ブレスヴォイストレーニング研究所

 

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目次

「ヴォイストレーニング大全」のご案内 [内容について]

[1]「ヴォイストレーニング大全」刊行について

1)テキストの特徴 2)テキストの企画意図

[2]INDEX

1)本文のINDEX 2)Ⅳ知識編の索引   3)正誤表

[3]一般の人のためのプログラムメニュ

[4]「ヴォイストレーニング大全」関連の参考応用文献

[5]「ヴォイトレを始める前に」(「大全」のためのまえがき)

[6]「最近のヴォイトレの状況と、ここまでの歩み」(「大全」のためのあとがき)

 


早くも増刷になりました、感謝。第2版 2021年8月(初版購入の人は、こちらを)

「ヴォイストレーニング大全」のご案内

CD2枚付(リットーミュージック刊)[2,700円+税別]

Amazon       https://www.amazon.co.jp/dp/4845634376/

 

 

[内容について]

 

本書は大きく「ことば編」と「歌唱編」の2つに分かれています。(CDも各1枚)

「ことば編」では、母音、子音の発声・発音から、アクセントやプロミネンス、間などの基礎技術、せりふ、ナレーション、朗読、口上などの、さまざまなことばの表現に関する基礎トレーニングを紹介しています。

ビジネス面では、司会、コミュニケーション、謝罪まで、具体的な文例とともに、CDで無理なくビジネス力を育成させる練習を加えてあります。社員教育、就活ほか、コミュニケーションに役立つ基本文例(あいさつ、あいづち、ねぎらいなど)を収録しました。感謝、共感ワードもマスターしましょう。人前で話すことや会話での基本の声の見直しから、魅力アップに使えます。婚活、自己アピールにも有効です。

中堅、年配者にも、充分に「声という切り口で魅力アップ」できるように構成しました。落語から般若心経まで、声、表情、呼吸とフィジカル、メンタル面での調整と喉を中心にした口腔ケアで、アンチエイジングにも効果的です。(参考:拙著「人は『のど』から老いる 『のど』から若返る」(講談社))コミュニケーションに悩む人にもお勧めいただくとありがたく存じます。

 

「歌唱編」では、声量、声域、音程、リズムなど、本格的な歌唱のための基礎から応用トレーニングです。合唱、コーラスはもちろん、見落とされがちな発声、音感、リズム感の基礎トレーニング、ハミングから音大やミュージカル受験の教則曲まで収録しています。

一般の方には、カラオケの上達から、日々の声トレ、喉トレ、表情トレと美容、健康などの副次的効果とともに楽しく使えると思います。CDでローレベルからハイレベルまで無理なく学べるようになっています。声を出す快感を得て、ストレス解消にも有効です。初心者のみならず、プロや指導者にまで、対応しています。芸事や教授することなどにご利用いただくにもお役に立てると存じます。

毎日歩くのと同じく、声を出すのが心身のためによいと提唱してきました。その実践のために、このCDを是非、活用してください。

普遍的なトピックを厳選し、「基礎の徹底」に重きをおくことにこだわって、構成してありますので、生涯にわたって活用できる1冊となればと願っております。

 


[1]「ヴォイストレーニング大全」刊行について

 

1)テキストの特徴

 

このテキストの特徴は、長年のブレスヴォイストレーニング研究所のレッスンのエッセンスを入れつつ、他のスクールやトレーナーが使える標準教科書としてまとめたことです。つまり、研究所の福島英のヴォイトレや、ここのトレーナーのトレーニングだけでなく、日本や世界のヴォイトレのメニュを統括した上で、精選したものです。

 

さらに、音源としてセリフだけでなく、歌唱サンプルを入れたのは、研究所としては初めてのことです。

 

私がこれまでヴォイトレの教材に、ことばの発声のサンプルは、声優、役者で入れても、歌唱で入れなかったのは、歌唱における発声は、せりふ以上にそのサンプル音源に影響を受けすぎるからです。せりふでも影響を受けますが、歌唱発声は、本人が気づかない点でリスクが大きいからです。(これは、ここでトレーナーを専任一人(あるいは私一人)でヴォイトレを教えないようにしていることと同じです。)「一人のアーティストの歌しか聞いていない人は、早くそれっぽく歌えるようになるのですが、そこから先にいけなくなるのと同じ」と例えてきた通りです。

今回、歌唱のサンプル音源を入れた理由の一つは、巷のヴォイトレのいろんなサンプル見本があまりに稚拙なものが多く、使うどころかくり返し聴くにも耐えないからです。たとえば、「のど声をなくす」というサンプル見本が「のど声」では、聞かない方がましでしょう。それとともに高音やピッチ、リズム、歌唱テクニックがメインで、声そのものをよくするヴォイトレ教材といえるものがほとんどないからです。

(この点は、私も最初のCD付の本である「声がみるみるよくなる本」が、世の中のニーズにあわせたため、ヒットしたものの実のところ、ヴォイトレというよりも、アナウンスの発音、滑舌中心の練習本になってしまったことへの責任を感じたことに起因します。)

 

「あなたのこの声(発声)はどのようによい」、「その声をどうすればよいのか」というのはCDでは伝えられないわけです。声のよしあしは、そのスタンスや目的とともにあるからです。これは、厳密には、レッスンで個別にしか対応できないことと思っています。)

 

