりと明瞭に話すよう心がけましょう。これが歌にも必ずよい影響を与えていくでしょう。

 

Q024
私はハスキーな声にあこがれています。喉をつぶしたり、わざとそのような声にして出していたことがあるのですが、どちらもうまく続きません。そのうち、普通に歌っているときも、声がかすれるようになってきました。大丈夫でしょうか。
A024
声は声帯の振動によって出るものです。声がかすれるという場合、声帯が発声障害を起こしているという可能性も考えられます。悪い状態で歌いすぎると炎症をおこしたりポリープができたりしやすくなります。この場合は、声(声帯)を休めて、治るのを待たねばなりません。そのまま歌い続けると、さらに悪化してしまうので注意してください。

 また、他の原因で声がよく出ないということも考えられます。炎症やポリープなのか、単に疲れや発声の仕方が悪いためなのかを見分けるためには、充分に声を休めたあとに、低く深い声がかすれずに出るかどうかでチェックするとよいでしょう。

 声のかすれているときの練習方法は、ハミングが効果的です。まず口を閉じて、自分だけがどうにか聴き取れる位の小さな音量でハミングをしてください。このときは、メガネを止める鼻の位置を意識するようにします。目はよく開き、ほおを上げるようにややほほ笑んだ感じにします。この状態でハミングが乱れないようにできるようにします。それができたら、簡単な音程をつけた練習をしてみましょう。ソファミレドの音階を自分の歌いやすい音程から始めて半音ずつキーを上げていきます。このときも4分音符=60以内くらいにゆっくりとハミングしてください。ハミングは、声帯がうまく合わさらないとできないものなので、この発声練習が無理なくできるときは、声帯は正常だということがいえます。

 声はのどだけでコントロールできるものではありません。聴く側にしてみれば、ラフな感じのするハスキーヴォイスですが、プラスアルファのテクニックで他の多くのヴォーカリストにはない色をつけるわけですから実は大変難しいのです。基礎がしっかりと身についていて、歌うための理想のフォームができあがっていなければ正しく使えません。
 無茶をしないでまずは基礎トレーニングをこなし、自分の声の土台を築いてください。決してのどをつぶそうとしたり、無理にからした声を出そうとしたりしてはいけません。一時そのような声が出ても、少し休むとすぐにもとの弱々しい声に戻ります。それどころか音域音量とも制限されて、しまいには歌どころではなくなってしまいます。ヴォーカリストを目指すならば、絶対にやめるべきです。

 

Q025
ヴォイストレーニングでは、呼吸や声帯の構造、仕組みから教わると聞きました。なぜ呼吸や声のしくみ、メカニズムを知る必要があるのでしょうか。
A025
“歌うときはお腹の底から声を出せ”とよくいいます。ヴォーカリストを目指す初心者にとって、これをすぐに実行するのは、至難の技であると言えます。言葉の意味するイメージがはっきりとしていないのですから、当然のことです。まずは、多少なりとも、声を出すための楽器としての自分の体のしくみを、理解する必要があります。そして声の出るときのしくみを知ることです。とはいっても、体の構造すべてについての専門的な勉強が必要なのではありません。とりあえずは、声を出すときに関係する部分での基本的な知識でよいのです。これを理解して始めることでヴォーカリストを目指して、勉強していく上での大きな差が出てくるのです。

 ヴォーカルのトレーニングを始めるにあたり、一通りでよいから、必ず声のしくみとメカニズムを理解しておきましょう。

呼吸のメカニズム
 呼吸は、肺がそれ自体の力で膨らんだり縮んだりして行なうのではありません。肺を取り囲む胸郭(きょうかく)が、横隔膜、肋間筋(ろっかんきん)などの働きによって拡張したり収縮したりして、肺に作用して行なわれるのです。
 呼吸のメカニズムを説明するのによく用いられるのが、下に示したヘーリングの模型です。この模型は、びんを胸郭に、底に張ったゴム膜を横隔膜に見立て、気管に見立てた二股のガラス管の先には、肺に見立てたゴム風船がついています。
 底のゴム膜を下に引っ張ると、びんの中の気圧が外圧よりも下がり、ゴム風船にはしぜんに空気が入って膨らみます。そして、底のゴム膜を引っ張っていた指をはなすと、びんの中の気圧が上昇してゴム風船は縮み、空気は外へ流出します。
 これが、胸郭の拡張と収縮による吸気と呼気に相当することを理解してください。

横隔膜
 横隔膜は胸腔と腹腔の境となり、ふだんはお椀をふせたような形をした筋肉質です。この筋肉が収縮すると、膜全体が平らになって下がり、胸郭の容積が増します。

 

Q026
私はカールスモーキー石井さんが大好きです。彼のような声になりたいのですが、どうしたらよいのですか。
A026
声は声帯の形と共鳴のさせ方で人によって全然違うものです。親子や兄弟で声がそっくりだから、電話ではどちらかわからない、というのは声帯の形が似ている例です。顔の形が似ているとひびきも同じようになるからです。

 共鳴のさせ方を似させているのはものまねをする人です。声や顔は全然ちがうのになぜか似させているときには声だけでなく顔の表情まで似てしまいますから面白いのです。声帯の形は生まれつきのもので変えることはできませんが、共鳴のさせ方はかなりの程度までは訓練によって変化をつけることができるのです。

 共鳴のさせ方を似せるためには何といっても似せたい人の声をCDか何かで流して、その声と一緒に歌うという練習が一番早いでしょう。黒板をチョークでキーッとやると気が遠くなりそうになりますが、それほど人間の体は音に対して過敏に反応します。ましてや人の声なら自分の同じ部分が同じように動こうとするのは当たり前のことです。だからそれを利用して、その人の歌を聞きながら一緒に歌えば、いつの間にか似てくるのです。
 さて、カールスモーキー石井さんが好きで彼のような声になりたいという気持ちはよくわかります。しかし彼とあなたの声帯の形が似ているとは限りません。そうでないなら相当無理をしないと、その望みはほとんど実現不可能なわけです。仮に似ていたとしても、共鳴のさせ方や歌い回しなどを彼に似せなくては「彼の声」にはなれません。しかし、そうすることに何の意味があるでしょうか。ファンとして、カラオケや花見の余興でやるくらいならよいでしょう。しかし、ヴォーカリストになるためにヴォイストレーニングをはじめようとこの本を読んでいるあなたには、人に似ていることを喜んでも何にもならないということに気づくべきでしょう。ヴォーカリストは自分の個性をいかに出していくかで、決まってくるのです。人のマネをしようとばかりしていると個性とかあなたの魅力とかがでなくなってしまって、つまらなくなってしまいますよ。

 

Q027
私は喉が弱くて、大きな声で歌えません。二、三曲歌うと、もう休まなければ持ちません。声を出すとすぐ喉が痛くなるのですが、喉を強くする方法はないでしょうか。
A027
カラオケをしたり、スポーツ観戦などで大声を張り上げて応援をした後は、誰でも多少喉が痛いと感じた経験があると思います。これは普段出さない大きな声を無理をして発声し続けたために起こるものです。

 しかし、歌をうたってすぐに喉が痛くなるのでは、ヴォーカリストは務まりません。しぜんな声を出しているときは、喉への負担も最小限ですみますから、喉がすぐに痛む場合は、しぜんな発声法ができていないということになります。

 トレーニングのときのイメージとしては、声帯(喉)ではなく、横隔膜のあるところから声を出す感覚で発声することです。実際に、声帯を振動させる原動力となる息を送り出し、コントロールしているのはお腹であり、喉をいくらリラックスさせようと思っても、喉そのものをコントロールすることはできないからです。

 声量を増やすために、喉を無理に鳴らそうとしている人をよくみかけます。しかし、声量は息の使い方と、共鳴のさせ方で変わってくるもので、喉をいかに鳴らすことができるかではないのです。それを知らずに無理に声帯に負担をかけては痛めるだけです。
 喉は、確かに強くなります。それは喉を酷使するからではなく、お腹からの正しい発声方法で、毎日トレーニングをしていった結果なのです。喉をつぶしてよくなったと言っているヴォーカリストがいますが、決して、まねをしないようにしてください。

<笑いのトレーニング>
 最初は弱く、少しずつ強く出し、最後は弱くして終わってください。なるべく大げさに楽しく明るくやること。
(1)ワハハハ、アハハハ、グアハハハ
(2)アハハハ、イヒヒヒ、ウフフフ、エヘヘヘ、オホホホ
(3)自由に1分間

 

Q028
僕の声は、生まれつき小さくてひびきません。クラスのなかでも小さいほうです。しかし、歌をうたっていきたいので、声を大きくしていきたいのです。そのために弱々しい声を直したいのですが、どうすればよいのでしょうか。
A028
他の人に聴き取れないほどの弱々しい声(日常的な会話に不自由する)しか出ないのならば、声帯に異常があるということも考えられるので、一度、医師に相談してみた方が安心でしょう。でも、思い通りに声が出ないという程度であれば、その必要はありません。

 声は個人差の大きいものです。声量や声質は誰一人として全く同じという人はいません。声が太いと力強く、声が細いとどうしても弱々しく聴こえるものです。
 ですから、声が細い人は、それが自分の声が本来もっている特色、個性なのですから、その声に磨きをかけるつもりでトレーニングをしてみるとよいのではないでしょうか。細くてもよく通り、張りのある声であれば、あなたはヴォーカリストとして充分に通用します。いくら太い声で声量があっても、ただ怒鳴っているだけでは、誰も耳を傾けてくれません。

 ヴォーカリストになりたいと言いつつ、小手先のテクニックでそれらしく歌えることに満足しているようでは、いつか壁にぶつかります。生まれもっている声質そのものを変えることはできませんが、あなたがこれから真剣にヴォイストレーニングにとり組んだなら、素質やごまかしの上であぐらをかいている人たちを出し抜くことなど容易なはずです。

 下に挙げた返事のトレーニングは、一言ひとことをブレスヴォイスでしっかりと発声するつもりで行なってください。トレーニング以外でも、この感覚を忘れず常に、はきはきと話すよう心がければ、声の印象がみるみる変わってきます。

<「ハイ」のトレーニング>
 小さな声から少しずつ大きな声へクレッシェンドしていきます。
(1)ハイ ハイ ハイ ハイ ハイ
(2)ハイ ハアイ ハアアイ
(3)ハイ行くよ、ハイオーケー、ハイわかりました

 

Q029
僕は今年高校生になったばかりです。バンドを組んで歌っているのですが、声変わりの影響なのかどうも声の調子が安定しません。こういうときに練習してもよいのでしょうか。
A029
思春期に起こる体の変化の一つが声変わりです。発声器官である声帯は、第二次性徴期、つまり思春期になると急激な変化を遂げます。声帯のある喉頭も、女性は10~13歳くらい、男性は少し送れて11~14歳くらいで変化します。声変わりはこの変化に伴って起こります。実際は男女ともその時期が存在するのですが、女性の場合は余り目立ちません。男性の喉頭が甲状軟骨の中央部隆起によって喉ぼとけを形成するのに対し、女性の甲状軟骨は上下に伸びるだけなので、声帯の変化も男性よりは小さいのです。

 甲状軟骨が前後方向に長く伸び喉頭隆起ができると、声帯もそれにつれて長く伸びます。楽器の弦の長さの関係と同じで、長くなった声帯は振動幅が大きくなりますから、発する声は低くなります。そのうえ咽頭、副鼻腔など他の器官の成長に伴う共鳴効果の変化や呼吸量の増加などの要素が加わって、声変わりが起こります。

 思春期の体の変化は本人がついていけないほど急激です。身長の伸びが急すぎて体の節々に痛みを覚える人もいます。声変わりの最中も、なかなか声のポイントが定まらず、かすれたり裏返ったりしますが、これは本人の声が完成するまでの大切なステップです。時にはもどかしくなることもあるでしょうが、無理をしてはいけません。ハードなトレーニングは避けて、のどを痛めないように細心の注意を払いましょう。

 

 

[4]発音/言葉(母音)

 

Q030
ヴォーカリストとして、メロディやリズム、音程のトレーニングをしています。言葉にもトレーニングはあるのでしょうか。また、言葉のトレーニングは必要なのでしょうか。
A030
言葉のトレーニングは、役者、アナウンサー、その他にも言葉を使う仕事についている全ての人々が行っているトレーニングです。ところがヴォーカリストはほとんど、このトレーニングしていません。音楽スクールでも、言葉のトレーニングには、無関心のようです。これは大きな間違いです。歌は、音楽を演奏することにおいては他の楽器とかわりませんが、それだけでなくメロディーに“言葉”をのせることができるのです。ヴォーカリストが歌を歌うということは、言葉をメロディーにのせて語りかけるということです。ヴォーカリストにとって言葉はとても大切な要素なのです。

 しかし歌を歌うときの言葉は、音程やリズムをつけなければならない分、相手に伝えるのが難しくなります。そのための基本として、言葉のトレーニングをまず、しっかりとやらなくてはいけないはずなのです。

 言葉のトレーニングの第一段階として、日本語の音訓練から始めましょう。日本語は、アイウエオの5つの母音と55の子音と、ん(撥音)、きゃ、きゅ、きょなどの拗音の組み合わせで構成されています。150以下の音の組み合わせからできているのです。これらを充分にトレーニングしておきましょう。特にアイウエオの5つの母音は、口先での明瞭さではなく体の奥から声を発する感覚で、深い母音をマスターしていくことです。

 また、日本語以外の言葉、例えば英語などの歌を歌う場合は、日本語の音をもとにして、外国語をつくろうとすると必ずふしぜんなものになってしまいます。AIUEOといっても日本語での理想のアイウエオと外国の母音では全く違うからです。ともかく、英語、フランス語、イタリア語、ドイツ語など、どの国の言葉で歌うにしても、日本語の母音にこだわらずに、その国の母音を身につけることから始めることでしょう。私自身は、日本語をしっかりと音楽に使えるようにしていくには、イタリア語あたりの母音をマスターすることから始めるのもよい方法だと思っています。

<言葉のトレーニング>
 次の言葉をしっかりと読んでみましょう。
(1)アテンションプリーズ、アテンションプリーズ
(2)テス(ト)、テス(ト)、テス(ト)、ただいまマイクのテスト中
(3)アエイオウ、AEIOU

 

Q031
歌っていても、言葉がわからないといわれることがよくあります。もごもごと口のなかでこもってしまったり、言葉がはっきりとしないようなのです。言葉がはっきりしないのを直す方法は、どうすればよいのでしょう。
A031

まず、口をしっかりと動かし、開けることです。そうしないと声は前にでません。あるいは逆に、言葉をはっきりと言おうとしてむやみやたらに口を大きく開けすぎていないかを考えてみてください。口をいくら大きく開けてもムダに大きく開けている場合には、かえって平べったい口先だけの声になり、実際に使いにくい声になります。歌のための発声ですから、お腹から声を出すのが基本です。試しに口先はあまり開けずに、口の中を開ける感じでAIUEOとお腹を意識しながら声を出してみてください。少しこもった感じになるとは思いますが、口を開けているときより、口の奥の方でしっかりと共鳴しているのがわかるでしょう。

 始めから、すべての言葉をはっきりと発音しようとしすぎると、口がパクパクするだけで、音程をとってメロディーにのせるだけで精一杯となり、本来の言葉の持ち味やイントネーションを生かせなくなることが多いようです。

 ですから、個々の音の訓練をするとともに、体の底から言葉を言ってみることをトレーニングすることです。体から言葉が言い切れるというのがヴォーカリストの基本だということを忘れないでください。早口言葉のような練習も、それをふまえた上でなければ効果はありません。まずは深くひびきのある声を出すことの方に重点を置いてトレーニングを行ってください。
<言葉をはっきりとさせるためのトレーニング>
(1)アエイオウ
(2)アイウエオ
(3)アカサタナ
(4)ハマヤラワ
(5)アオイソラとトオイウミ

