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 〜あとがき〜

 「福島さん、まだそんなことやっているんですか」と、よく尋ねられます。最近は、「ライフワークですから」というと納得してもらえる。便利なことばです。

 確かにワリに合わないことで、高尚な道楽として、あきらめつつ続けたのは、何よりも私自身、歌や声から受けた恩恵は、限りなく大きかったからです。

 感性、判断力、話力(わけのわからない人たちのまえに15年、立ち続けたら、力はつく)、文章力(音の世界を活字にすることに比べたら、どんな文章も屁でない)、コミュニケーション力、さらにさまざまな人間のさまざまな面を知りました。いえ、何よりもいろんなことに打たれたとき、生きる力を与えられてきました。

 いつのまにか、そこで磨かれたもので、多くの企業や学校の顧問やアドバイザー、執筆、講演も仕事となっています。研究生のスタジオとその運営資金が欲しくて始めた、企業ブレーンも続いています。

 しかし、何にも増して、この使命感でつくった研究所は、私に年50回近くの講演や実習、週2〜3回のレッスンを外での仕事以上に私に課してきたのです。2、3年でやめる研究生の多いなか、そこで音楽や声に接している私のことを客観視するなら、これで力がつかないわけがない?ともいえます。

 本文中、研究所に触れたのは、環境とシステム、そして場、生活を確保することこそが、芸の土俵だからです。

 私の語ることは、私の非力ゆえ、充分に伝わらないかもしれません。ただ、私の生きたことは、私を介して、優れた芸や歌は、どこかで伝わっているという手応えがあることが、これまで続けてこれた理由かもしれません。芸事は、しょせん生き様、あり様でしか、受け継がれないし、さらに先人の業績を破壊してしか、新たに切り拓けないものでしょう。これからすべてをまとめていきます。その踏み台、しかばねとなれるなら、本望です。

 研究所の存続は、毎年ずっと考えてきました。今では、いつ消えてもよいように吹っ切れたところです。私とか研究所に頼らず、本人が一人でやれることが大切なことです。安易な拡張こそ、私の一番恐れた日本人の群れの犯す愚に陥ってしまうからでもあります。

 もっと憎まれ悪者になり、発言、行動で私を超えて社会へ発信していく人材を刺激したい、その体力、気力を保ちたいと思っているのですが。今の事なかれ主義の時代、この歳になると「いい人に思われたい」など世俗なみの欲が勘を鈍らせまいかと恐れつつあります。他方で、充分にやってきたようで、何ら、やれていないのも、わかるのです。

 日本というのは、ほとほとやりにくい国で、有能な人材が教育に関わりたくなくなることで、悪循環になりつつあるともいえる。と、ぐちっても仕方ありません。ひたすら生きるのみです。私の芸術論、教育論としても、お読みいただけたら幸いです。言いたりないことは、たくさんあります。続きは、当HPでお読みください。

福島 英





Copywrite BREATH VOICE TRAINIG LAB.

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(拙書「自分の歌を歌おう」(音楽之友社))




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