しかし、このCDでトレーニングしておくと、少しは高いレベルでの判断を求められるだけの基礎づくり、準備になるでしょう。自主トレの教材として、どんな目的にも充分に使えることを目指しました。

 

本やCDは、啓発やプレゼン的な使い方をすることが多いのですが、(つまり、初めての人にわかりやすくレクチャーするのが目的となりやすいのですが)私の方針としては、トレーニングとしてリピートするのに使うためにつくっています。説明は本文に入れ、CDは生涯のトレーニングに繰り返し使えることをめざして収録しました。そのために聞きやすく、声そのものが邪魔しないように、もっと根本的なところから学べるように流れを重視してサンプル音源としました。

 

本文は、基本的な説明やトレーニングメニュですから、いつも、同じようなものになりがちですが、今回は、全てのメニュを1つずつ検証し、大幅にリニューアルしました。

 

他のスクールやトレーナーにも使える“教科書”ということも考えて、初心者に欠かせないところは、できるだけ残しました。(そこについても、上級者やプロ、指導者が学べるだけの説明を加えたつもりです。)本当の基礎、基本ということがどういうことかをていねいに解説しました。(ここについては、文量の制限のため省略したところがあるので、補足としてお知らせするつもりです。)

 

たとえば「呼吸で10年かかる」というようなことの意味が伝わらなくては、本当の基本のヴォイトレとならないと思うからです。

 

とはいえ、せりふ、歌唱の“教科書”ですから、扱うのが声だけというわけにいきません。間やアーティキュレーション、ピッチやリズムは、もっとも大切なところや弱点となるところに絞り込みました。難しいところもあると思うのですが、そこを楽しんでもらえたらと思います。

総じて、くり返して飽きず楽しく練習できるように構成したつもりです。

 

CDⅠの「ことば編」には、これまでのテキストの欠点を補って、発音や滑舌だけでなく、同じことばを声の力でどう表現するのかを中心にしました。そういう観点で、活用してほしいと思います。

 

CDⅡの「歌唱編」は、最終的にコンコーネ50の1番でまとめました。クラシックの発声も大切というだけではなく、このわずか1オクターブと3度の80秒ほどの曲(音大受験生が扱うくらいのもの)がいかに発声や歌唱にとって大切なのかを感じとってもらうためです。

 

ここは、イメージを大切にしたいので、サンプル歌唱を省き、3つのキィで入れてあります。自由に使って、今の実力を確認するとともに、具体的にギャップを知って練習してください。

 

そこまでの7つのメニュで、この曲のほぼ全てのフレーズに慣れるようにしていますから、初心者や読譜のできない人でもスムーズに入れると思います。(コンコーネ50は、50曲とも歌集、CD共に販売されています。その50曲の1曲目だけで、どれだけ学べるかということです。)

 

尚、メニュは初心者を念頭に入れつつ、プロ、指導者レベルのものも入っています。多くの人は、難しいというのを高音や音域の広さ、地声、裏声のチェンジなどと思っているのですが、そんなことは、声の基礎とは、あまり関係のないことです。発声には、もっと根本的な基礎があるのを知ってもらえたらと思います。

 

全てのメニュを一律にこなすのでなく、今、できるメニュを確実に一歩ずつ、深めるように使っていただくなら、必ずお役に立つと思います。これをどのように、自分に使っていくのかということが学べたら、どのようなヴォイトレやレッスンも、とても有意義なものになると思います。

 

無理なメニュ、使えないところはパスしてください。ヴォイトレにふりまわされ、表現への道を進めないことのないように、広く世に問うことにしたのですから。

 

2)テキストの企画意図

 

声のことやヴォイトレで、もう迷わないように、ほとんどの人がヴォイトレで迷っていることを解消するためにつくりました。この機に是非、重用してください。

 

このテキストが画期的な点は3つあります。

第1に、よくあるカリスマトレーナーの○○流とか○○式という個人技でなく、多くのトレーナーのさまざまな方法やメニュで共通している要素を網羅したものになっている点です。複数のトレーナーが、あらゆるジャンルの人に使っているものの最大公約数的なものを厳選したので、初級、基礎の教材として、もっとも必要な客観性が与えられるということです。

 

第2に、長期的に持続した上達を目的としていることです。

誰でも使える入門用のメニュは、わかりやすく簡単で人を選ばない代わりに、平均的な成果しか出し得ないものです(カルチャー教室の月1、2回の講座のようなもの、あるいは、その日だけの体験の気づきでの満足を目的とした1日体験レッスンやワークショップのように、その後の持続的成果に結びつきにくいものになりがちです。そうせざるを得ない事情もあるので、それは仕方ありません)。

しかし、このテキストは、そこで終わらないようにすることに留意しました。そのために、「何をもって基本というのか」ということの説明を、ていねいに入れました。また、それぞれのトレーニングの目的と意味も、できる限り加えました。

 

第3に、話すこと(ことば)と歌うことの声の違いの問題について、最終的な解決を図ったことです。日本では、せりふの声と歌の声を別に考えることが当然のようであり、トレーニングや指導機関も分かれています。アナウンサーと声優と役者と歌手と、発声も基礎練習も異なっているわけです。しかし、本当の声の基本トレーニングであれば、相手もジャンルも選ばないものと思います。

 

このテキストは、ことばと歌唱、両方を含めた上で、現状をもふまえて一般の人や指導者が使いやすいように、テキストは前後でCDは2枚に分けました。でも、その連結部のトレーニングの習得は、ヴォイトレであれば欠かすことができないと思い、特別に加えてあります。