 

Q032
私の声は固いので、よくハミングをするトレーニングをするように言われます。ハミングというのは、何となく声にはならないのでトレーニングがうまくできているのか不安です。ハミングのトレーニングはどうするのか、気をつける点などを教えてください。
A032
声帯を、正しく合わせ、振動を自由自在にコントロールさせる訓練として、ハミングは大変、効果的なトレーニングといえます。ハミングは長時間トレーニングを続けても、喉を痛める危険が少ないので調子の悪いときでも、充分にトレーニングできます。
 次のトレーニングは、クラシックのオペラ歌手を目指す人たちの毎日の発声練習でも行われているものです。自分だけに聴こえる程度の小さな声量で練習を行ってください。
 ハミングのトレーニングをする際の注意としては、音量はできるだけ小さくてもよいから鼻のつけ根(メガネのひっかかる位置)を意識し、そこにひびきがくるようにしてみてください。

<ハミングのトレーニング>
○常にレガート(なめらか)に一音一音をつなげていくこと
○口は最初は閉じて、次に少し開いて行うとよいでしょう
○目はしっかりと開いて視点を定めてください。

 

Q033
私はヴォーカルをずっとやっていますが、今だに発音がよくないとか言葉が何を言っているのかよくわからないといわれます。歌っているときには気をつけているのですがどうしたら直りますか。
A033
他の人に正確に伝わる“明瞭な発音”には、1.唇の運動能力2.あごの運動能力3.舌の運動能力4.喉(声帯)の運動能力、この4つが全てスムーズに作動していなければなりません。しかし、話すときも歌うときも、いつでも、これらに注意しているということは、頭が重くなってしまうでしょう。却って明瞭な発音をしようとすればするほど、ふしぜんになってしまいがちです。これは体の余分な部分に力が入ってしまい、うまく動かなくなるためです。
 発音をクリアにするトレーニング方法をやってみてください。

<唇のトレーニング>
 自分の好きな曲を一曲選びその歌詞を使って黙読をします。このとき、唇・舌・喉・あごなどは声を出して読むときと同様に動かしてください。声に気を取られない分、唇・舌・喉・あごの動きが明瞭に感じられます。つた、詞の意味を考えながら読むとメリハリもついて、より効果的です。口の動きがつかめてきたら、今度は声を出します。遠くの方にマイクをおいて録音し、チェックしてみれば、以前とは格段の違いがあることがわかるでしょう。後は、音読、録音、チェックをくり返し、不明瞭な部分を改善していきます。

 

Q034
僕は歌っているときに舌がうまくまわらないときがあります。いつも舌足らずの感じになります。発声練習をやっていてもうまくいきません。
A034
舌足らずの声も不明瞭に聞こえる声の一種です。まずは、唇のトレーニングを充分に行ってください。それから、舌のトレーニングをやりましょう。

 舌のトレーニングの基本は腹話術の話し方と同じです。あごと唇を使わずに舌と喉の運動だけで発音しなければならないので、舌足らずを直す練習として効果があります。顔の表情はなるべく変えないで、明瞭な発音になるように心がけることです。

<舌のトレーニング>
(1)鉛筆か指などを歯で軽くかんでください。唇は、力を抜いて開いたままにします。(2)自分の好きな詩、文章を、唇・あごを動かさずに発音してみてください。
   唇を閉じなければ発音できないB・F・M・P・Vの子音は、d・h・b・t・dなどで代用してもよいでしょう。その他の音は、できるだけ正確に発音するようにしましょう。
(3)慣れてきたら何もかまずに同じことばでトレーニングを続けます。

 

Q035
速いテンポの曲を歌うとき、言葉がうまくついていきません。早く口がまわらなかったり、言い間違ったりします。うまく言えたときも、急いで言っているように聞こえ余裕がありません。
A035
言葉を話すときに、口を開けすぎてはいませんか。唇やあごの運動にエネルギーを多く使うと、言葉にするときに喉、舌の運動にエネルギーや気持ちがいきません。バランスよく、喉、舌、唇、あごの4つの運動機能が働いているかをチェックしてください。Q030から挙げてきたトレーニングを充分に練習してください。

<言葉のトレーニング>
 ここではアナウンサー、役者さんなどの基本トレーニングとして使われる言葉の練習を紹介します。単に早口言葉のように速くしゃべるのではなくお腹から声を出し、言葉にメリハリをつけて発声します。

子音のトレーニング〔あいうえおの歌/北原白秋〕
 あめんぼ赤いなアイウエオ 浮藻に小えびもおよいでいる
 柿の木栗の木カキクケコ きつつきコツコツ枯れけやき
 ささぎに酢をかけサシスセソ その魚浅瀬で刺しました
 立ちましょラッパでタチツテト トテトテタッタと飛び立った
 なめくじのろのろナニヌネノ 納戸にぬめってなにねばる
 鳩ぽっぽほろほろハヒフヘホ 日向のおへやに笛を吹く
 まいまいねじまきマミムメモ 梅の実落ちても見もしない
 焼き栗ゆで栗ヤイユエヨ 山田に灯のつく宵の家
 雷鳥は寒かろラリルレロ 蓮花が咲いたら瑠璃の鳥
 わいわいわっしょいワイウエオ 植木屋井戸がえお祭りだ

 

Q036
私は、ヴォーカリストですが、とにかく、もの覚えが悪く、肝心の詞が覚えられなくて困っています。覚えたと思っても、すぐに忘れてしまいます。どうしたら、恥をかかなくてすみますか。
A036
意味がわからないまま歌詞を暗記するのは難しいし、一度覚えてもすぐに忘れてしまいます。そのヴォーカル科の大まかなストーリーを頭に入れておくのが歌詞を覚えるコツです。歌詞の意味を充分に考え情景を思い浮かべながら覚えていくようにすれば、ストーリーを追うことによって、言葉がしぜんと出てくるようになります。その際、歌詞はメロディと一緒に覚えるようにしましょう。前奏が始まったらしぜんにメロディと共に言葉が出てくるようになるまでがんばってください。

 またあなたの場合、苦手意識がプレッシャーとなってますます覚えられなくなっているということもありえます。歌詞を一語でも歌い損じたら途端に曲が台なしになるという考えは、この際、捨てた方がよいでしょう。詞を少々忘れたとしても充分にフォローは可能ですプロ手もよく間違えて歌っていますが、顔に出さないので観客にはわからないのです。間違ってもあわてずに、すまして歌い切ってしまうのもプロのテクニックの一つです。

<詞を覚える練習>
 自分の好きな詞を1番だけ抜き出して、その詞の内容を詞に使われている言葉をすべて入れて200字くらいで述べてください。詞の暗誦はそのあとに行ないます。

 

Q037
私は田舎から出てきて、まだ、なまりが直りません。歌っているときにも、ときたま、方言が出ているようで、歌ってからよく指摘されます。アクセントも迷うことが少なくありません。
A037
方言が直らない、アクセントが正しくないことをあまり気にしすぎないようにしてください。それもあなたの個性になります。

 地方によって発音はかなり異なりますが、正しい発声法で声を出してさえいれば、歌のなかではあまり影響することはないでしょう。

 歌詞にはメロディがついています。ですから、話す言葉のアクセント通りに、楽譜が書かれているとは限りません。ですから、メロディにうまく言葉をのせることができれば、話すときのように言葉のアクセントを気にする必要はないのです。しかし、正しいアクセントや発音で話している方が、歌うときでもしぜんに美しい言葉になりやすいので、少しずつ、身につけていってください。

 歌うときに、なまりがどうしても気になるという人には有効なトレーニングがありますので紹介しておきましょう。

<言葉を正しく発音するトレーニング>
 このトレーニングは言葉を音節に区切り、意味やアクセント、イントネーションを包括してしまうことによって“なまり”を修正するというものです。自分が歌う歌の歌詞を使ってトレーニングします。

(1)アクセントやイントネーションを一切無視して1音節ずつ明瞭に、すべて同じピッチ(音の高さ)、同じ音の長さで読みます。イメージとしてはロボットのような機械的な読み方です。
(2)声の高さを高くしたり低くしたり、いくつかパターンを変えてやってみましょう
(3)慣れてきたらリズムだけ歌に合わせ、同じピッチで言葉を読む練習もしてみましょう。

 

Q038
日本語で歌うのがとても苦手です。外国語もうまくないし、日本で歌っていきたいので、日本語でしっかりと歌えるようになりたいのですが、よい勉強法はありませんか。
A038
日本語は、歌としては扱いにくい言葉です。口先でも適当に発音できてしまう言語ゆえに、使い手は深みのない発声に慣れてしまいます。多くの人がイやウの発声でうまく声が出ないのも、普段のままの発声で歌おうとしているからでしょう。そんなわけで、日本語を正しい声の出し方で歌おうとすると、かなり意識的に努力することが必要になります。充分な声域や声量がとれず、言葉も途切れ途切れになってメロディにのりにくいのです。

 日本語そのものを歌いこなすノウハウは、やはり演歌のなかに多く含まれていると思います。ロック、ポピュラーも、字あまりにしたり、カタカナの言葉や英語を多用して歌いやすくするような工夫をしていますが、根本的な解決にはなっていません。

 私自身は、日本語で歌うためにはいわゆる日本人のしぜんな声ではなく、日本語を音楽的言語として発展させたところでのポピュラーな日本語(しっかりと体から出せる声の上にのっかった日本語)を使っていかなくては難しいと思っています。イやウの発声でうまく声が出ないのも、生のままの日本語を使って歌おうとしているからでしょう。そのために、ポピュラーな日本語がどういうものであるのかを知ることです。

 これは、ポピュラーソングで、外人ヴォーカリストが日本語の歌詞をつけて歌ったものを聴くとよくわかります。若干、日本語としておかしいところはありますが、音や声だけを聞くと、日本語としても充分にしぜんに聞こえるわけです。音楽的に日本語をこなすこともできることがわかります。

 さらに、日本語以外の詞もついている曲であれば、原語で歌ってみて歌のなかでのフレーズでの使われ方をとらえた上で、日本語詞で歌ってみてください。随分と違いがはっきりとわかるとおもいます。そのときにそのギャップを埋めていくつもりでトレーニングをすることです。

<音楽的日本語のトレーニング>
 音のひびきや流れをうまく捉え、くずさないようにつなげてみてください。
(1)あい、こい、ゆめ
(2)なんて あおい ひとみ じっとみつめて
(3)パパッパーパパ、ララッラーララー

 

Q039
私は長い間ずっと英語で歌ってきました。発音などは、そんなに悪くないと思っています。しかし、いつも こらのヴォーカリストに比べて、パワーや勢いが劣る気がするのです。特に英語自体も何だかとても違うようなのです。どうしてなのでしょうか。もっと英語らしくきこえるためのコツを教えてください。
A039
日本人のヴォーカリストで英語で歌っている人たちの歌い方をみると、何となく口先で英語を器用に発音しているだけのように感じます。プロの人でもほとんど、英語らしい雰囲気を出して聴かせているだけといってもよいでしょう。

 英語は、強い息を、舌や唇で音とするような言語です。そのため、日本語にない種類のパワー、勢いといったものがあるのです。ひいては、それがヴォーカリストの理想でもある深みのあるしぜんな発声につながるのですが、洋楽のコピーをやっている日本人ヴォーカリストで、その最も根本的な部分までマスターしている人はどれだけいるのでしょうか。発音を聞いたまま、口先でまねているだけで、実はかなり日本人的な英語、カタカナ英語で歌っている人がほとんどではないでしょうか。それではいつまで経ってもあなたが目指すところの「英語らしさ」は出ません。

 小手先のテクニックでこまかすよりも、しぜんな発声を身につける基礎トレーニングを積むことが、最終的には外国人ヴォーカリストと対等に渡り合える実力につながるのです。ですから、体からの深い息をなるべく深いところで声にするトレーニングを続けることです。

 他の国の言葉ですから、たとえ歌であってもそれを母国語としている人と同じレベルに使いこなそうとするためには、相当、使い込んでいかなくては、いけません。

 人前で歌う以上、やはり本当に英語らしい英語で歌うように努力していくしかないでしょう。言語は、単に発音の問題だけではありません。留学や旅行の体験や外国映画などから広く学ぶことをお勧めします。

 

 

[5]声域

 

Q040

声は他の人より出るのですが、どうもうまく歌えません。僕はヴォーカリストに不向きなのでしょうか。

A040

ヴォーカリストに向いている声、向いていない声というのは特にありません。人が賞賛するだけの価値をそこにつけられるかどうかだけだと思います。向き不向きではなく、チャレンジする資格は誰にでもあるということを忘れないでください。

 

 ヴォーカリストは、自分の体を楽器とします。ですから、ヴォーカリストとして充分な声を出すためには、プロとしての楽器、できれば、人並み以上に健康でバランスのとれた体が好ましいです。その上で、声を充分に生かし切れるように使いこなさなくてはなりません。

 

 声質は、一人ひとり違うものであり、ある程度、先天的にも決まってきます。自分の声が気に入らないという人もいるでしょうが、自分の個性を見つけその声を生かす方向で伸ばしていきましょう。そのためには、フォーム、発声、発音などのあらゆるトレーニングをきちんと行っていくことです。そして自分のベストの声をいつでも出せなければなりません。調子がよいときに、良い声が出せるというだけの人なら、アマチュアでも大勢いるはずです。歌うときはいつもある程度以上の声が出せなくてはいけません。ヴォーカリストに特に向いている声というのはありません。人が賞賛するだけの価値をそこにつけられるかどうかだけだと思います。

 

<声を充分に生かすトレーニング>

 体を動かしながら、威勢よくリズミカルな声を思い切り前に出してください。

(1)ルルルル、ルールー、ルーーー

(2)メーン、ドォー、コテッ

(3)ファイト、エイエイオー、ガンバッ

 

Q041

僕はバンドで歌っているのですが、高い声になると、バンドの後で消されて、うまく観客に伝わらないし、テープに入りません。何か高音をうまく聴かせる方法はありませんか。

A041

多くのバンドでの誤りは、ミキシングで、ギターをヴォーカル以上に出してしまうからです。楽器はいくらでも高い音、大きな音が出せます。ヴォーカルを聞かせたいのなら、ギターやバンドの音自体をおとすことです。ただし、ハードロックやヘビメタでは、そういうわけにはいきません。もちろん、本当の原因はヴォーカリストが高い音をしっかりと歌えていないからいけないわけです。ヴォーカルとして体が充分に使いこなせるだける楽器になっていないから、どうしようもないのです。

 

 高い音は、中音域をかなりのレベルまでマスターした上で始めるべきであるというのが、私の考えです。高音での問題というのは、高音をトレーニングする前までに正しくヴォイストレーニングをして、体という楽器をしっかりとつくっておくと、それほど出てきません。感情を表現できる声の出し方と言葉とひびきのバランスをとるということに、おのずと限られてくるからです。

 

 ところが基本がきちんとできていない人が、高音を出すと、それまでに本来片づけなくてはいけなかった問題が山積みになっているわけですから、もはや、どうしようもありません。それこそ、喉を締め、首を締め、二、三音、音域が広がっては、また狭くなるということになり、本来の進歩が止まってしまうのです。そしてくせのついた発声になって喉を痛めてしまう結果となります。

 

 これを根本的に解決していきたいのなら、自分が楽に出せる一番高い音、そこから二、三音下を何度もトレーニングすることをお勧めします。

 

<高い声を喉から解放するトレーニング>

 言葉をしっかりと言える音域のなかで、言葉をひびかせてみましょう。

(1)いまは、もう、だれも

(2)ラッシャイ、ラッシャイ、イーラッシャイ

(3)ハーッ、残った、残った、残った

 