 

今や声の仕事もボーダーレスの時代です。現代の声のマルチタレントは、語りも歌もできるお笑いタレントです。そこにも、充分、対応させました。

 

混迷しているヴォイトレの状況下で、ヴォイトレをする人には、混乱しているところが多々あると思います。それを念頭におき、これから始める人はもちろん、すでに一所懸命にやっている人やプロの人から、指導者、トレーナーまで、充分に使えるように配慮しました(上級者、指導者向けの内容は、抜かして進めるようにしています)。もっと詳しいことを知りたい人のために、最後に知識編としてまとめています。

 

私は、これまでヴォイトレに関して、多くのテキストをつくってきましたが、この一冊で現場で充分に役立つように編纂したということです。もちろん、トレーニングに迷いや疑問はつきものです。しかし、どうでもよいことに迷ったり振り回されるのではなく、きちんと問題として捉え、向き合えるようになるように意図してつくりました。是非、ご活用ください。

 

※私はヴォイストレーナーとして、長年に渡り、第一線で数え切れないほどのクライアントと接してきました。あらゆる年齢層のほぼ全職業、特に声に関する職の人にほとんど関わってきたと思います。幸いなことに研究所として十数名のトレーナーと組織で行ってきたので、多くの人に長く関わることができています。すると、5年10年単位での変化もわかります(長い人は、20年、30年といらっしゃるわけです)。

 

マンツーマンというクローズのレッスンでは、盲点となってしまう多くのことがあります。たとえば、そのトレーナーのやり方に合わない人はやめていき、効果が出る人だけが残るので、トレーナーのやり方も、トレーナー本人が気づかないまま、どんどん偏っていくということです。トレーナーは、万人に効くと確信しているのですが、その方法が人を選んでしまうわけです。(声や歌については、そのマッチングこそが、最大の難関といえるのです。)

 

そこで、研究所では、あえて、クライアントに最初から複数のトレーナーをつけ、異なるタイプのトレーナーの指針、価値観、評価基準、方向、メニュを共存させてきました。混乱や矛盾を恐れず、複数のトレーナーの個人レッスンで成果を比較し、検証し、修正し続けてきたのです。

 

そのなかでは、クライアントは、自ずと判断力をつけ、主体性を確立させていくことになります。トレーナーも、他のトレーナーの方法に加え、さまざまな分野のプロや特殊なタイプのクライアントに接し、常に学ばざるをえない状況で真の対応力をつけていくわけです。

 

今回、その総決算ともいえるテキストとなりました。多くの皆様にお役立ていただけたら幸いです。これまで通り、どんな些細なことでもフィードバックを期待しております。共に学んでいきましょう。

 


[2]INDEX

 

1)本文のINDEX

 

PART I 準備編

(1)呼吸・発声

1 ウォーミングアップと柔軟体操

2 ストレッチと筋肉強化

3 姿勢

4 呼吸

5 発声

6 共鳴とフェイストレーニング

 

PART II ことば編

(2)発音

1 日本語の発音

2 母音の発音

3 子音の発音

4 子音① カ行・ガ行

5 子音② サ行・ザ行

6 子音③ タ行・ダ行

7 子音④ ナ行・マ行

8 子音⑤ ハ行・バ行・パ行

9 子音⑥ ヤ行・ラ行・ワ行

10 拗音・撥音・促音など

(3)ことば

1 アクセント

2 イントネーション

3 プロミネンス

4 滑舌

5 間とリズム

6 緩急とメリハリ

7 さまざまなことば

8 会話

9 ビジネス

(4)せりふを読む

1 ナレーター

2 ラジオパーソナリティ

3 司会者/アナウンサー/インタビュアー/レポーター

4 演劇/ドラマ/アニメ

5 吹き替え

6 朗読/語りもの/落語

COLUMN 「ことば」から「歌唱」へ①

 

PART III 歌唱編

(5)声量

1 ハミングとリップロール

2 ロングトーン

3 クレッシェンドとデクレッシェンド

4 フレーズキーピング

5 ヴォカリーズ

6 レガートとスタッカート

7 低中音を強くする

(6)声域

1 声域をチェックする

2 低音域

3 中音域

4 高音域/ハイトーン

5 地声から裏声、ファルセット

6 声域内の声の統一

COLUMN 「ことば」から「歌唱」へ②

(7)音程/音感

1 音階

2 全音と半音

3 メジャースケールとマイナースケール

4 1度と8度の音程

5 2度/3度/4度の音程

6 5度/6度/7度の音程

7 音感を鋭くする

(8)リズム

1 リズムに慣れる

2 テンポとタイム感

3 拍子

4 強拍と弱拍/表拍と裏拍/強起と弱起

5 ビートとグルーヴ

6 シンコペーション

(9)歌唱技術

1 音の感覚

2 声に気持ち

3 フレーズ

4 アーティキュレーションとダイナミクス

5 ヴィブラート/パッセージ

6 スキャット/フェイク/アドリブ

7 コーラス/デュエット

8 オリジナルフレーズ

 

PART Ⅳ 知識編

(10)声と身体

1 のどと声帯

2 呼吸器官

3 声区

4 音痴/年齢による変化/性差

5 声の管理と注意

 

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2)Ⅳ知識編の索引

 

(p259)1.のどと声帯

「咽頭」 気管 食道 「喉頭」 軟骨部分 「のどぼとけ」 声帯

甲状軟骨 甲状披裂体 輪状軟骨 仮声帯

硬口蓋 口腔 舌骨 喉頭蓋 声門 鼻腔 軟口蓋   口蓋垂 舌根部

(p260)外側甲状披裂筋 輪状軟骨 声門 甲状披裂筋の外側 声帯筋 横披裂筋 斜披裂筋

「喉頭原音」 無声音 「口腔」 「鼻腔」 声道 音色 オーボエ 摩擦音 振動 開閉運動 (声門閉鎖不全) かすれ声

(p261)2.呼吸器官

呼吸中枢 大脳皮質 呼吸筋、喉頭筋、顔面筋 呼気量 「横隔膜」

「胸郭」 「胸式呼吸」 「横隔膜」 「腹式呼吸」 肋骨 胸腔 腹腔

(p262)(横隔膜) (胸郭) 吸気と呼気 気管 肋間筋 外肋間筋 内肋間筋 弛緩、伸長

(p263)(腹筋、背筋、臀筋、骨盤筋) 共鳴器官 咽頭腔、口腔、鼻腔

(p264)3.声区

声区(レジスター) 音色と音域 頭声(ヘッドヴォイス) 胸声(チェストヴォイス)

「地声」「裏声」 輪状甲状筋(前筋) 甲状披裂筋(内筋) 閉鎖筋 (声帯粘膜) 裏声(ファルセット)

(p265)4.音痴 年齢による変化 性差 音痴 大脳の先天的音楽機能不全 聴覚、音声障害(者) 調子はずれ アクセント、イントネーション 音感

第二次性徴期 声変わり ボーイソプラノ 男性ホルモン のどぼとけの突起(喉頭の甲状軟骨) 太い声

(p266)輪状甲状筋 声道 共鳴周波数 音声障害 変声期

萎縮 更年期 女性ホルモン 声帯浮腫(水ぶくれ状態) アンチエイジング

(p267)5.声の管理と注意

長話 長電話 肉体的な疲労 精神的な悩み モノマネの声 寝不足 睡眠 充血 ばい菌やウイルス マスク 風邪 乾燥

(p268)冷暖房 のどの粘膜 運動 表情筋 タバコ お酒 アルコール 栄養価 刺激するもの カラオケボックス

(p269)水分 コーヒー ミルク 炭酸 唾液 のどアメ トローチ 唾液 トローチ類

満腹時 便秘時 空腹時 下痢時 風邪 炎症 痰 共鳴体 体力 摩擦音

(p270)気管支炎 声の障害 生理 ホルモン 自律神経 血液の循環 ダイエット 便秘 過換気症候群 失神 ロックコンサート 過度の換気亢進 手足のしびれや動悸、息切れ 自律神経の過敏反応 呼吸中枢の異常

(p271)過緊張音声障害 急性喉頭炎 嗄声(させい:声がれ) 急性喉頭蓋炎 喘鳴(ぜいめい:ゼーゼーいうこと) 声帯みぞ(溝)症 声帯結節

(p272)声帯ポリープ 粘膜 ポリープ様声帯 ステロイド 声帯粘膜下出血 喉頭ガン

声帯麻痺 反回神経(下喉頭神経) 輪状甲状筋 上喉頭神経外技 上喉頭神経内技

のど荒れ 花粉、乾燥、冷え

(p273)咳 咳払い トローチやあめ 痰 噛み合わせや食いしばり 頭痛、肩こり、耳鳴り 頸椎 胸椎 腰椎 腰痛 消化器官や仙腸関節 生理痛、便秘、膝の痛み 歩行困難 スマホ歩き 姿勢 こめかみの側頭筋 ほっぺたの咬筋 閉口筋

 

————————————————–

3)正誤表[第ニ版]

 

P135 「五十音」北原白秋 ふりがな

               誤)     正)

        ねぢまき → ねじまき

        ゆでくり → ゆでぐり

 


 
 [3]一般の人のためのプログラムメニュ
 
 

・健康づくりやアンチエイジングのためのプログラム

 

これは、老化(フレイル)防止、口腔ケア、嚥下障害防止のほか、喉を傷めていた人のリハビリにも共通します。

 

CHAPTER(1)呼吸、発声のメニュ(CDなし)は、一度、すべて使ってみてください。自分なりに変えていってかまいません。特にフェイストレーニングは有効です。(全てで30分、毎日、5~15分)

 

P40フェイストレーニング(あご、舌、唇、…)中、高校の放送部や演劇部のトレーニングと思ってください。

声のトレーニングは、心身と結びついているので、大げさに感情を入れた方が効果的です。手振り身振り表情もつけて行うと演出も含めて、実践的になります。それと反対に基礎を声だけに集中して、しっかりと行っておくことも大切なので、うまく両立させてください。

 

以下(2)~(4)は、CDⅠ

(2)発音、日本語の発音は1通り行ってみるだけでもよいと思いますが、面倒でない人は毎日使うとよいでしょう。

☆☆母音の発音は、毎回行いましょう。

子音の発音は楽しんでください。毎回どれか一つか二つを選んで変えていくのもよいでしょう。本文の別メニュやオノマトペなどにも挑戦していきましょう。 最初は、質より量でかまいません。