Q042

どうしても高い声と低い声が安定しません。声域というのは、トレーニングで広がるものですか。それとも、声域は生まれつき決まっているのでしょうか。

A042

声域は生まれつき決まっているのかということに関しては、結論から言えば、ある程度の範囲内において、決まっているといえます。声楽の声種はおよそ声の高さで分けられています。女性では声の高い順に、ソプラノ、メゾソプラノ、アルト、男性では、テノール、バリトン、バス、です。声域は、その人の声帯や、体格によって決まってきます。高い方が出すのが難しいのか、低い方が難しいのかは、それぞれに違います。高い声域の人には、低い声を出す練習が必要ですし、低い声域の人には高い声を伸ばす練習が必要です。声域は、練習によって、ある程度は伸びるものです。

 

 普通の人の声域は、1オクターブ半くらいといわれています。これにはかなりの個人差がありますが、歌を歌うのには充分です。それよりも、自分の声域内でどのくらい歌えるかということが大切です。声域を伸ばすことばかり考えている人が多いのですが、自分の持っている声域の声を、より豊かなひびきにすることを、先に考えトレーニングしていく方がよいでしょう。

 

Q043

年齢が増すとしぜんと声域が伸びるから、待っていればよいと、ある先生にいわれましたが、本当に年とともに声域は広がるのでしょうか。

A043

変声期を過ぎた大人ですと、30才を過ぎた後は、年を増すごとに、声質は太くなり、ほんの少しずつ低くなってくるのが普通です。しかし、これは、声楽家、オペラ歌手などに比べ、ロックやポップスのヴォーカリストの場合、ほとんど影響はありません。かえって微妙な声質の変化は、その人の味わいを増すともいえます。若い頃からスーパースターであるレイ・チャールズや、ダイアナ・ロスや、ミック・ジャガーなどは、年とともに声の深みを増してきているような気がします。

 

 一般的には、年をとると男性はやや高く、女性は低くなるように言われています。そして老年になると、ほとんど男女とも変わらない声となるわけです。

 

 声域が伸びるのを待てばよいというのは、あせってくせをつけた発声で歌うよりも正しい発声をしているとしぜんと声域が拡がってくるから、じっくりと取り組みなさいということではないでしょうか。

 

Q044

マライア・キャリーというヴォーカリストは何オクターブも出せるそうです。人間の声というのはいったい何オクターブ出るのでしょうか。

A044

普通の人の声域は、せいぜい1オクターブから1オクターブ半ぐらいでしょう。極端な例では、世界的な声楽家のなかには、4オクターブ以上の声域を持つという人もいるそうです。しかし、これはほとんど例外で、一般的には2オクターブの声域があれば、かなり広い方だといえます。

 

 歌で使える声域は、叫び声や金切り声でやっと出したような高音域の声は使えません。無理なく、音楽的に自分でコントロールできる範囲の声域しか意味がありません。どこまでが、歌に使える声なのかわかりにくいときは、テープに録音した自分の声を聴いてみるとよいでしょう。ヴォリュームがダウンしたり、言葉がうまく言えていない声域は、使えません。無理すると喉を壊すので注意しましょう。

 

Q045

私は自分の声域がどのくらいあるのか、どの音からどの音まで出るのかわかりません。私の声域はどこなのでしょうか。

A045

声域は、ピアノを使うと簡単に調べられます。まず、鍵盤の真ん中の“ド”を弾きます。そこを基準に、まずは一音ずつ“ド・レ・ミ・ファ…”と上げて、それに合わせて歌ってみましょう。そして声が出なくなったところが、あなたの声の上限です。逆に、“ド”から“ドシラソファ…”と一音ずつ下げていって声の出なくなった所があなたの声の下限となります。正確には、女性はその音を、男性はその音を聞いて、1オクターブ下の音を出しています。歌で使える声域は、無理のなく、コントロールの効く声域なので、このように声が届いていればよいというものではありません。従って、上限と下限よりは少し狭くなります。もっと簡単な調べ方は、自分が上から下の音まですべてをギリギリで歌える歌のキーを調べることです。

 

 歌を選ぶときも、自分の声域を知っていれば、楽譜を見れば、自分の声域内におさまっている曲かどうかすぐに見分けられます。この点でも、自分の声域を知っておくと、大変に便利です。

 

<声域のチェック>

 参考までに、声楽家の声域の目安をあげておきます。しかし、ポピュラーの場合は高さに関わらず1オクターブと少しあればよいので、あまり気にする必要はありません。

 

声の高さの目安

女性 ①ソプラノ(高音)

   ②メゾソプラノ(次高音)

   ③アルト(中音)

男性 ④テノール(次中音)

   ⑤バリトン(上低音)

   ⑥バス(低音)

 

Q046

よくキーを聞かれます。私はよくわからないのですが、楽譜のはじめに書いてあるコードネームを答えています。歌でいうキーとは何なのでしょうか。

A046

同じ曲を歌うときでも、人により声域が異なり、歌いやすい高さが違います。わかりやすい例でいうと、カラオケの機械に付いている、キーを変える変調機能(キーコントロール)を思い出してみてください。少し下げて歌いたいなというときは、キーを下げると自分の歌いやすい高さになりますし、もちろん高くすることもできます。このようにキーとはその曲の全体の高さを決めるものです。日本語で言うところの調(ちょう)のことです。

 

 ロックやポップスの場合、ドレミファソラシの音名を、アメリカの呼び方のCDEFGABで呼ぶことがよくあります。楽譜には、よくコードネームという記号が書かれていますが、これは、アメリカの音名が使われています。

 キーの例を挙げてみます。

 

<キーについて>

日本音名    ハ ニ ホ ヘ ト イ ロ ハ

アメリカ音名  C D E F G A B C

 

ハ長調(Cmajor) ニ長調(Dmajor) ホ長調(Emajor)

ヘ長調(Fmajor)) ト長調(Gmajor) イ長調(Amajor) ロ長調(Bmajor)

 

Q047

私は音域が狭く、1オクターブぐらいしか声が出ません。なんとか声域を伸ばして2オクターブ近い音域の歌を歌いこなしたいのですが、どんな練習をすれば歌えるようになるでしょうか。

A047

歌いたい歌の音域が広すぎるからといってあきらめてしまうことはありません。声域をカヴァーするテクニックをお教えしましょう。

 

 歌はだいたい1オクターブと少々の音域で成り立っています。また、一番下の音から一番上の音まで一気に上がったり下がったりして、すべての音域を曲の始めから全て使っているような曲はほとんどありません。歌い出しが低音で始まり、少しずつ上がって、サビで最高音を使っているようなパターンが多いのです。あなたが言うところの音域の広い曲というのは、おそらく高い音が出てくる曲ということでしょう。そういうときは、最高音が自分の一番高い声になるようにキーを設定します。そうすると例えば、低い音からミソドレミファソラと1オクターブ半ほど上がっていくときに、最初のミソは低すぎて出ないと思います。その時にはミソドをソソドとかソドドとか、あるいは、ドドドにして歌詞をつけてみてください。それほど違和感はないでしょう。ミソドはドドドにしてもコードは変わらないのでほとんど抵抗なくできるのです。低音の声はもともと話し声に近いわけですから、語るように処理しても構わないでしょう。もちろん、女性なら裏声を、男性ならファルセットを使えばキーを変えずに原曲通りに歌うこともできますが、自分の歌として消化するならやはりより歌いやすいキーに変えたほうがよいと思います。

 

 声域そのものを伸ばす能力には個人差がありますが、絶対に急がないことです。高い音がただ出るというだけではなくて、歌のなかで使いこなせるようになるには、しっかりとした発声の基礎ができていなくてはいけません。高い声ばかりを伸ばそうと声を無理に使っていると、高い声が出たり出なくなったりするだけで、いつまでたっても落ちつきません。本番で出るか出ないかわからない声では使いものにならないのです。

 

 声域はトレーニングによって確かに伸びますが、それを目的としたトレーニングは歌という最終目的からずれてしまうだけでなく、あせって喉を痛めてしまう危険さえ伴います。歌で何かを表現したいという気持ちを忘れずに基本的なトレーニングを積み重ねていけば、声は必ず質、音域共に豊かになってきます。

 

Q048

僕はハイトーンのヴォーカリストにあこがれています。高い声はある程度出ますが、もっともっと高い声を楽に出し、音域を伸ばし、さらに高い声を出すためのトレーニング方法を教えてください。

A048

歌の勉強やヴォイストレーニングをしたいという人の大半が、高い声を出すことを目指しているようです。演歌、ニューミュージック、欧米のロックなどの曲のつくりも相当高い声まで使っているために、高い声が出せることが歌をうまく歌うための第一条件だと考えている人が少なくありません。

 

 単に高い声を出すだけでしたらさほどむずかしいことはありません。しかし、それは歌を歌うときになんのメリットにもなっていないことが多いのです。3オクターブ出せるといいながら実際は1オクターブも聞くにたえない人ばかりなのです。

 

 歌をうまく聞かせたいのでしたら、あえて高い音にとらわれないことです。ポピュラーの場合は特に自由な表現が許されているのですから、個性を主張する意味でも自分が最も歌いやすいキーで歌った方がよいでしょう。歌のキーに自分を合わせるのではなく、自分のキーに歌を合わせるのです。

 

 それでも転調によって曲の雰囲気が変わってしまうのが気になる、あくまでも原曲に忠実に歌いたいという人は、難しい部分ばかり練習するのではなく、まずは高音以外がしっかりと歌えているかどうかをチェックしてください。本当に歌のうまい人は低音や中音部も十分な表現力でもって歌いこなしています。抑揚がない歌、高音域に達しない歌でもプロの歌い手はしっかりと歌い上げているのです。中~低音がうまく歌えなければ、いくら高音が出ても魅力のある歌にはならないでしょう。それに中間音がしっかり歌えないようでは歌に使える安定した高音が出るはずもありません。

 

 日本人は高音志向が強いようですが、もう一度自分が本当に勝負できる音域、余裕を持って楽しみながら歌える音域を確認してみてください。そこで正しく歌っていれば、おのずと音域は伸びていきます。土台を固めず、間違った高音発声をしていると、いつまでたっても上達できません。

 

 とは言っても、早くプロのようになりたいという意識から、どうしてもあせってしまうという人もいるでしょう。プロの歌には確かに高度なテクニックが用いられているし、高音のフレーズもたくさん出てきます。しかし忘れてならないのは、彼らが本番で聴かせる歌は、彼らがこつこつと積み上げた修練の結果として完成した作品だということです。常に歌が新鮮であり、感動を伝えるために、プロとしての勝負をかける本番に向けてギリギリまで技術を結集させて歌っているのです。

 

 彼らはプロとしての体をもっています。体、声、心が一体となり、その器をめいっぱい使い切って歌い上げてこそ、プロのプロたるゆえんだからです。そしてそれは本来、毎日の積み重ね(トレーニング)の上でしぜんと習得していくものです。ですから、早く音域を伸ばしたい人は相当気合いを入れて基礎からのトレーニングに取り組むしかないのです。器用な人は口のなかを開いたり、ひびきを上にあてたりして高音をとっています。また指導者のなかにはそういう教え方をしている人も少なくありません。たまたま高い音が出ることはあります。しかし、それがいつまでもうまくならない原因になっているのです。「高い声が出るねぇ」という評価は「うまく歌える」ということとまったく違うのですから、本当に身に付けたい人は、正攻法のトレーニングをやってください。

 

 また、高音であごが上がる人が多いのですが、これはよくありません。あごをひいて、お腹に意識をおくことです。音が上に上がるほど、意識は体の下の方へもっていってください。

 

Q049

私の声は固いとかツヤがないとかいわれます。自分でもなんとなくガサついていると思うし、マイクに入りにくくて困っています。声が固い、ツヤがないのはうまれつきなのでしょうか。どのようにしたら治るでしょうか。

A049

これは比較的大きな声を出して歌っている人に多くみられます。まず、マイクのポジションをチェックしてください。大きな声で歌う人は、口からマイクを離しすぎることが多いのです。プロのヴォーカリストが歌う場では、音響も専門の人が調節してくれるのですが、カラオケなどでは声量のない人に合わせてヴォリュームが上げられています。そこで声量のある人が歌おうとすると音割れを起こしてしまうので、思わずマイクを遠ざけてしまうようです。こういうときはマイクを離すのではなくヴォリュームの方を調節してください。マイクのポジションは近すぎず、遠すぎず、位置を正しく定めたうえで、声の質を確認してみてください。

 

 それでまったく直らないようなら、これは発声上の問題です。ケース別に考えられる原因を挙げてみます。声が大きい人の場合は声帯に力が入っていたり、のどが詰まったりしているのが主な原因でしょう。さほど大きな声でない人の場合も、声量は変わらないのに歌うときになると不自然は発声に切り替わってしまって、のどをしめつけるくせがついていることが多くあります。また、小さな声しか出ない人が歌っているときには、どうしてもひびきが出てこないので、マイクを通すと固く聞こえます。また、歌に限らず普段の声から固い場合もあります。

 

 これらすべての声の固さは、その人の声の特徴というよりは、声がうまく使えていないために障害をきたしている状態です。ツヤがない、柔らかみがないというのも、声がうまく使えていないから共鳴していないのです。生まれつきということではありません。

 

 大きな声を出しすぎている人は、トーンダウンしてみましょう。高音は控えて、中、低音域をゆっくりと歌ってみてください。リラックスして、強い息を使わず声を出します。かすれたり、のどにひっかかるのはよくありません。

 

 それ以外の人は息のトレーニングで、少しでもお腹から息が流れるようにしていきましょう。のどから上で歌うのではなく、お腹に意識をもってきて歌うことです。

 

<声を柔らかくするトレーニング>

 以下に挙げる音を使って発声練習をしましょう。

(1)ンガンゲンギンゴング

(2)マメミモム

(3)ンマンメンミンモンム

 

 

[6]声量/フレージング

 

Q050

私の声は、喉で出ているようなのですが、プロのヴォーカリストの歌っているところをみると、全身を使って歌っているように見えます。どうしたら、体から思う存分、声が出せるようになるでしょうか。

A050

声は声帯の振動によってでることには違いありません。声をうまく出すためには、声帯をうまく働かせることとそこで出た声をうまくひびかせることが大切なのです。しかし、声帯だけが声を決めているわけではありません。

 

 人間の体という楽器をヴァイオリンにたとえてみると、声帯は、ヴァイオリンの弦にあたります。そこを振わせて音をだすわけです。直接、弦を振わせているバイオリンの弓にあたる役目を果たすのが、肺から出る息です。息は肺を取り囲む筋肉の働きによって横隔膜を経てコントロールされています。声帯そのものをうまく使うわけにはいかないので、呼吸をコントロールすることによって、周辺の筋肉も含めたヴォイスコントロールを習得していくわけです。ですから、腹式呼吸の訓練が、ヴォーカリストのトレーニングに必修となります。

 

 また、声を大きくしたり、音色をつくりだすのは、ヴァイオリンでいう胴の部分にあたります。ここが、共鳴腔と呼ばれる部分です。体の共鳴腔は、口腔、咽頭、鼻腔などの声を共鳴させたり、拡大させる空洞のことを指します。そこを利用して、声をうまくひびかせることが大切です。

 

Q051

どうも声がうすっぺらく、情熱的に歌が歌えません。うすっぺらい声は直りますか。

A051

うすっぺらい声に聞こえるのは、声の共鳴の問題から起こることです。口の開け方、特に口の奥のかたちが大切です。腹式呼吸をもう一度復習して、母音の口の開け方のトレーニングをしましょう。うすっぺらい声になってしまうときは、口の奥の開け方が狭くなっていて、共鳴が少ないために、深い声が出ないという場合もあります。

 

<声に厚みをつけるトレーニング方法>

  • 口の奥がのどの方まで広がる感じでおくびをしてみてください。
  • その口のかたちを変えないで、声を出します。明瞭な発音でなくあいまいになってもかまいません。

 例:アーエーイーオーウー

 

 このときは口の奥が開いているので、声は出しにくいかもしれませんが、うすっぺらい声ではなくなります。息ばかりもれてしまう人は口の奥の天井に声を当てる感じで、声を出してみましょう。これができるようになったら、あくびのように極端に口の奥を開けなくとも深い声が出せるようになっていきます。

 

Q052

僕はヴォーカリストですが、どうしても声のヴォリューム、パワーに欠けて、歌っていてももの足りない気がします。声がうまく出ないしヴォリュームがないのを直すよい方法は、ありますか。

A052

ハミングのトレーニングが効果的です。息を効率よくつかうためのトレーニングとして、ハミングはとてもよい訓練方法です。

 

<ハミングのトレーニング方法>

 まず小さな声でハミングから声を出しはじめて、だんだんハミングのまま声を大きくしていき、同時に口を少しずつ開けていきましょう。口を開けたときは「ア」の母音で声を出してください。ハミングをするときは、声の意識は鼻のつけ根あたりにポイントを置くようにします。その意識のポイントを口を開けても、変えないことが大切です。腹式呼吸での息も、そのポイントへ当てた感覚のまま、声を大きくしていってください。音程をいろいろと変えて、どの音でも自由にp(=ピアノ、小さい声)からf(=フォルテ、大きい声)まで声を出せるようにトレーニングしましょう。

 

Q053

何を歌っても一本調子に聞こえます。一本調子といわれないためにはどうすればよいのでしょうか。

A053

歌う前に、曲の内容を理解して、どこで盛り上げて、どこで語りかけるかなどといった構成を考えておくことです。強弱やテンポなどもある程度まで予め決めておいた方が歌いやすいと思います。

 

 一本調子になりがちな人は、選曲のときに、ノリのよいビート感のある曲を選びましょう。スローな曲や単調な曲は、簡単に思えますが、逆に歌唱力やセンスが出やすいものなので難しいのです。はじめは、曲自体がある程度、早いテンポのものを歌ってみましょう。曲にうまくのれるように練習しましょう。

 

 自分がその曲をどう表現したいのか、という主張がそこになければ、聴く人には、単なるノイズとして聴こえるだけで、歌い手の心が伝わるはずはないということを、いつも忘れないでください。

 

<声の調子に変化をもたせるトレーニング>

 ここでは強調する部分を変えることによって、言葉に抑揚をつけ、感情を使い分けるトレーニングをしてみましょう。

 下線部を強く言ってみてください。

(1)あなたが 愛した 私の花 ◎(あなたが に下線)

(2)あなたが 愛した 私の花 ◎(愛した に下線)

(3)あなたが 愛した 私の花 ◎(私の花 に下線)

(4)あなたが 愛した 私の花 ◎(私 に下線)

 

Q054

歌に思うように、メリハリがうまくつけられなくて悩んでいます。うまくメリハリをつけるためにはどうすればよいでしょうか。

A054

まず、曲の構成を考えておくことです。歌をうたう場合、曲のメリハリをきかすときと声や言葉のメリハリをきかすときとの2種類があります。声のメリハリをつけたいときは、どこで声を大きくはり上げるかということも大切ですが、小さな声の使い方がより重要になってきます。いくら大きい声でも、初めたら終わりまでずっと大きな声では、単調で一本調子になります。プロのヴォーカリストの“うまさ”は、聴かせ所をふまえて、これを自在に調整しているからです。語りかけるようにするとどんなに小さな声の部分でも聴き手にメッセージを伝えられます。

 

 しかしこの小さな声のときに、腹式呼吸、発音、発声の基本が身についているかどうかが、はっきりとでます。自由自在に声をコントロールできなければ聞かせられません。その上に初めて、言葉の意味や、メッセージを伝えるテクニックがのってくるわけです。大きく歌って盛り上げるところと小さく語るように聞かせるところとどちらのテクニックが欠けても、メリハリのある、聴き手の心に伝わる歌は、歌えません。

 

 そのための基本的なトレーニングとしては、歌詞を詩の朗読の要領で気持ちを込めて読んでみるのがよいでしょう。小さな声で読んだり、大きな声で読んだり、それを組みあわてたりして、表現というものをしっかりとつかみましょう。他の人にきいてもらうか、テープに録音して、気持ちが伝えられているかを確かめましょう。朗読がうまくできないときは、BGMにその曲のメロディをかけてみると気持ちを込めやすくなります。

 

<メリハリ、抑揚をつけるトレーニング>

 長く伸ばすところを変化させてみます。言葉が壊れず、意味がしっかりと伝えられるようにやってみてください。

(1)つーめたい こーとば聞いても

(2)つめーたい ことばー聞いても

(3)つめたーい ことーば聞いーても

 

Q055

スポーツ選手のように体を鍛えることは歌に有利でしょうか。

A055

一般にスポーツ選手は体を使って、何かをやっているという点では、歌と多くの共通する点があるといえます。集中力、勝負強さ、あがり防止、リラックス、基本の繰り返し、状況に応じた瞬間的な判断などのことです。ですから、必ずしもスポーツ選手のように鍛練していくことが歌に結びつくとは限りませんが、声をトレーニングしていく上で有利な条件を備えているとはいえます。体を鍛えることはヴォーカリストにとってのよい楽器づくりと言えるからです。しかし、いくら楽器としてよい体を持っていても、それを効率よく声として使うテクニックを知らなくては、何の意味もありません。よい楽器を正しい方法で歌えば、よい音が出ます。体を鍛え、正しい発声をマスターして声を出せばよりよい歌声になるでしょう。

 

 ちなみにプロ野球の選手や、相撲の力士などは、比較的、歌の上手な人が多いということは確かです。これもアーティストとしての総合力をもっているという点からもスポーツとヴォーカルとの共通点を見い出せるような気がします。

 

<体づくりのトレーニング>

  • 腕立て伏せ臥腕屈伸……10~15回1セットで6セット。
  • 足腰を強くする運動……片足立ちでしゃがむほ立つをくり返す。10回1セットで6セット。
  • 懸垂屈腕……10回1セットで6セット。
  • ディップ……静かに曲げ伸ばし。10~30回1セットで3セット。
  • バック・イクステンション、ベント・ニー・シット・アップ、カーフ・レイズ……ゆっくりとした動作で1セットずつ行なう。

 

Q056

私は、声を張りあげて歌うのが、好きではありません。汗をかきながら、歌っている人をみると、何かバカみたいと思ってしまいます。そもそも歌に声量は必要なのでしょうか。

A056

結論からいうと、声量はあった方がよいことは確かです。声を張りあげたくなければ大きく使わなければよいのです。何ごともないよりあった方がよいのです。

 

 しかし、声の大きさは、あくまでも、自分の歌を相手に伝えるための表現上で必要とされることの一つにすぎません。自分のメッセージが上手に伝えられるならば、それで充分です。激しい気持ちを表現したいときに、大きな声を出さずとも表現できるなら、きっと、その方がよいでしょう。しかし、うまくなっていくにつれ、自分の感情をよりストレートに伝えたくなってくると大きな声が必要となってくることがきっとでてくるような気がします。さらにつぶやくように小さな声で表現するためにも逆に、そこで体を使えなくては歌が通用しません。つまり、器(フォームといってもよい)というのは、大きくつくって小さくできますが、その逆はできないのです。ですから、声量の幅をもっていることは、より豊かな表現ができる可能性をもっているといえます。続けていくほどにヴォーカルとしての世界も広がり、深まっていくことでしょう。そのためには、声をしっかりと出せるところからやる方がわかりやすいし上達するのです。多くの人を感動させるのに、パワーはなくてはならないものなのです。

 

<言葉をていねいにしっかりと発するトレーニング>

 下に上げる言葉を力強く、はっきりと言ってみましょう。

(1)今日も小雪の降りかかる

(2)白い犬と黒い猫

(3)またひとしきり、午後の雨が瞳をぬらす

 

Q057

僕はパワフルなヴォーカリストをめざして、日夜トレーニングに励んでいます。そのためになによりも声量を豊かにしたいのですが、どのような練習をすればよいですか。

A057

声量がある人の歌には余裕が感じられます。そんな様子を見ると、誰しも「声量さえあれば…」と思うようです。日頃から大きな声を出している人が声量が豊かであることは確かです。しかし、それがそのまま生かされないところが歌のむずかしさなのです。

 

 大声で歌えばスケールの大きな歌になるというわけではありません。歌というのは一曲すべてを通じてどのような印象を与えるかが大切なのですから、トータルでのバランスが問われます。最初から最後まで大声で歌っていると、味もそっけもない一本調子の歌になりがちです。特にポピュラーの場合はマイクを通すわけですから、声量=実際の音量ではありません。ヴォリューム調節でいくらでも大きくできるのです。

 

 つまり、人がパワーのある歌を聴いて豊かな声量だと感じるのは、ヴォーカリストの声の大きさそのものではなく、声を大きく聞かせられるテクニックによるものだということです。これは、声量のメリハリのつけ方といってもよいかと思います。

 

 たとえば、自分が出せる声量の60~80%で1曲を歌い通すよりも、20~70%の広い幅で声量を使い分ける方が声は大きく聞こえるのです。この場合、80%の声よりも70%の声の方が大きく聞こえます。

 

 人間の感覚はものごとを相対的にとらえます。最初は大音量にびっくりしても、慣れてくるとそう動じなくなって、そのうち飽きてきます。しまいにはうるさくなって拒絶反応が起きます。それに対し、小さい音量から徐々に大きくなっていくと感情が盛り上げられ、高揚します。そして曲というのは、だいたいそのようにつくられています。ですから声をさらに大きく出そうとする前に、今ある声量を使い分けてみてください。その枠内でしっかりとコントロールできていて、乱れない声が出せるようになれば、それだけでもずいぶんと変わるはずです。

 

 もちろん声が大きく出る方が有利なことには違いありません。大きな口の動きで声を響かせる発声練習とフレージングや息のトレーニングをセットでやってみましょう。

 

 成果がでてきたところで忘れていけないのは、今度は逆に小さな声量でしっかりと歌えるようにトレーニングすることです。これは本当に体を正しく使って歌えるようにならなくてはなかなかできません。豊かな声が出せるフォームが完成して、その上で初めてできることなのです。しかし、その小さい声量が使えなければ大きな声量は生きてきません。プロは小さな声を生かす技術を持っているから、アマチュアがなかなか真似できないようなメリハリをつけて歌うことができるのです。

 

 

[7]共鳴

 

Q058

私の声は、あまりひびきません。声をキンキンとひびかして歌っている人も好きではありません。声はどうしてひびかすのでしょうか。

A058

人間の声も、声帯を振動させただけでは、喉頭原音と呼ばれる、ひびきのないすきま風の音のような、単なる鈍い音にすぎません。この喉頭原音を共鳴腔にひびかせてはじめて話し声や歌っている声となるのです。声をうまくひびかすことは歌うときのみならず、声を出すときには、なくてはならないものです。正しいひびかせ方を充分にマスターして、自分の思い通りにコントロールできるようにならなくてはうまく歌えないでしょう。この共鳴が、声量のコントロールや歌のメリハリを決めていきますから、声のひびかせ方はヴォーカリストにとって重要なテクニックとなります。

 

 ヴォイストレーニングでリラックスしなくてはいけないのも、初心者はこのひびきを邪魔して生かしていないからです。

 

 特に加えておくなら、声がキンキンとひびいている人は、正しい発声をしているわけではありません。首から上だけで歌っているからそうなるのです。そういう人は一見ひびいているようでも、マイクに均一にひびきが入りませんし、言葉が聞きとりにくいのですぐわかります。

 

Q059

私は、アとエの音では歌いやすいのですが、イやウの音が苦手です。アとエはひびくが、イとウはひびかないのです。特に高い音になって伸ばすときには、全く声になりません。イとウが出てくると歌が難しくなるといってよいほどです。

A059

日常会話のときでも、日本語のイとウの母音は誰でもひびかせづらく浅く平べったくなりがちです。ア、エより、発音するときに口の中が狭くなるためです。こういうときは、苦手な音だけを練習するよりも、うまく出せる音にその音をとり込んでいくようにしてください。

 声楽の練習法でよく使われるトレーニング法で、アイウエオの5つの母音を同じようにひびかせるためのトレーニングがありますので、やってみてください。

 

<イ、ウをうまく出すトレーニング>

 ア→エ→イ→オ→ウの順で声を出します。

 まず、アの母音を出してください。口の中のかたちを変えないつもりで順にア→エ→イ→オ→ウを切らないでつなげて声を出します。音の高さは、自分の出しやすい音でよいでしょう。

 このトレーニングをするときには、顎を手でさわって、どの母音でも顎が動かないようにすることです。母音から母音への移り目をスローに口のかたちをほんの少し変えていくような感じで行ないます。アーァエーェイーィオーォウーの感じでやるとよいでしょう。

 

Q060

僕は、ヴォーカリストとして、けっこう高い音まで楽に出ます。きれいに上の方までひびくのです。でもプロの人に比べてひびきがうまくまとまらないように感じています。パワーも出ません。何が違うのでしょうか。

A060

高い音が苦労しないで出る人には、ちょっとしたコツで浅く口先だけでひびかせて歌っている人が多いようです。そのため、出ているひびきが四方八方へ拡散して、まとまりに欠けてしまいます。ひびきをまとめるために効果があるハミングでトレーニングしてみましょう。

 

<ひびきをまとめていくトレーニング>

  • ひびきを集める目的で行うハミングは口の中を閉じ、唇も軽く閉じます。その状態で鼻のつけ根を意識してハミングをします。このときも、息をお腹から送ることを忘れないようにしてください。姿勢は歌の基本姿勢をとります。目線は、自分の目の高さより少し上の方の一点を決めて、見つめます。声をそこにめがけて出すようにすると、ひびきがうまくまとまります。

 

  • 口の中は狭く閉じて、セミの鳴き声をイメージして、ミンミンミンミン…(MinMinMinMin…)と声を出してみましょう。姿勢、目線などはハミングと同じ要領で行います。少々平べったい感じの声になってもよいでしょう。口の中をひびかせようとして口を開けすぎると、このトレーニングの効果がなくなってしまうので注意してください。

 

Q061

ひびきが一定に保てません。どうすればよいでしょうか。

A061

まず、一つの原因として考えられることは、声を出しているときに、口の中や唇のかたちが、微妙に変わってしまう場合です。唇のかたちに気をつけていても口の中はほんの少しかたちが変化するだけで、ひびきは大きく変わってしまいます。試しにアの母音で歌いながら口のかたちは変えずに、舌を前の方と後へひっこめたりしてみてください。これだけでも、ずいぶんと音色が変わるのがわかると思います。

 

 次に顔の角度が変わっていないかチェックしてみましょう。全く体を動かさずに歌うことは無理ですが、無意識のうちに頭がゆれていたり、顎が前に出ると、ひびき、音色も一定しない原因になります。また、歌っているときに目線がキョロキョロしてしまって、視点が定まれない人がいますが、これもひびきが一定しない原因となります。

 この他の理由としては、苦手な母音があり、その母音だけが、どうしてもひびかない声になってしまうという場合もあります。これは、その母音を普段から気をつけて直していくしかありません。

 

 ただ、初心者のほとんどの場合は、根本的な問題として体からしっかりと深い息を出して行う基本的なヴォイストレーニングがマスターできていないからです。これはブレストレーニング、ヴォイストレーニングを徹底してやるしかありません。きちんとトレーニングしていれば、少しずつですが、必ず上達するので、あせらずに少しずつよくしていくことが大切です。

 