(3)ことば、苦手なところは、よく聞いて学びましょう。好きなように楽しみましょう。

☆滑舌は、特にお勧めです。

(4)せりふ、好きなものを一つ選んで、続けて行うのもよいし、毎回一つでもよいでしょう。

 

以下(5)~(8)はCDⅡ

(5) 声量、☆☆ハミングとリップロールは無理のない範囲で挑戦しましょう。

☆2.ロングトーンも行いましょう。

(6)声域、(7)音程/音感、(8)リズムはカラオケ上達などに大変に役立ちます。

手で叩く、足でリズムをとると身体でのトレーニングに役立ちます。

 

息から声、ヴォカリーズ(母音発音)、レガート、で発声するとよいでしょう。

呼吸のトレーニングは、ドックブレスを無理のない範囲で5~10回で使ってください(すべてやる必要はありません)。

声をよくしたいときは、深い声、低音域、フレーズ

声のコントロールには、クレシェンド、デクレッシェンド

高い声などには、51~をお勧めします。

 全てをハミングややりやすい音で行うことも可能です。息だけでもかまいませんし、リズムなどは、手で叩くだけという使い方もあります。

 

(10)声と身体の基礎知識 一通り読んでおきましょう。

 

CDは、目的に該当するところを選んで使ってみてください。

リハビリやアンチエイジングのために使うときには、CDⅡでもフレーズのスケールの上下降を続けていくことは、それほど必要ありません。トレーナーサンプルのあとに一度、くり返すだけでも充分です。前半10分行い、5分休み、後半10分行うくらいで充分です。

 

 他の先生方の使っているメニュ、アイウベ体操(ベで舌を出す)、パタカラ体操なども併用できます。CDⅡ の01や07などに合わせて行うとよいでしょう。

ことばやせりふは、サンプル音源と一緒に読むと楽に進められるでしょう。

 

いきなり声を出さず、(1)でのウォーミングアップを軽く行って始めてください。発音も大切ですが、五感を大切にしましょう。オノマトペなどは大変に楽しく、役立つメニュです。英語など外国語の発音も取り入れるとさらによいでしょう。

 

 音源のメニュは選んで使いやすく並び替えて、ご自分に合ったプログラムをつくっていくとよいでしょう。カラオケなどに使う人は、別にもう一つ、自分用のメニュとして編集するとよいと思います。どんどんと発展させていってください。

(ホームページhttps://www.bvt.co.jp/taizen/に、近日中、トレーニング用に追加音源などをする予定です)

 

ベレ出版の「きれいに話すための発音・発声トレーニングCD BOOK」(現在、電子ブックあり)滑舌や外郎売(音源に全文収録)をご利用ください。

 

以下、参考:「人は『のど』から老いる、『のど』から若返る」(講談社)より抜粋改訂

(https://www.bvt.co.jp/kodansha/)

 

 


[4]「ヴォイストレーニング大全」関連の参考応用文献

 

関連参考書(拙著ほか)

CHAPTER(1)体操→「ヴォイス・トレーニングの全知識」

CHAPTER(2)~(4)ことば編→「声ことばのレッスン」「声優・朗読入門トレーニング」「英語耳ボイトレ」

CHAPTER(7)~(8)音程/音感/リズム→「ヴォーカルの達人2【リズム&音感・トレーニング編】<CD付>」

CHAPTER(9)歌唱技術→「読むだけで、声と歌が見違えるほどよくなる本」「ボーカル上達100の裏ワザ」「コンコーネ50番(中声用)」全音楽譜出版社 畑中良輔(高声用、低声用もあり)

CHAPTER (10)知識編→「声のしくみ『人を惹きつける声』のメカニズム」「人は『のど』から老いる、『のど』から若返る」

全体→研究所jテキスト「声とことばのトレーニング帖」「Master of Singing」

 

関連サイト(ブレスヴォイストレーニング研究所)

「発声と音声表現のQ&A」ブログ

「ヴォイストレーナーの選び方」ブログ

「ヴォイトレの論点」ブログ

 

 

 


[5]「ヴォイトレを始める前に」(「大全」のためのまえがき)

 

○トレーニングの盲点

 

最近、私がよく話すことを加えて、アドバイスにします。

ヴォイトレというのは、「トレーニングですから、役立つように、自分を変えるために使えばよい」ものです。つまり、役立たなければ、よい方に変わらないなら使わない方がよいのです。「ヴォイトレをしないと○○になれない」というのではなく、足らない分を補強としてするからトレーニングなのです。

そこでは、目的やレベルの具体的な設定こそが肝心なことなのですが、声に関することは、とてもあいまいです。そこで、きちんと基準を設定できる力、判断できる力をつけていくのが、トレーニングの目的の一つです。

ヴォイトレが普及したのはよいのですが、「もともとなかった」のですから、それに囚われすぎるのはよくありません。ヴォイトレのなかで、いろんな考え方、方法、メニュがあるのは、よいのですが、それを「間違っている」とか「効果が出ない」などと論じる人まで出てきました。なぜ声を出して何かをするというポジティブな分野に、ネガティブに人生の時間を浪費するような考え方、使い方をするのかと思うことがあります。ヴォイトレは、トレーニングです。“効果を上げるために”使ってください。

 

〇声の力の減衰と歌の凋落

 