Q062

演歌などで聞くビブラートと洋楽のロックヴォーカリストのビブラートは全く違うように感じます。ビブラートというのはいったい何ですか。

A062

ビブラートとは簡単にいうと、音程を微妙に上下に震わすことです。もう少し詳しく説明すると、

(1)4分の1音から5度ぐらいまで任意の幅をもつこと。

(2)5秒に1サイクルから1秒に5サイクルほどまで、任意の数の音を入られること。

(3)自分の声域のどんな高さ、どんな母音でも思い通りにつけられること。

(4)取ることも、つけることも自由自在にできること。

 この4つの条件が満たされている状態がビブラートといえます。しかし、これは相当に困難であるため、人によってビブラートの定義が違うまま、使われているのが実情です。

 演歌などでは、こぶしをきかせたあと、フレーズの終わりは、ほとんど大きく声を上下に揺らしてしめくくっています。

 私は、しぜんにつく息の流れが声に現れたもの、あるいはそこにわずかに声量を加えたり、ひびかせたりするためについたものが、ビブラートだと思っています。

 

<ビブラートをしぜんに身につけるトレーニング>

 次のことに気をつけて、普段の練習をしっかりやってください。

  • 深い息をしっかりとコントロールして、持続的に出す。
  • フォームの重心は低く構え、視線は一点に集中させる。

 

Q063

ビブラートをつけた方がよいのでしょうか。

A063

歌にビブラートをつけた方がよいという人と、ビブラートさせてはいけないという人がいます。これはビブラートがどういう状態を示すのかが使っている人によって違うので、どちらがよいとは言えないのです。

 ビブラートは、ある程度、演出的効果をねらうならば、つけたいときにつけられて、とりたいときは取り去ることのできるものでなければなりませんし、しぜんにつくのは、目立たなければ構わないでしょう。

 カラオケ好きの人の中には、どんな曲を歌うときでも、ビブラートではなくて声のふるえがついてしまう人がいます。自分の意識でコントロールできないまま、ついてしまう声のゆれはよくありません。しかし、感情を表現したい部分で、意識的にそれを声に拡げて強調することにより、より聴き手に気持ちが伝わるならよいときもあります。

 ビブラートのテクニックが付くと表現の幅は増しますが、これは、何日かでできるようなものではありません。腹式呼吸を正しくマスターし、横隔膜の運動でコントロールするくらいにならなければ、ビブラートなど使いものになりません。これはあくまでも呼吸法でコントロールするものですから、エコーと間違えないようにしてください。

 また、どんな曲にもビブラートをつけた方がよいということではありません。声をひびかせず、言葉をおいていくように歌ったり、語りかけ口調で歌う曲もポピュラーには多いからです。初心者の人はビブラートを学ぼうとは思わずに、まず基本のトレーニングに専念してください。そのうち、しぜんと声がひびき、息と体の動きが一致し感情が声に集まり ってくるとしぜんとビブラートがきいてくるようにになります。

 

<息と声をミックスさせるトレーニング>

 体から深い息を出し、そこにうまく声を合わせるようなつもりでフレーズをキープしてみてください。

(1)アーアー

(2)ラーラー

(3)ハーエーイーオーウー

 

Q064

僕は、洋楽のロックヴォーカリストにあこがれています。そこで、一番困っているのは、彼らのようにシャウトして歌えないことです。どうして、彼らは高音でもパワフルにシャウトできるのでしょうか。また、シャウトして歌うためにはどのようにすればよいでしょうか。

A064

日本人というのは、大きな声を出すのが苦手で、しかも日頃からあまり大きく出さないために、いつまでたっても、声がしっかりと魅力的なものにならないようです。歌よりもまず、大きな声でシャウトできないことには、歌のなかでシャウトできるはずがありません。

 

 外人のヴォーカリストがシャウトするときに使っている声は、とても深く、喉に負担のない発声をしています。それに対して、私たちの声は、すぐに喉にかかってしまいます。体や息が充分に使えないまま、無理に声を出そうとしているために、このようになるわけです。ですからトレーニングでは、腹式呼吸でしっかりと声がお腹から出るようにがんばることです。次に、大きな声で言葉をシャウトできるようにしていきます。そして最後に歌のメロディにのせて、言葉をシャウトしながら歌ったときに、喉にかからず、お腹の底から声を出せることです。こういう順番でトレーニングしていくとよいでしょう。

 

<シャウトするトレーニング>

(1)ヤッホー、オーイ

(2)(自分の名前)

(3)もお いいよお、まあだだよ

(4)あんたに あげええたあ

(5)さよならは あいのことばさあ

(6)はるばるきたぜ はこだてえ

 

Q065

私の声はいつも伸びません。フレーズいっぱいに歌いたいのに息切れをしたり声がかすれたりしてうまく伸ばせないのです。力を入れるとすぐのどにひっかかります。声が長く伸ばせないのを直すことはできますか。

A065

まずあなたの歌いたい歌のなかで、声を伸ばす必要がある箇所を探してみましょう。案外少ないことに気付くはずです。

 

 私がプロとアマチュアの大きな差と思うことのひとつに、歯切れのよさがあります。プロは歯切れよく言葉を切って歌っている中で、要所要所のみ計算して声を伸ばしていますが、アマチュアはどこもかしこも伸ばして歌うために、歌にしまりがないのです。ですから、最初に考えるべきことは声を伸ばすことよりもむしろ、できるかぎりリズミカルに言い切って歌うことです。その上で歌いあげたいところ、伸ばしたいところを厳選してしまうのです。お手本の歌手の通りに歌わなくても構いません。自分なりにアレンジして歌ってみればよいのです。

 

 以上述べてきたように、声を伸ばすこと自体は最優先課題ではないということを理解したうえでトレーニングしてください。

 

 声を伸ばすトレーニングは息のトレーニングと組み合わせて行なうと効果的です。声が伸ばせない原因は、ブレスがうまくできていない場合がほとんどです。泳ぎと同じで、ブレスのタイミングとやり方がうまくないために、フォームが安定せずに、余裕が持てず、歌がしっかりと伸ばせないわけです。フレージングや歌の構成をあらかじめ考えて、適所でブレスができるよう練習しましょう。

 

 さらに、発声のときに息が効率よく声になっていないと無駄に息もれしてしまい、早く息がなくなって声が続かないということになります。これは発声上の問題です。まずは体から大きな流れをもって、息を出せること。それをすべて効率的に声にできること。この二つを考えなくてはいけません。いくら大きな声で歌えても、かすれたりのどに詰まったりしていては、声は伸びません。そういうときは言葉を言うところから始めてみてください。言葉を言うだけならそんなにかすれないはずです。それを少しずつ、大きな声にしていきます。このときには息は比較的効率よく声になっているはずです。この感じが歌うときにもできていればよいのです。

 

 声が伸びないということには、これらのブレス、フレージング、発声の問題が合わさっていますから基礎と実践の両方を組み合わせたトレーニングが必要です。

 

<声を伸ばすトレーニング>

 アの音で声を伸ばします。

(1)10秒×5回

(2)20秒×2回

(3)30秒~40秒

 

Q066

プロのヴォーカリストは皆、声を伸ばしているときに喉が震えているような柔らかなビブラートがついています。私はつっぱったような声になることが多く、声が安定しないのですが、なんとかビブラートをかけたいと思っています。よい方法はありますか。

A066

結論から言うと、ビブラートは上達すればしぜんに身についてきます。声は共鳴によって出るものだから、メリハリをきかせるためにフレージングを工夫したり、高音域で歌ったりしていれば、共鳴の流れが否応なしに声に表れてきてしまうのです。それが歌に心地よいゆらぎを加えるとき、ひとつの技術となるのでしょう。

 

 ですから、私は無理なビブラートもどきをかけないように注意することはあっても、ビブラートのためのトレーニングというのは特に行なっていません。

 

 声が安定しない原因はいくつかあります。伸ばせない場合についてはQ065で述べました。ひとつの音を出すときに音程にずれが生じるのは、息がしっかりと支えられていないからです。もう一度理想のフォームができているかチェックしてください。歌の中のある部分だけ震えたり揺れたりするという場合は、呼吸が安定していないということが多いので、普段から息のトレーニングをしっかりと行なうようにしましょう。

 

 声が安定しないという原因が発声なのか音感なのかブレスなのかをしっかりと把握して適切なトレーニングをしてください。

 

Q067

歌が一本調子で、盛り上げられません。声に張りがないせいかと思います。言葉も不明瞭だといわれるのですが、どうすれば直りますか。

A067

これは普段から注意すべきことです。いつも声に張りがなく、言葉が不明瞭なのに言うときだけよくなるということはないでしょう。逆にいつもハキハキしていて、きれいに言葉を発している人は、歌でもそれほど苦労しないと思います。さらに言葉のトレーニングをなるべく大きな声で、毎日続けていれば必ずよくなってきます。歌のトレーニングをきっかけに今まで意識していなかった普段の声もよくなればすばらしことだと思います。

 

 多くの人が話す声と歌う声をまったく変えてしまいがちです。特に日本人の女性にはその傾向が強いように思います。日本語が音楽的でないために、日本語を磨いて歌うよりも、まったく違う発声をしなくては歌にならないと考えている人が少なくありません。教えている人にこういう人は多く、そのため発声は声がひびけばよいと考えている人もいます。しかし、そのせいで歌っていて何を言っているかわからないとか、歌に流されてしまうことになるのです。特に合唱団にいたとか、スクールで発声トレーニングをしたという人にこういう人が多いのは皮肉なことです。私のところにくる人でも、発声トレーニングを習ってきた人ほど歌にトレーニング臭さが出ます。これは歌として失格です。いかにも発声をきかせているような歌に魅力はありません。このケースは、本人が習ってきたから自分はうまいと思っている人に多いようです。

 

 声に張りがあるというのは、きちんと意味を伝えられる生きた言葉でメリハリがしっかりとついている状態のことです。言葉のトレーニング、特に感情を入れてセリフを読むトレーニングで、正しい意味でのはっきりした発声を身に付けてください。また言葉が明瞭に聞こえているかどうか、しっかりとその言葉の意味が伝えられているかを時々は誰かにチェックしてもらいましょう。これが誰が聞いても簡単にわかるはずです。

 

 鼻にかかりすぎて言葉がはっきりしないときには、いくつかの原因があります。ひどい場合は鼻の病気(蓄膿症、アデノイド)の可能性もあります。これは耳鼻咽喉科の医師の専門領域ですので、みてもらってください。すぐに鼻にかかってしまう人は、鼻にあまり抜けないように意識してください。言葉が言い切れずしどろもどろになっている人は、はっきりと言葉を言い切るためにシャウトするトレーニングをするとよいでしょう。

 

<声を明瞭にするトレーニング>

  • 以下に挙げた音をはっきりと発音してみましょう。

(1)ガヤダガヤダ

(2)ラレリロル

(3)カケキコク

(4)ガゲギゴグ

(5)ダテヂドヅ

 

  • 歌詞や小説等にでてくるセリフを人にきかせるつもりで感情を入れて読んでみましょう。

 

 

[8]リズム

 

Q068

リズム感がないといわれたが、リズム感は生まれつきのものですか。また必要なのでしょうか。

A068

音楽にとってメロディ(旋律)、テンポ(速さ)、リズム(拍子)は大切な要素です。しかし、一般的に日本人は、リズムが苦手のようです。特に、ロックやポップスという欧米で生まれた音楽のリズムを、日本人は得意ではないようです。リズム感に遺伝的な要素がないとはいえませんが、後天的な環境が大きく影響していることは確かです。小さなときから聞いてきた音楽のリズムが違えば、確かにリズム感にも違いがでます。しかし、ヴォーカリストにとって、リズム感がないというのは、致命的な欠点です。

 

 普段からノリのよい音楽を聴き、体でリズムに慣れるように心がけること、さらにいくつかの基本的なリズムパターンを体に叩き込んでおくことです。

 

Q069

リズムに強くなりたいです。リズム感をつけるトレーニング方法を教えてください。

A069

 

<リズムに強くなるトレーニング>

 基本的なリズムトレーニングをしてみましょう。

 ○を何個か書いてみてください。そして今度は、適当に手で叩くところを●で書き込みます。最初はメトロノームなどを使って、等間隔で刻む感覚をつかんでください。慣れてきたら何度も繰り返したり、パターンを組み合わせるとよいでしょう。

(1)1と2と3と

  •  ○ ○

(2)1と2と3と4と

  •  ○ ● ○

(3)1と2と3と4と

  •  ○ ○ ●

(4)1と2と3と4と

   ○ ● ○ ●

(5)1と2と3と4と5と6と

  •  ○ ● ● ○ ○

 

Q070

いつも、私は歌っている途中でリズムが狂うのですが、どのように直せばよいでしょうか。

A070

まず一つは、音楽はいくら複雑なメロディでも、一定のテンポを乱してはならないということです。感情を込めたり、部分的にリズムを崩しても、このテンポの感覚を失っては、音楽がめちゃくちゃになります。ですから、最初のテンポを曲の最後まで保つこと、一定のテンポ感を保つことは基本的に身につけなくてはならないことなのです。リズムについては、自分の歌を歌詞やメロディでなく、必ずリズムで読むことです。楽譜をみて、メトロノームにあわせ、音符をメロディをつけずそのまま打楽器の楽譜だと思って、手で机を叩いてみてください。足は、小節の頭を打つとよいでしょう。これを何度もやって、体に覚えさせてから歌うとよいでしょう。ピアノが弾けるのでしたら、足でリズムをとりながら、右手で弾いてみるとよいでしょう。

 

Q071

僕は4分の3拍子や8分の6拍子など3拍子のリズムが苦手です。3拍子の感覚を身につけるにはどうしたらよいでしょうか。

A071

3拍子は基本的には西欧で生まれたワルツのリズムです。馬に乗ったときのタンタータン、ダンスのズン・チャッ・チャッのリズムです。ですから、ダンスミュージックなどを聴いてみて、体を実際に動かしてみるとよいと思います。

 

<3拍子を身につけるトレーニング>

すべて4分の3拍子、4小節、くり返し記号付。

アクセントの位置→(1)一拍目×4小節 (2)二拍目×4小節 (3)一拍目、二拍目、一拍目、二拍目 (4)三拍目、2拍目、一拍目、二拍目

 

(1)1拍子目にアクセントをつけて手でたたいてみましょう。

(2)2拍子目にアクセント

(3)アクセントの位置をずらします。

(4)アクセントの位置をいろいろと変えてみましょう。

 

 どこにアクセントができても3拍子の123、123、はいつでも体で感じていられるようになるまでトレーニングしましょう。

 

Q072

楽譜が苦手です。特にそこにかいてあるリズムが読めません。最低限これだけは覚えておくとよいことを教えてください。

A072

<基本的な音符>

[単純音符]

◎全、二分、四分、八分、十六分音符

[符点音符]

◎符点二分、符点四分、符点八分の符号

[休符]

◎全、二分、四分、八分、十六分の符号

 

 楽譜は、これらの音符が組み合わされた記号です。楽譜を見て、リズムが理解できるようにがんばりましょう。まずは記号の読み方とその意味をマスターしましょう。

 

 

[9]音程

 

Q073

どうしてもうまく音程がとれません。音感が悪いのでしょうか。音程は、トレーニングによって成果が上がるものなのでしょうか。

A073

音程のトレーニングは、数をある程度以上こなし、慣れてくるとしぜんと正しくとれるようになってきます。

 

Q074

初めて歌ったところ、音痴と言われ、大変ショックです。本当に音痴なのでしょうか。

A074

一般的に「音痴」と言われる人のほとんどは、生まれつきのものではなく、その後の環境に影響された後天的なものが原因であるようです。というよりも、むしろ、正しく音を出すトレーニングをあまりやってこなかったというだけの理由によることが多いのです。ですからほとんどの人は正しいトレーニングを量的にこなしていくことによって直すことができます。