歌も声の使い方の一つですから、その使うレベルが下がれば、業界も凋落していくのはあたりまえです。これまでも、そうして多くの芸は消え、また新しい芸が生まれていったのです。役者も同じで、声の力は、明らかに不足してきています。他に補える要素が大きくなったので目立たないだけです。声優も、ベテラン勢の声に太刀打ちできなくなってきています。それは、どういうことなのかをよくよく考えてみる時期にきていると思います。

トレーナーにも責任がありそうです。いかにも自分の“特別なヴォイトレ”が絶対に必要だとクライアントに思い込ませてしまうようにもみえるからです。相手の必要に応じ、もっともよいメニュを使うのは当然のことですが、引き受ける前に、今の本人にとって、自分よりもよい専門家がいないかを考え、思い当たったら、そこに委ねるくらいのことはすべきだと思います。現状の複雑な状況では、いかにカリスマトレーナーでも、一人で全てのタイプのクライアントにベストな対応ができることはありえないからです(最初につくトレーナーの影響力は大きいので、その前に一歩、立ち止まって考えてみることをお勧めします)。

 

私は、声楽、ミュージカル、ポップス、演歌といった歌い手、声優、ナレーター、アナウンサーなど、声を使う職業で分けてみたり、どれかの分野に固執したりはしていません。早い時期から政治家からビジネスマン、就活、婚活する人のニーズにまで応じてきました。

声であれば、基礎の基礎は同じです。少なくとも、そこで行うのが本当の意味で基本のヴォイストレーニングと思うのです。

 

○素振りの話 ~声は自明

 

確かに、素人には発声はわからないし、歌の評価も好き嫌いといえるものかもしれません。しかし、声は日常で使われ、誰であれ、それなりの効果を生かしうる社会性をもちあわせています。そうである以上、声のよしあしとか歌やせりふのよしあしは、日常で「誰もがわかる」といえばわかるのです。専門家のようには説明ができないだけでしょう。(このあたりは、自分の声よりも、まわりの人の声でみるとわかりやすいと思います。)

たとえば、誰でも一つの声だけ、長く伸ばして10回出すと、そのうちどれがよく、どれが悪いかぐらいの区別はつくでしょう。次にその中のよい声だけ10回出せるようにし、また、そのなかのよい声だけを判断して集めてみてください。

素振り10回で素人でもよし悪しがわかるものです。いえ、声に素人などいません。体の実感から磨いていくのを忘れたら、基礎トレーニングではありません。

こうしたことは、歌の自主トレで誰でもフレーズ単位で応用していることです。勘がよく、喉がそれに合っていた人は、歌手や役者に、それだけで誰にも習わずプロになれているわけです。

 

ヴォイトレに特別な方法や秘訣があるのではなく、普通のことを徹底してていねいに詰めていけばよいということです。それに個人差があり、限界があるので、そこを助けるためにヴォイトレのメニュがあるということです。

 

〇声は変わる

 

ヴォイトレでなくとも、決まった時間、しっかりと声を出すことを3~5年もやれば、個人差はありますが、声は変わっていきます。よく変わったら、そこでやったことが、まさにヴォイトレなのです。ところが、巷でヴォイトレを行っている人は多いのに、こうした声の素振りで基礎を固め、判断力をつけることと声そのものを実践の結果にまで結びつけられている人は、とても少ないです。

それは、ヴォイトレといいつつも、ほとんど「準備体操としての発声」と「正しく歌いこなすための歌唱(リズム、メロディ、歌詞)」だからです。緊張する人のためのメントレであったり、発声に至る状態の調整=応用練習がほとんどだからです。声そのものを見ずに、声そのものをトレーニングしていないのなら、声そのものが伸びないのはあたりまえです。

プロやトレーナーのものまねでは、外側ばかりを固め、くせがついて、可能性が閉ざされてしまいます。その結果、難しいメニュは、こなせるようになっていくのに、シンプルに声を大きく出すことは、いつまでもできない人がたくさんいるのです。

 

自己満足したり行き詰まったりして上達が止まるのは、「現状への厳しい判断」「次の目標設定」「そのギャップを克服する方法」が決められなくなるからです。でも、周りに認められ、それでよければそれでよいし、それ以上求めるなら、そこから、よきアドバイザーにつけばよいのです。つまり、それらを明示してくれる人ということです。

 

○階段の話~「間違いでなく不慣れなだけ」ということ

 

もう一つは、医者(音声クリニックなど)から、紹介されてくる人に多いパターンです。器質的な障害がなく、機能性障害といわれるケースなどに多いのですが、いわゆる「発声法が悪い」「腹式呼吸ができていない」などと言われていらっしゃいます。ただ、これも「声を出していない日常で、声が出るようにはならない」というあたりまえのことが原因であることが大半です。

私は、「一日1000歩しか歩いていない人が、10階まで階段を上がったら、足が痛くなった。だから、その上り方が間違っていると思いますか」と尋ねることがあります。声の問題は、今だけでなく、過去からの積み重ねです。この場合、少しずつ声量を増やしていけば、そこそこにはクリアできるでしょう。声域とかピッチ、リズム、発音以前の問題なのです。リハビリもまた、まさにその類です。(ですから昔、体育会で大声を出し、喉を荒らして歌えなくなったなどという人が、ヴォイトレでプロやトレーナーになったからといって、そのヴォイトレが、元より声の弱い人や声をほとんど使ってこなかった人には、通じにくいわけです。)

 

〇習慣と環境づくり

 

本当に声を変えたければ、毎日の生活習慣から変える、環境づくりが必要です。フィジカルの管理ができていない人は、整体やマッサージ、ヨーガ、ピラティスなどでもよいでしょう。それだけでも声が出やすくなります。

このご時勢、ヴォイトレのメニュにも最近はそういうものが多く入ってきています。しかし、その分、肝心の声の基礎づくりが忘れられているのを憂うのです。(ヴォイストレーニングがフィジカルトレーナー、メンタルトレーナーを兼ねるのはわかりますが、肝心のヴォイトレは、ということです)。

 

発声の基礎固めは、スポーツ競技よりも判断が難しいと思います。なのに、このレベルでさまざまなヴォイトレメニュや声の使い分け、発音から音程、リズムトレーニングなどを始めるので、肝心の声の養成に手がついていないのです。それよりは、ジムでの体力づくり、柔軟を含めた体づくりなどを優先するとよいことが多いはずです。それで声が出やすくなるのであれば、そこがその人の最初のヴォイトレでしょう。

 

○“イメージ言語”を呼吸法(1)

 

指導で使われる用語は、イメージ言語として説明しています。トレーニングの効果を出すために使うのですから、トレーニングを行う上でのインデックスとして、トレーナーとクライアントの認識が一致していたら、どんなことば、用語もパーソナルなレッスンでは問題ありません。

ただトレーナー自身がイメージと実際のことの違いをわかっていないケースも多いようです(だからといって、トレーナーが使っている“イメージ言語”を生理学的、科学的にみて「間違っている」「使うな」「正せ」と言うのは浅はかなことです)。私も、さまざまなイメージ言語を使っています。

たとえば、「胸式呼吸はだめで、腹式呼吸で」というのは、初心者の肩や胸の上が動いていることと喉頭の安定を欠くことで呼吸のコントロールがしにくいためです。しかし、胸式呼吸は、腹式呼吸と切り離せません。胸の下部は、柔軟に動いているのです。

横隔膜は、お腹の底でなく、その前部はかなり上にあります(胸骨)。それを丹田のあたりに考えるのは、おかしなことです。しかし、「お腹から声を出して」とか「丹田を意識して…」と言って相手の状況がよくなるのなら、“イメージ言語”として使っても問題はないでしょう。

 

 「胸を上げる」より「胸を下げない」、「背中を広げる」とするなど、ことばのイメージ一つで、結果も大きく違ってきます。だからこそ、ことばの使い方は、とても大切なのです。正しい使い方ではなく、イメージをうまく与えて正されるような使い方ということです。

 トレーニングは、意識的に行うので動きやすいところ、みえやすいところが使われやすく、それ以外のチェックや動きがおろそかになりがちです。なので、そちらに注意を向けることが大切といえます。(でも、それは元のところがあたりまえに機能していたらということで、それを怠ってしまうケースも増えています。)

「お腹より横や後ろに入れる」というのも、前腹は動きやすいからです。ですから、背筋中心に、広背筋、外股斜筋、内股斜筋などの強化が必要です。しかし、前の方の腹を固めてはなりません。

私が「深い息」というのは、出す息のことですが、そのために深く吸うのは、できるだけ体の底に入れるためです。それは、吸えるだけ吸うのとは似ているようで全く違います。

 

○“イメージ言語”を呼吸法(2)

 

 例としては、くどく長くなりますが、せっかくの機会なので呼吸(法)について詳述します。

呼吸とお腹の動きの関係は、よく問われますが、厳密には説明しにくいものです。腹式呼吸は、お腹がへこんで息=声が出るというように考えられています。しかし、声楽や邦楽などでは、「息を吐いてもへこませない」とか、「押し出す」「張る」というのが、教え方としてよく使われています(逆腹式とか丹田、逆丹田なども、言う人によっても違うので、ここでは用語にこだわらないで進めます)。

まず、息の支えとお腹の横を張って固定することは、混同されやすいのです。固定すると、喉頭が下がりやすくなり、発声上、効果的に見えるので、よくセットで使われていますが、別のことです。「横隔膜」などのことばを使いだすと、さらにややこしくなります。「横隔膜を広げる」というのも、イメージ言語です。

「横隔膜を使う呼吸」などと言うより「腹から声を出す」の方が直観的に本質を把握しやすいでしょう。それが、科学的、生理的に誤りを訂正された今の教え方が、昔のすぐれた人の教え方より大きな結果を出せなくなっている理由の一つです。主に、生理学的用語と科学的説明で、正しいと思った動きは、イメージ言語よりもはるかに効果を歪ませてしまうことが多いのです。☆

息を吸い過ぎたり吐き過ぎたりすると、よい発声ができないのは確かです。しかし、結論からいうと、トレーニングですから、その結果、「いつ、どう変わったか」で問うしかないのです。「どこが」が入ると、かなりあいまいになります。いや、「変わる」というのではなく、「しぜんに吸収され、ものになった、身についた」という方がふさわしいでしょう。

 

どのトレーニングをどう組み合わせても、そのときのお腹がどうであれ、発声や歌唱時は、お腹は柔らかいし、喉もしなやかで自由に最も有利に動いていればよいのです。そのときに、お腹は止まっているか動いているか、外見的にはさまざまでしょう。膨らんだり引っ込んだりも、ある幅で行われているはずです。表現によっても大きく変わるものでしょう。