 

 普通は10デシベル以内、高さで約半音くらいの音程のずれは、生理的変動範囲として、は誤差が受け入れらています。上手な人でもときたま音がはずれるときがあるのですが、誰にも気づかれないだけなのです。ですから自信をもってやることが大切です。

 トレーニングによって「オンチ」は直るのですから、くり返し練習するようにしましょう。自分の出している音程が合っているのか心配なときは、テープに録音してチェックすることです。あまり気にしないことです。

 

Q075

いつも、私は同じところで音程をはずします。歌っているうちにくせになってしまうようです。間違いやすい音程はどう克服すればよいでしょうか。

A075

あまり高い音であると、発声がしっかりマスターできていないうちは、フラット(下がる)しやすくなります。また、高いところから、急に低い所を出すときには、きちんと下がらないことも多いようです。このあたりは、イメージを常に先の音においておくことです。4度音程と7度音程がふつう間違いやすく、とりにくい音程です。この2つの音程のトレーニングをしておくとよいでしょう。

 

Q076

私はすぐにメロディを間違えて覚えてしまいます。最初は正しく歌っているのですが、歌っているうちに狂ってしまいます。どのようにすればよいでしょうか。

A076

最初に間違えて覚えてしまうと、それを直すのは大変な労力がいるものです。初めから、正しく覚えることが、一番、賢い方法でしょう。必ず楽譜で正しく読み、リズムも同時に、メロディをフレーズごとに区切って覚えていくようにしましょう。曲全体を一度に覚えようとせず、フレーズごとに区切って、覚えていくのがコツです。このとき、歌詞、リズム、メロディを関係づけて覚えると、前奏を聴くだけでしぜんと歌が口に出てくるようになると思います。

 

 最初にいいかげんに覚えてしまうと、同じ間違いをしてしまうことが多くなるので注意しましょう。また、歌い込んだら必ず、楽譜でチェックすることです。トレーニングのときにも楽譜を手元において、何度も見ることです。歌い込んでくるうちに狂ってくることはプロにもよくあることだからです。ピアノでメロディのみ正しく入れてもらい、そのテープを何度も聞くのもよい方法です。

 

Q077

歌っていると音がはずれます。人に言われるまでわからないときもあります。音痴なのではないかと心配していますが、ヴォーカリストとしてやっていけるでしょうか。

A077

音程がうまくとれない人、正しい音程で歌えない人のことを一般的に音痴といっています。調子っぱずれなのに、本人はちゃんと歌っているつもりでいっこうに気付かないとなれば問題です。

 

 音は空気の振動、空気伝導によって伝わりますが、自分の声は骨を中継として直接内耳に伝わって聞こえてきます。これを骨伝導といいます。ふだん聞いている自分の声は、この骨伝導による声です。ちなみにテープに自分の声を録音して聞いてみると、普段骨伝導によって聞いている自分の声とはかなり違った声であることが分ります。

 空気伝導の音を正確に聞き分け記憶することと、骨伝導による音を正しく再生することのどちらかが狂うと音痴の原因となります。

 

 つまり、脳の聴覚中枢のはたらきに障害のある人は別として、音痴には耳が悪いための音痴と、のどが悪いための音痴の二種類があるわけです。

 

 耳が悪いための音痴とは、音階を正しく理解し、記憶できない人のことです。これは脳が正しく音をとらえられないのです。この音痴を伝音性音痴といい、治療は難しいとされています。この種の音痴は幼少期の環境に左右されやすく、この時期の音感教育に基づいています。

 

 しかし多くの人は、耳はよいが声を出すのがうまくいかないという、のどが悪いための音痴です。これを発声音痴といいます。ふつう音痴といわれる人はこれにあたると思ってもよいでしょう。頭では正しい音が分かっていても、声にすると調子がはずれるのです。これは声帯が思うようにはたらかないためですから、練習を繰り返し重ねれば治すことができます。

 

 音痴を治すには、積極的に声を出し、歌に慣れることが第一です。その際の選曲は、自分の声質にあった歌で音階の高低が少なく簡単なものにしましょう。そして、とにかく音階を気にしないで徹底して声を使いやすくするための発声トレーニングをするとよいでしょう。発声がよくなればしぜんと音程も狂わなくなることが多いです。

 

 

[10]歌とステージング

 

Q078

「よくヴォーカリストの○○に似ている」といわれたり、楽しいステージだといわれるのですが、レベルの高いバンドの人からは「歌がつまらない」、「何を歌っても同じようにきこえる」と言われることもあります。何をどのようにしたらよいでしょうか。

A078

これは初心者にありがちなことです。特に「○○に似てるね」と、誰かに似てると言われるのは、「それ位うまいのかァ」と自尊心をくすぐられ、うれしいものです。でも喜んではいけません。歌い回しというのは誰にでもクセがあります。そのクセの部分がその人だけのオリジナルのような部分です。「歌手の誰かに似ている」というのは単に、そのクセのつけかたの部分が似ていることなのです。この場合も、あるヴォーカリストのクセを知らず知らずのうちにマネしているとみてよいでしょう。また「歌がつまらない」と言われるのはそのクセ以外に聞くに値する部分がほとんどなくて、楽譜通りに声を出しているだけ、という状態なのでしょう。

 

「何を歌っても同じようにきこえてしまう」のはクセにとらわれて、ワンパターンになることや、声色がずっと同じで動きがなかったりしているからかもしれません。

 

 いずれにせよ、歌うときに大事にしなくてはいけないことは、音のつなぎ方を練習して一つの曲をいろいろとアレンジして歌えるようにすることです。

 

 練習の中で曲のサビの部分を念入りにアレンジしてみてください。コピーから入るとどうしてももとのヴォーカリストの歌い方が一番しっくりくるような気がしますが、それではあなたが歌う必要などなくなるのです。なぜあなたが歌うのでしょうか。それはその歌手のものまねをするためではないはずです。他の人は皆、あなたの個性、あなたらしい歌を聞きに来てくれるのですから、そんなコピーを聴かせるのはもったいない話です。

 

 楽譜通りに伴奏テープをつくり、オリジナルを聴く前に自分で歌いこなしてみるような練習も効果的だと思います。

 

Q079

今度、はじめて人前で歌います。まだマイクの使い方がうまくありません。マイクを扱うときに気をつけることを教えてください。

A079

マイクは、口もとから少し離して持った方がよいでしょう。その方がマイクやステージの機器の違いによって、大きく音声が変わってしまう危険がないからです。

 

 モニターは、自分の歌っている声が聞こえるようにチェックしておくことです。バンドの音で聞こえにくければ、アンプの位置などを変えたりします。マイクもできれば歌う前に、どういうふうにきこえるのかをチェックしておくとよいでしょう。他の人が歌っているときに客席で聞いても、ある程度はわかります。

 

 しかし、自分の感覚やノリを最大限に歌の中で発揮するためには、、日頃からスピーカーから耳に聞こえる声でなく、マイクを使わずに体全体の感覚で声をとらえる習慣をつけておきましょう。マイクはあくまで小道具にすぎません。使いようによっては、本物のヴォーカリストになるのを妨げることにもなります。マイクテクニックに頼るのは、基本的な発声のフォームができてからにしてください。でないとカラオケ歌手の域から、なかなか出られなくなります。

 

 また、意味なくコードを持ったり、マイクを必要以上の力で持たないようにしてください。その余分な力が自然な声の流れを妨げます。マイクは小指を中心に単に支えるだけで持つようにして握らない方がよさそうです。

 

 マイクは高音がよく入るので、大きな声や高音のときは、少し離して斜めに構え、逆に低音や語りの場合は口の正面に近づけてください。

 

 スタンドマイクは、振り付けなどで両手が自由にならなくては困るときを除いては、あえて使う必要はないでしょう。

 

Q080

ステージをやっているのですが、どうも、曲の間のMCや、間合いをもたせることが苦手です。MCについてアドバイスがありましたら、よろしくお願いします。

A080

 

MC(Master of Ceremony)は、音楽業界ではステージで曲の合間のおしゃべりを指します。もともとは司会者という意味でした。バンドでは当然、ヴォーカリストがこの大役を担うわけです。MCを使うときは、だいたい次のようなときです。

 

(1)ステージの構成上、少しおしゃべりがほしいとき

(2)前の曲、もしくは次の曲の説明が必要なとき

(3)ステージの雰囲気や流れを変えたいとき

(4)バンドのメンバーの配置替えや交替、ギターやベースのチューニングなどで、間を   

       もたせなくてはいけないとき

(5)ステージの最初やエンディング、幕の前後など、一区切り必要なとき

(6)観客との親密度を深めるため、直接何かを話したいとき

(7)ステージにプラスアルファ、おもしろさをくわえたいとき

(8)次回のステージやレコードなどの宣伝をするとき

(9)歌い切って一息つくとき

(10)ギターの弦が切れたなど、不意のトラブルで間をもたせるとき

 

 ただし、へたにMCを多用するとせっかくのステージの流れを壊したり、歌を聴きに来ている観客の気持ちをそぐことになりかねません。バンドのパブリックイメージさえ、壊してしまうこともあります。

 

 やってはいけないMCもあります。

○まとまりなく、だらだらとした話

○聞いている人の一部しかわからない話

○やる気のなさが出たり、疲れたなどという言葉

○他のバンドの悪口

○観客に関することのミス、地名のミス

○ステージの流れとかけ離れた話

○差別用語、人を傷つける言葉

 

 ともすればうっかり口にしてしまう様子もたくさん含んでいますから気をつけましょう。

 

 MCは、自分たちのバンドのステージのスタイルを考えて、少しずつ取り入れて観客の反応を見ながら慣れていくしかないでしょう。歌と同じくらいにヴォーカリストの個性がでますし、ステージの演出にも効果的ですから、やはりプロとしてのMCができるように勉強するべきだと思います。

 

Q081

ステージでの心構え、気をつけることを教えてください。また、ステージとヴォイストレーニングとの関係を教えてください。

A081

ステージでは、必ず視線を観客の目に合わせることです。やや後方の真ん中の人を見るつもりでよいでしょう。きょろきょろするのは、みっともないのでやめましょう。

 

 観客の視線は、恐いほどステージの上のヴォーカリストの一挙一動に注がれています。意味のない動きは、全て余分なものになって目立ってしまうのでやらないことです。コードを持ったり、マイクを持つ位置を頻繁に変えたり、あいている手をやたらに動かしてはいけません。

 

 イントロ、間奏のときには、何をやっているのかが伝わるようにしなくてはいけません。例えば、間奏なのにマイクを口の前においたままでは、歌詞を忘れたのかと見ている人が心配してしまいます。

 

 ビデオカメラで撮ってチェックするのもよいでしょう。慣れぬ動きをするくらいなら動かないで歌に専念した方がよいのです。ステージで動きたければ、日頃から体がうまく動くように練習しておくことです。

 

  歌の出だしまでに、すでに半分以上は顔つきや姿勢で実力を読まれていると思ってください。つまり、ステージの袖から出てくるときの足取りや、曲を待つ間の振り、MCも含めて、ヴォーカリストは全て自分で演出しなくてはならないのです。

 

 自分が今、どのようにお客さんに見えていて、どう思われているかを常に受けとめ、ただちに次の動きを作り出さなくてはいけないのです。

 

 それには、よいステージをいくつも見ることです。見たら必ずまねてみることです。ライブのビデオを見ながらでもよいでしょう。日頃やらないで、本番でやろうとしても無理です。友人に注意を受けたり、自分で鏡を見たり、ビデオによるチェックをすることは必要です。

 

 歌い終わった後、余裕がなくてもニッコリとすること、おじぎをすること、さらにゆったりと堂々と袖に引っ込むことを心がけてください。人前に出ている間は絶対に気を抜けないのです。失敗しても、うまくいかなくても、そんな素振りは一切、見せないことです。いそいそと慣れぬ足取りで引っ込んだりしては、ヴォーカリストとしての未成熟さを感じさせ、ヴォーカリスト失格の烙印を押されてしまいます。

 

 ステージでは観客の反応や自分たちの演奏に集中し、歌では歌うことに専念します。

 ですから、ステージや歌のときに声のことを考えなくてもすむように、ヴォイストレーニングがあると考えてもよいでしょう。ものごとを頭から忘れるためにメモがあるのと同じです。ヴォイストレーニングのときには、声に全神経を傾けて行うわけです。ヴォイストレーニングをするから、歌やステージがよりよくなることは間違いありません。

 

 ヴォイストレーニングの発声に歌を合わせるのでは、本末転倒です。自由に歌ったりシャウトしたときに体から声と息が離れずについていれば、ヴォイストレーニングは充分いかされていると思ってよいのです。

 

Q082

僕は、オリジナル曲を歌っていきたいと思っています。どういう曲がオリジナルとしてよいのでしょうか。また、ヴォーカリストにとってのオリジナリティということがよく言われますが、そのこととあわせて、オリジナリティについて、教えてください。

A082

最近では、私のところに皆さんが持ってくる曲は、ほとんどがオリジナル曲と称されるものです。作詩作曲を学んで、高性能かつ安くなった楽器を利用して、手軽に皆さんが曲を作っているのをみると、日本もようやく音楽文化を語れる時代になりつつあるのかと思われます。ひと昔前は欧米アーティストのコピーばかりだったのに、今や、誰もが自分たちのオリジナルを追求し始めました。こういうところから、明日のロック界を背負って立つヴォーカリストが生まれてくるのだろうと思います。

 

 バンドは、自分たちの曲で勝負しなくてはいけない時代のようですから、シンガーソングライターや作曲家がバンドの中に生まれてきたのは、何をおいてもよいことです。

 

 しかし、立場を変えて聴くと、ちょっとヴォーカリストの力量と無関係に作っているのではないのかと思いたくなるものが多いのです。それと、すでに世に出てレコードをリリースしているバンドの亜流のような曲が多すぎます。きっと、憧れのバンドの曲の余韻ばかりしか、頭の中にはないのかもしれません。

 

 作曲作詩講座のコード進行表通りに、歯の浮くような歌詞をつけたものも少なくありません。特に、詞のセンスの悪いのは相変わらずです。これは日本の歌の宿命と思わず、何とかがんばって欲しいものです。

 

 要はオリジナルといっても形式だけで、内容がさっぱりないものが多いのです。ヴォーカリストもこちらに見えないし、何をどのように歌っていこうとするのか、バンドの姿勢もわかりかねます。

 

 世界で何万もの曲が出ている中でヒットした曲、あるいは、ワールドチャートのランキング100に入った曲と、あなたが数10曲作った中の1曲も、同じ1曲なのです。

 

 オリジナルというなら、自分たちの音楽が何に根ざし、どういうところにあるのかをしっかりと捉えた上で、自分たちのバンドならではの曲を作らなくてはならないはずです。そうでなくては、オリジナルとはいうものの、単に自分が作ったというだけに過ぎなくなります。表現されるオリジナリティがどのくらいあるかということが大切なのです。ヴォーカリストしだいでよくも悪くもなるとはいえ、その前に、本当にヴォーカリストやバンドの個性を生かす曲づくりをしていることが大切です。

 

 人と違うことをやるのがオリジナルと思っているのは、単なるコピーバンドと同じです。人と同じことをやりながら、そこに埋もれるどころか逆にその人らしさが光る、というのが本当のオリジナリティというものでしょう。

 

 本物のヴォーカリストは、何を歌っても、曲や歌の中にその人が埋もれてしまわないで、その人がそこに存在しているパワーが感じられるものです。その人が曲と一体になって出すパワーに人は心を打たれるのです。このパワーの源がオリジナリティなのです。

 

 オリジナルにこだわるなら、世界にはたくさんのよい曲があります。それをオリジナルに歌う練習が一番力がつくと思います。

 

Q083

コピーバンドをやっています。歌を一曲マスターするための練習方法を教えてください。

A083

(1)歌詞を別の紙に書き写す。

   日本語ならば漢字を使って書く方が意味を把握するのによい。(タテ書きの方がよ   

       い。)

(2)書き写した詞をチェック

   構成、感情表現、歌う世界、メリハリのつけ方などを思った通りに書き込んでみ

       る。

(3)声を出して詞を読んでみる。

 1)ゆっくりと、1つ1つの言葉をしっかりと発音する。

 2)普通のテンポで、やや大きな声で言葉を活かして表現する。

 3)早いテンポで、お腹から大きな声を出して読みきる。

 4)やや大きな声で、ゆっくりと(大胆かつ繊細に)感情を入れて読む。

(4)曲の構成を見る。

   できたら楽器でゆっくりと弾いてみるとよい。ここで言葉と合わせて曲のイメージを

     つかむ。作詞者、作曲者が何を表現したいのかを考える。キーが合わない場合は

     調整しておく。

(5)譜面を読む。

 1)譜面を見ながら、階名だけを読む。

 2)手や足でリズムだけをとる。

 3)リズムをとりながら階名で読んでみる。

 4)リズムに合わせて、言葉を読んでみる。

(6)メロディをつけて歌う。

 1)階名でメロディを歌ってみる。

 2)“ラララ…”でメロディを歌ってみる。

 3)歌詞をつけて、メロディどおりに歌ってみる。

(7)フレージングとメリハリをつける。

 1)歌をドラマチックに、ダイナミックに膨らませて歌う。

 2)パワフルな大きな声で歌う。

 3)高低、強弱をしっかりとつけて歌う。

 4)ブレスの場所を変えながら歌ってみる。(何度も歌いながら、自分に合った歌い方

     を定めていく。)

(8)プロの見本と比べてみる。

   どこが違うのかを次の項目でチェックしてみましょう。(必ずしもプロのヴォーカリス

     トの方がよいとは限りません。)

 1)音程、リズム、言葉

 2)曲のメリハリ、もり上がり

 3)感情表現、歌の世界

 4)個性、オリジナリティ

 5)トータルでのまとめ方、構成、完成度

 

Q084

ステージに出るたびにあがってしまい、本領を発揮できずにいつも悔しい思いをしています。どうすればあがらずに歌えるでしょうか。よい方法を教えてください。

A084

人前に立つときと自信のないものをやろうとするときは誰でもあがるものです。この二つが共にそろっているのがステージですから、あがらないほうがおかしいと思えばよいのです。

 

 プロの歌い手はもちろん、歴史的に名高いオペラ歌手や演奏家のなかにも、毎度舞台であがるという人はたくさんいます。そういう彼らがあがりながらも実力を発揮できるのは、ケタ違いの練習量で身に付いた基礎力が、少々あがってもそれをプラスに変えてしまうほどの力を持っているからだと思います。

 

 さて、あなたの場合ですが、緊張してまったく実力が出せなくなってしまう、あるいは歌えなくなってしまうのはあがったからではなく、あがったら何もできなくなると思い込んであがることを恐れているからです。間違えたり恥をかくことを恐れる気持ち、また、よいところを見せようと気負う気持ちが、歌うことを純粋に楽しもうとする気持ちを邪魔しているのです。歌に失敗したからといって、人が死ぬわけでもないし、それで自分の生命に関わるわけでもないでしょう。だから思い切って楽しむ気持ちに徹すればよいのです。そうすればあがってようが、よい歌が歌えると思います。

 

 また、緊張感はステージの魅力のひとつだということも忘れないでください。極度の緊張の中での1曲3分間、仮にこの緊迫感がなければ何曲歌っても大して興奮できず、歌い終ってもスッキリとしないのではないでしょうか。

 

 それでももう少し落ち着いて歌いたいのでしたら、あがり防止対策をいくつかご紹介します。いろいろ試してみて、これを参考に自分に最も合った方法をつくり出してください。

 

<あがり防止対策>

○練習を積み、自信を持って歌えるようにすること。

○ステージを予め見ておくとか、他人の歌うときに一緒に歌っているつもりでリハーサルをやっておくこと。

○お客さんのうちの一人に聴かせるつもりで歌う。マイクのなかに向かって、あるいは自分に言い聞かせるように歌う。よく、お客の顔を“畑のなかの野菜(カボチャ、ニンジン、ダイコンなど)だと思え”と言います。

○冗談で使われるほど言い古されていますが「手の平に人と書いて三度飲み込む」つまりおまじないめいたものは、動転しているときには気休めでも案外効くものです。

○震えがきたら、全身に一度力を入れて脱力する。

○膝がガクガクするようなら、足の親指にしっかり力を入れてぐっと曲げてみる。あるいは膝の屈伸運動をしてみる。

○深呼吸、または何回も大きく息を吐いてみる。

 また、あがると顔が熱くなったり、息がうまく吐けなくなったりします。上記の対策の前にまず冷たいタオルで顔をぬぐい、深い呼吸を繰り返し行なうとかなり落ちつきます。

 

Q085

歌うまえのウォーミングアップの方法を教えてください。プロのヴォーカリストは本番前にどのようなことをやっているのでしょうか。

A085

これもトレーニングとステージとでは条件が違ってきます。歌うまえに基本的にやっておくことは、体を動かし、全身を柔らかくしておくということです。少し、汗をかくくらいの方が、トレーニングにも入りやすいし、声も出やすくなります。息を吐いたり、声を軽く出して発声練習をしている人もいます。

 

 ステージの出番の前には、歌詞やメロディを確認している人もいれば、口ずさんでいる人もいます。舞台のチェックや衣装や振りつけを最終確認している人もいます。自分の実力を最大限に発揮できるように心身のコンディションを最高の状態にもっていけるようにしていかなくてはいけないわけです。

 

 

[11]トレーニング一般

 

Q086

ヴォイストレーニングを受けています。しかしトレーニングを意識するとうまく歌えないのですが、それでも意識するべきでしょうか。

A086

トレーニングに慣れないうちは誰でもうまく歌えないと思います。たとえば、自転車でも、乗れるようになるまで結構苦労した覚えがあるでしょう。それと同じようなものです。

 

 幼い頃から三輪車でペダルの踏み方やハンドルの操作、速度などに慣れてゆきます。補助つきの自転車から補助をはずして何度も転びながら練習してようやくひとりで乗れるようになります。いつのまにか一所懸命考えながらペダルとハンドルを動かしていた頃など思い出せないくらい、乗っているのがあたりまえのことになるのです。

 

 歌うことも同じです。慣れぬ状態でヴォイストレーニングをしているのは、自転車の乗り始めのようなものです。最初はなかなか無意識にかっこよく乗れないのです。ヴォイストレーニングは自転車の補助輪と同じようなものです。その人の歌を間違った発声にならないように支えておき、やがては一人立ちできるようになるための準備なのです。今のあなたは、まだ補助なしでは乗れない段階なのです。だからヴォイストレーニングを意識しながらでなければ歌えないのでしょう。

 

 自転車を自由自在に操作するのは、はたからみればとても簡単そうですが、補助輪をとれない人から見ると神業のようにも見えます。あるときに、いきなりうまくなっていくのです。それまではヴォイストレーニングをある程度、どこかで意識して歌うようにならざるをえないのは仕方ありません。

 

 しかし、ライブのときは、全くトレーニングのことなど忘れてお客さんのためにがんばるべきでしょう。そのうち少しずつ、トレーニングが歌に反映されて、一致してきます。

 

Q087

タバコやお酒が声に悪いという話をききますが、実際はどうなのでしょうか。

A087

確かに声にとってよくないものです。声帯はとてもデリケートな器官なので、本当に声のことを考えるなら絶対に避けるべきでしょう。

 

 タバコが声帯に悪いのは、吸ったことのある人なら実感としてわかるはずです。肺と口の間に声帯はあります。タバコを吸うとタールやニコチンが煙となって体の中に入ります。声帯はその煙の通りみちに突き出た形になっているために大打撃を被るのです。長い期間、タバコを吸いつづけると、貝がらのようだった声帯がコンニャクのようにブヨブヨになってしまい声がかすれたり、出なくなっていきます。

 

 「酒は百薬の長」かもしれませんが、喉にはよくありません。お酒の影響に関しては、かなり個人差があるかもしれませんが、余程の人でない限り、飲んだら歌わないのを鉄則にしてください。なぜかというと、お酒は血行をよくすると同時に神経を鈍くする働きもあるからです。血行がよくなると声帯でも血のめぐりがよくなり、はじめは調子がよいかもしれませんが、その分、疲れも早く出てきてどんどん充血していきます。また神経が鈍くなるため、耳がきこえにくくなり、発声の感覚もつかみにくくなります。自分の声が聞こえないために、疲れた声帯で声をはりあげがちになり、それが危険な発声であることに気づかない状態になってしまうのです。カラオケボックスへ行ってビールを飲みながら朝まで歌いまくるなどというのは、ヴォイストレーニングをしている人は絶対にやるべきではないと思います。一度無理をしてこわした声帯はなかなか元には戻らないし治ってもクセになってしまうことが多いのですから、本当に無理は禁物です。

 

 ロックのヴォーカリストなどは絶えずタバコを吸っているイメージがあります。これは声帯を痛めつけることによって声がハスキーになると思ってのことかもしれません。しかし、あまり効き目はありません。ギターは音がひずんできても、ただエフェクターをはずせばよいことですが、痛めた声帯はとり返しがつきません。ドスをきかせた叫びは人の心を打つかも知れませんが、喉を正しく使わないと決して長続きしません。くれぐれも気をつけてください。

 

Q088

私は賃貸アパートに住んでいるので、ヴォーカルの練習ができないのですが、 何かよい方法はありませんか。

A088

大きな声を出す練習は確かに近所迷惑です。私の知り合いのなかにも、エレベーターを待ちながら、そこがとてもひびく所だったので歌っていたところ、3階も上の人が歌声を悲鳴と間違えて大騒ぎになってしまったことがありました。大きな声を出している方は気にならなくても聞こえてくる人にとっては迷惑なことです。ヴォーカルのトレーニングは深夜は当然ですが、いつも周囲の人の事を考えて練習する必要があるでしょう。かといってスタジオを借りて練習するのは、そこへ行くまでの時間やお金がかかり、毎日続けるには難しいかもしれません。無理した結果、逆に次第に練習量がへっていくと、身につかなくなります。

 

 ヴォイストレーニングの基本に戻って考えてみましょう。声を出すしくみは大きく3つの作業に分かれます。「息」「声」「共鳴」です。簡単にいうと、息を出すことによって声帯をふるわせ、声帯で出た音を共鳴させるのです。ヴォイストレーニングの練習はこの三点を意識すればよいわけです。ですから、この三点をそれぞれ別々に練習すれば、近所迷惑はかなり防げると思います。そしてそれらを総合した練習だけ、大きな音を出しても大丈夫なときに、そういう場所ですればよいでしょう。誰でもこの、総合した練習が一番楽しいはずですから、これなら続けられるのではないでしょうか。とりあえずここではほとんど音のしない「息」のトレーニングを紹介します。

 

<息>(腹式呼吸)

(1)みぞおちのあたりで水平に体を切った切り口を意識します。(手でさわってみましょ

     う)

(2)その切り口のだ円形を全部の方向へ押し広げるようにして息を入れます。

(3)そのまま、切り口の下の部分から息をはく感覚をみつけてください。((2)の広げた

   だ円形の切り口はできるだけひろげたまま、残り少ないハミガキ粉のチューブをしご

     いて出すようなイメージです)

 (1)~(3)までができるようになったら、今度はそれを使って息の量や長さをコントロ

   ールするトレーニングをします。息の量がわかりやすいように、「静かに!」の、シー

   ッと同じように、スーッと言いながら練習します。

(4)スーッ(ひたすら長く吐く練習、ムラをなくす)

(5)スースーッ(息が残っている状態から吸い直す練習)

(6)スッスッスッスッ(息の瞬発力をつける練習)

 

Q089

ヴォイストレーニング、ヴォーカルトレーニングを学びに行きたいのですが、何を基準に選んだらよいでしょうか。スクールと独学とどちらがよいでしょうか。

A089

ヴォーカルも一つの芸事だと捉えるのなら、しかるべき基本をしっかりとマスターしていかなくては、上達はおぼつきません。自己流でやっている人も少なくないのですが、声に関しては、第三者にアドバイスしてもらった方がよいでしょう。できたら、しっかりと声の判断ができる人につくことをお勧めします。

 

 楽器を教わる以上に、ヴォイストレーニングは、指導者の資質によるところが大きいので、気をつけて選ばなくてはなりません。大手のやっているスクールに入って、ものになった人は甚だ少ないのは、ヴォーカリストに本当に大切なことは、上っつらだけの指導では伝えわらないからです。汗一つかかないトレーニングをやっているところや、リズム、音程のトレーニングばかりをやっているところでは、上達するわけがありません。私のところにも、スクールをやめてくる人がたくさんいます。多くの人は、いかにもトレーニングしましたというふしぜんな歌い方しかできなくなってしまっているので、原点に戻すのにひと苦労です。いくら施設やカリキュラムが立派でも、ことヴォーカルに関しては、そんなことを判断の基準に入れるべきではありません。私は相談を受けても、カラオケでうまくなりたいくらいでしたら、スクールが早いけど、本当のプロのヴォーカリストになろうとするなら、それは遠回りにさえなりかねないとアドバイスしています。少なくとも、日本のスクールでお勧めできるところは、ほとんどありません。そこでは、小手先の技術ばかりでヴォーカリストに最も大切なアーティストの精神を学べる場になっていないからです。

 

Q090

トレーニングを受けるときには、グループと個人とどちらがよいのでしょうか。あるスクールに行ったところ、グループ指導だったので身につかなかったように思うのですが、やはり個人レッスンがよいのでしょうか。

A090

どちらにも一長一短があり、一概にはいえません。ただ、スクールのグループのトレーニングをみていると、楽譜通りに歌を覚えて、皆で歌ってみて、せいぜい、最後に一人一曲歌うくらいです。これでは、カラオケ教室と変わらないので、曲を覚えることくらいしか身につかないのはあたりまえでしょう。

 

 個人レッスンがよいかといっても、これも指導者のやり方いかんです。大体、30分間のレッスンで5~10分発声をやって、歌を4,5回歌わせ、アドバイスして終わりというパターンが多いようです。これも、カラオケの域を出ないので、本当にプロをめざす人には、ものたりないでしょう。共に曲を覚えるところだけが目的です。本当はそんなことは、自分でやるべきことであり、大切なのは声の出し方や歌と声との関わり方、表現について突きつめていくことであるはずです。

 

 私は、グループというのは、やりようによっては、多くの人の声や歌い方を聞く機会がもてるわけですから、そこから学べるものは少なくないと思っています。自分の声はわかりにくいものですが、他人の声の判断は、案外と早く身につきます。先生がどういう声に対して、どのように指導しているのかもわかりますので、自分におきかえてみたときに、具体的に内容がつかめます。さらに、レベルの高いレッスンなら、歌い方から、オリジナリティまで、グループでは勉強することができます。

 

 それに対し、個人レッスンは、個々の抱える問題を個別のノウハウ、最もうまくあてはまるトレーニングなどを使って学んでいくのに最適です。自分がどこまで上達したか、今の課題が何であり、それをどうやって解決するのか、何のトレーニングをすればよいかを常に明確にすることです。これを指導者とあなたとが共に理解した上で進めていくことが大切なのです。

 

Q091

ヴォーカリストになるためにヴォイストレーニングを独習しています。独習でも正しく身につくものなのでしょうか。何かよい参考書があったら、教えてください。

A091

ヴォイストレーニングは、基本を執拗なまでに繰り返す必要があります。ときには単調に感じて、やめたくなるときも出てきます。そういうときに自分に厳しくできる人でなくては独習は難しいでしょう。しかし、絶対にできないものではありません。

 

 トレーニングとか練習というのは基本的には自分でやるものです。それをチェックしたり、新しいアプローチ法やヒントを授かったりするために習いにいくのだと思ってください。そこで、より深いこと、本物のこと、ある種の真理のようなものに触れ、自分の毎日行っていることの意義や効果を再確認し、そして、さらに修練を積んでいくわけです。ですから、私は、そのようなことを自分で盗める(自主的に学べる)場でなくては、あえて学びにいく必要もないと思います。そこにいることで何かトレーニングをやっているつもりになるような安心感しか与えない音楽スクールなどには行っても仕方ないといっているのも、そのためです。

 

 参考書というのも、一長一短があります。言葉や内容をうのみにしないことです。世の中には、そういう考え方や、そのように考えている人がいて、出版社があって、本が出ているという程度に考えてもよいでしょう。

 

 しかし、何もないより、少しでも質のよい本が出ていることは、刺激にも勉強にもなるので、片っ端から読んでみるのもよいでしょう。私の見ているかぎりではヴォーカルに関してはポピュラーの分野では、ほとんどよい本はありませんが、最近出ているなかでは声楽の本の方がよいように思えます。拙書も参考にしていただければ幸いです。

 

Q092

私は、まだ高校生で毎日が忙しくて、時間がとれません。しかし、ヴォーカリストになりたいと本気で思っています。今、毎日できるトレーニングはないでしょうか。また、いくつくらいから、ヴォイストレーニングをやればよいのでしょうか。

A092

ヴォーカリストと年齢ということでいうならば、そこには何の制限もなく、あなた自身の考えによると思います。あなたが、まだ若すぎると思うなら、早すぎるでしょうし、もう遅すぎると思うなら、遅いということでしょう。ヴォーカリストということが何を意味するのかということも、人によってそれぞれ違うでしょう。三十歳からでも歌っていきたいのだという人がいても、全く遅くないでしょうし、五、六十歳で歌いたければ歌ってもよいわけです。こういう問いへの答えは、所詮その人が自分の行動で出していくべきことだと思います。

 

 特に若い人に言っておきたいことは、二十歳から始めるのは遅すぎるとか、二十五歳ではもう引退だ、などと、今の日本のおかしな風潮に自分の考えを左右されないで欲しいということです。ヴォーカリストの場合は、そこに出てくるメッセージを支えるのは、人間としての総合力みたいなところがあるのですから、年齢など、本当に関係ありません。二十歳でも、うまい人はうまいし、十年やっているといっても、へたな人はへたなのです。だからこそ実力派志向でいくなら、正しくトレーニングしなくてはいけないわけです。

 

 そのために私は、どっぷりとトレーニングに集中できる二年間をとりなさいと言っています。二年くらいたたないと、本当の意味で体は変わらないからです。

 

 それまでにやっておいて欲しいことは、ブレスのトレーニングと、言葉のトレーニングです。これを正しく教えてくれる指導者について学ぶことです。私のところにも、年に1、2回、沖縄や北海道からも講習を受けにくる人がたくさんいます。そういうところでエッセンスを学び毎日続けることが大切です。

 

Q093

僕はバンドを組んで、ヴォーカルをやりたいのですが、よいメンバーが集まりません。雑誌などの告知欄で捜したり、スタジオのビラをみて応募してみるのですが、いつもうまく続きません。よいメンバーをみつけ、長続きさせる方法を教えてください。

A093

実力のあるヴォーカリストには、相応のバンドのメンバーが集まります。少なくとも今の日本では、実力のあるヴォーカリストは希少価値で多くのレベルの高いバンドはそういうヴォーカリストを捜しているからです。

 

 そのように考えると、まずは自分の力をつけることでしょう。初心者バンドはあくまで初心者であり、音楽のまねごとをやっていたからといって、先が開けてくるわけでもありませんし、力もつきません。だから、長続きもしないのです。

 

 自分がどのような歌をどう歌っていきたいかということがはっきりしないと、どのようなバンドがよいのかも、わからないではありませんか。

 

 一般的にヴォーカリストより、バンドの方がレベルが高いので、初心者のヴォーカリストの立場はとても弱く、バンドのなかでも、苦労することが多いようです。バンドのメンバーも、ヴォーカリストの育て方など知りませんので、すぐにオリジナルのキーで相当に高音を必要とするような歌い方を要求して、そのヴォーカリストの将来を壊してしまうことも少なくありません。

 

 刺激を得るのに、バンドの仲間とわいわいやるのも楽しいでしょうが、基本の力をつける時期にはトレーニングする時間や余裕がなくては、困ります。

 

Q094

ヴォーカリストというのは、皆、ヴォイストレーニングをやっているものなのでしょうか。何となく、トレーニングをしてヴォーカリストになれるというのは信じられないのですが、本当になれるのでしょうか。

A094

これも、ヴォーカリストの定義をはっきりとさせないと答えらないことです。あなたが、どういう人たちをヴォーカリストと思っているかによっても、答えは違ってくるでしょう。俳優やタレントさん、コメディアン、CMのモデルさん、若くて顔が可愛いだけのアイドルが、すぐに歌いだす日本では歌を歌えばヴォーカリストですが、こういう人たちがヴォーカリストだとすると、きっとトレーニングよりも別の要素が占める割合が大きいでしょう。その辺のライブに出ているヴォーカリストでも同じです。あなたが本当にすごいヴォーカリストだと思って聴いた人が何人いますか。

 

 ちょっと歌がうまければライブに出れる今の日本において、このレベルに達するのは、トレーニングとか勉強といったものは、さほど必要ないでしょう。

 

 しかし、音楽や歌は国境を越えるといわれます。私はヴォーカリストと名乗るくらいであれば、体一つで世界中のどこにいっても、通用する力をつけることを目指してください。ヴォーカリストといいながらも、一曲で認められないなら自己満足にすぎないと思っています。

 

 そうでなくては、カラオケ名人やサラリーマンや社長さんのなかでも本当に歌のうまい人がいるのですから、区別できないわけです。つまり、ヴォーカリストとは歌うために強化された体をもっている人のことであり、そういう定義があってはじめて、そのためのトレーニングというのがあるわけです。

 

 どうせ日本人だから、もう年だから、今までやってこなかったから、ヴォーカリストになれないというのは、言い訳にすぎません。最高のレベルをめざしてやるべきだと思います。ヴォーカリストをめざしたいのたら、何となくトレーニング、ではだめでしょう。やるならしっかりしたトレーニングをやることです。ヴォーカリストが皆、ヴォイストレーニングをやっているわけではありません。今の日本のポピュラー界では昔ほど本当に厳しいトレーニングについてはあまり行われていないように思います。ヴォーカルのスクールやヴォイストレーニングの教室は多くなりましたが、あまり効果をあげていないようです。ヴォイストレーニングをやっているというヴォーカリストも多くなってきましたが、何となく単に曲を正しく教えてもらうだけで、いつまでたっても表面的なことをやっているだけにすぎないことが多いようです。

 

 私自身は、本当のヴォイストレーニングとは、声を出す楽器である体そのものを、よりヴォーカリストとして使えるところまで変えていくものであるという立場でとらえています。ですから、プロのヴォーカリストのもっているもの、何年もかかって身につけたものをいかに早くトレーニングによって体に覚えさすのかということが中心です。

 

 ヴォーカリストになれるとかなれないということではなく、最低限度の力、プロとしてやっていくのに必要とされる実力をつけるのがトレーニングなのです。

 

Q095

ヴォーカリストをやっていく上で楽器を弾くことができた方がよいのでしょうか。音楽理論やリズムトレーニングも専門的に習った方がよいのでしょうか。

A095

歌も音楽であることにおいては、音楽の知識や理論も最低限必要です。楽譜が全く読めなくともヴォーカリストにはなれますが、それほど大変に労力のかかることではないので、こういうことを考えた機会に勉強を始めてはいかがでしょう。

 

 ヴォーカリストでありながら、バンドのベースやギターの音のチューニングがはずれているのが全くわからなかったり、歌のテンポやドラムのリズムを指示できないというのは、決して得なことではありません。

 

 自分のステージをするのに最高の条件づくりをすること、これもヴォーカリストの大きな役割の一つです。

 

Q096

ヴォーカリストにとって、声のよくなる食べものとか、食べるとよくない食べものなどはありますか。

A096

食べものに関しては好きずきですから、あまり、気にしないことではないでしょうか。辛すぎるものや刺激の強いもの、冷たいものなどはよくないといっている人もいますが、私自身は、あまり関係ないと思っています。もちろん、とても素晴らしい声を聞かせなくてはいけない一流のクラシック歌手などは別かもしれませんが、ポピュラーのヴォーカリストでしたら、食べもので、歌が影響されるような頼りのない声の鍛え方をすべきではないでしょう。

 

 ただ、喉も楽器ですから、楽器として考えるなら、よいこと、悪いことというのは、あります。たとえば、歌ったり、練習しているときに急に冷たいものを食べたり、飲んだりしないことです。たとえば、喉がほてってきたからといって、氷をかじったり、コーラをがぶのみするのは、よくありません。炭酸飲料もあまりよくないでしょう。

 

 食べものは、スポーツ選手と同じで、栄養価の高いものがよいでしょう。インスタントラーメンの生活から、パワフルな声は難しいでしょう。ちなみに声楽家は、大食かつ美食家が多いそうです。

 

Q097

一日どのくらいヴォイストレーニングをすればよいのでしょうか。また、風邪のときはヴォイストレーニングをしてもよいのでしょうか。

A097

基本的にヴォイストレーニングに関しては、質のよいトレーニングを正しく短時間集中して行うことです。だらだらとやっても効果がありません。何時間やるかということよりも、毎日わずかでもよいから続けてやることの方が大切です。声が出せないときには息を吐くトレーニングだけでもよいから、一日も休まず続けてください。

 

 そういう毎日のなかで少しずつ、ヴォーカリストとして使える体となってくるのです。 本当に正しくトレーニングをすると初めての人なら十分くらいで疲れてしまいます。日本人は正しい姿勢を維持することに慣れるだけでも大変に苦労します。

 

  私が個人レッスンでみていますと、大体、十五分くらいでそのときの一番よい状態がでて、三十分くらいまで保てるかどうかという人が多いようです。それ以降は、やや質的におちていきます。集中力も同じことでしょう。

 

 風邪のときの判断も個人差があり、紙面で答えられる問題ではありません。喉が痛いときはやめた方が無難でしょう。ある程度、基本ができてくると、風邪によって声がでなくなったり、喉に影響がでることはなくなってきます。

 

 しかし、こういうときはトレーニングにふさわしい体調ではないのは確かです。集中力も落ちます。その人のキャリアやレベルとともに、喉の強さとも関わってくるので最終的には自分で判断していくしかありません。しかし、トレーニングの目安としては、喉が痛くなる前にやめるということです。次の日に喉が痛くなるのは、間違ったトレーニングであるか、やりすぎたための結果だと思ってください。

 

Q098

寝不足や不規則な生活は歌によくありませんか。また、体力がないとヴォーカリストになれないのでしょうか。

A098

これもヴォーカリストとして、どのようなスタンスで考えていくかということによりますが、スポーツ選手にとってよくないことは、ヴォーカリストにとってもあまりよくないと思ってください。しかし、一睡もできなかったからといって歌えないというわけではありません。

 

 ただトレーニング中のときには、毎日、自分の体調と声とを丹念にチェックしていくわけですから、あまり不安定な要因をつくらないことにこしたことはありません。

 

 寝不足だと声が出にくくなったり、喉にかかって、ひびきにくくなります。ということは、やはり、声にとってもよくないということなのです。

 

Q099

自宅で声を出すために防音ルームのユニットを購入しようと思います。いろいろなメーカーから発売されているようですが、広さとか、あればよい備品(オプション)について、教えてください。また、いくらぐらいのがよいですか。

A099

防音ルームに関しては、私もいろいろな方の相談を受けて、実際にアドバイスしてきました。できたら、専門メーカーのもので、担当者がしっかりしているところを選ぶことです。

 

 よく大手のメーカーで出しているものを全く知識のない下請けの業者さんが設置してトラブルをおこすことがあるようです。防音ルームに関しては、単に組み立てればよいというものではないからです。

 

 防音ルームの広さや高さは、事情が許すのならば、大きいほどよいと思います。しかし、ヴォーカリストが一人で練習するのですから、狭くとも場所が確保できるだけでもよいとしなくてはいけないかもしれません。価格は、ユニット式のもので百万円近くします。防音工事だと、もっとかかります。

 

 スタジオ代で毎日千円近くかかるのでしたら、二、三年で回収できる投資額だと思います。防音ルームは、外からも物音が入らないので、録音スタジオなどでテープづくりをしている人には一石二鳥かも知れません。

 

 防音効果としては、ガラス製で30デシベル、普通のものは30~40デシベルの遮音効果がある、となっているようです。メーカーのショールームに行って、実物を必ず試してみることです。ヴォーカリストやピアノの最大音量を出すと、大体そのユニットの外には音が漏れるものです。ただ、そこでかなり小さくなるので部屋の壁や家の壁といったところで完全に外に音が抜けなくなるといった具合です。入れたからといって家の中の人に全く聞こえない精度のものではないので念のため。

 

Q100

ヴォーカリストになるため、あるいは、ヴォイストレーニングのために参考となるような言葉があれば教えてください。毎日の練習のときの信条、励みにしたいと思います。

A100

自分の中に音楽・歌・世界を作り上げていく喜びを得るためには様々な試練が待っています。以下の心得を胸に刻んで努力してください。

 

<ブレスヴォイス・トレーニング信条>

(1)練習は自分で行うもの

(2)一日トレーニングして、一日寝て、1つ身につく

(3)一日休めば三日戻る

(4)伸び悩んでいるときが伸びているとき

(5)悩みを課題にすること

(6)できると思わなくては何もできない

(7)人は結果しかみない。結果を出すことが目的である

(8)常に過程(今日一日)を大切にすること

(9)基礎づくりにかけた歳月と努力が器となる

(10)オリジナリティを磨くこと、自分の価値を発見すること

(11)行動が習慣を変える

(12)すぐれた人間のパワーと行動力を糧とせよ

(13)他から学べ、盗め 一から十を学べ

(14)才能とは続けること、信じること

(15)急がずあせらず、自分のペースで、コツコツと

 

 

あとがき

 

最後に101問目の質問に答えたいと思います。

 

Q101

どうすればヴォーカリストになれるのでしょうか。

A101

ヴォーカリストは体ひとつですべてを表現する演奏者ですから、まずはヴォーカリストとしての体ができていることが第1条件です。さらに、これは芸ですので、全力をぶつけてくれなければ真の評価はできません。つまり答えは自分のなかにあって、その器の大きさを決めるのも自分自身というわけです。アーティストが本当の実力をつかむために集まる場としてブレスヴォイスという道場を開き、日本全国、いや世界の数多くのヴォーカリストやその卵たちと過ごしてきました。最近、ようやくこのレベルでの問答が成り立ち、私が取り組んできた活動が実を結ぶのを見る思いで、大きな喜びを感じています。

 

 結局、ヴォーカリストが表現するということは、声を殺して生かすことなのです。感情を込め表現するほどに声は朗々とでるものではなくなります。それでも日夜多大な努力をして培ってきた本当の発声や技術は、それを突き破って聞いている人の胸にダイレクトに響くのです。発声法でなく歌、技術でなく心、支柱、余裕、そして余韻となって歌を伝える力となります。この真実の扉は、毎日汗だくで努力している者にしか開けられません。本書から少しでも言外にある真実を感じていただけたら幸いです。熱き心をもち、私たちとともに汗を流したいという人との出会いを楽しみにしています。