人間の表現行為、まして、肉体芸術においては、日常以上に集約され、過度に動くのです。それが、しぜんにみえるよう、ふしぜんなものでないようにこなされていて、自由といえるのです。(喉声も同じで、表現を優先するなら、決して否定されるものではありません。)

 それでも、「どうしても説明を」と言う人もいます。そこで、私は、「自分の通常より呼気時に少し胴回りが膨れ、その膨れた幅○㎝分くらいへこむ動き、つまり、通常±○㎝が目安など」と余計な説明をしています。囚われぬ程度に参考にしてください。

 

本当に上達するためには、寝転んでしぜんとそうなる腹式呼吸くらいでは、発声のコントロールなどに足りるわけがありません。そこに備えて、ヴォイトレで体づくり、息づくり、ブレスのトレーニングなどを行う意味があるのです。

たとえば、バスケットボールでの指導では、「膝でシュートしろ」とか、野球やマラソンで「腰で打て」とか「腕の力を抜け」とか、いくつもの“イメージ言語”があります。こうした中での脱力の指示は、力をつけるトレーニングではなく、力を発揮するプレーのためのものです。力をつけるトレーニングは、別に行っているのです。

「今日のトレーニングの結果が今日、明日に出るようなものは、トレーニングではなく、調整にすぎません」ですから、それを続けても大きくは変わりません。

この時間差をどうみるのかがトレーナーの手腕です(トレーニングとは、今は役立たないし、一時、逆効果にもなりかねないことを将来のために、あえて行うことです)。

 

〇定義できないことについて、とらわれないこと

 

 似た問題をいくつか、加えておきます。

邦楽では、地声と言っていながら、高い声は、裏声を使っています。同様に、鼻呼吸だと言いつつ、口呼吸も使っています。「地声で歌ってはいけない」と言う師匠もいます。

所詮、マニュアルと実践は違うのです。定義もしないのに、何をか言わんやです。でも、定義できないものもあります。それを無理に定義して使う方が、よくないと思います。だから、イメージ言語を使うのです。トレーニングでは、こうした机上の些細なことにあまりこだわらず、鷹揚に構えておくとよいでしょう。

 

「ハミング」「リップロール」「タングトリル」なども、ヴォイトレで定番となってきたメニュですが、目的によって、注意することもやり方も異なるのです。むしろ、苦手な人が、そのまま行うと逆効果となりかねないことも多いです。

リラックスさせるのが目的なのに緊張させて無理を感じる人、苦手な人は、そういうメニュは、がんばらずに抜かして進めればよいのです。絶対に必要なメニュや方法などはありません。

 

デスヴォイス、グロウル、グラント、エッジヴォイス、ボーカルフライ、ホイッスルヴォイス、フラジオレットといった、いろんな声の種別についても、こだわらないでください。誰がどう分類しようと、それは仮説のようなものであり、「どの声か」などと考えても仕方ありません。「一般的に」とか「誰かの」は無意味なのです。

あなたの声は一つです。それを強く、いろいろと柔軟に使えるようにしていけばよいのです。

レッスンでは、こういう分類をうまく使えることもありますが、それに囚われて邪魔してしまうくらいなら忘れましょう。まして、トレーニングを複雑にしてはなりません。

 

用語は、説明や説得するのに便利な手段の一つに過ぎません。「このアレンジがヒットのノウハウ」といっても、それはヒットした説明であって、そのアレンジを入れたらヒットするわけではありません。

ですから、(後述する)“ヴォイトレ市場”で、本やネットの情報に振り回され、理屈に走るとわからなくなります。トレーナー間を行き来したり、偏向してしまうのです。“トレーナーショッピング”となってしまうのです。

実際のプロのアーティストは、そういうことに関与せず、活動しているのです。なぜ、これまでヴォイストレーナーという資格やヴォイストレーニングという分野が、ここまで確立しないのかを考えてみるのもよいのではないでしょうか。

 

〇ミックスヴォイスのブーム

 

 ミックスヴォイス(ミドルヴォイス)の流行は、一時の現象と思っていたのですが、いろんな学会や論文などでも取り扱われ、学会などで数人の異なる発声を全てミックスヴォイスとみせる様には、驚きました。

共通点は、かすれた声(高音域での統一された共鳴でない)ということのようです。もしかすると、声楽の発声だけを正しいと思う人が集まると、大体こうなるのでしょうか。となると、統一されたものとそうでないものは、どこで分けるのでしょう。それでは、結局、声楽の発声以外の全ての歌声は、ミックスヴォイスとなりましょう(ちなみに、声楽というと、第一声で、出したところから「間違い」と言われてしまうような歌唱の発声の基準も、その前に何があるのかに立ち返って考えることでしょう。声そのものに間違いなどありません)。

 裏声、地声は、発声の原理で声区(レジスター)として分けられます。その間の声を名付けるなら、これまでの「融合(ブレンド)」ということばで充分でしょう。

 

トレーニングとしては、どんな名称も方法もあってもよいと思います。しかし、これは、裏声と地声の音色の違いを目立たせなくする調整の区間、その移り変わりにあたる声なので、どれがよいとか正しいとかもなく、目的とするものではないのです。

用語として使うにも、個人差の方が、はるかに大きいからです(まして、定義の異なる人同士での議論は不毛です。そんなところで時間のロスはしないでください)。用語を使いたいなら、自分なりに、あるいは、トレーナーとの“イメージ言語”として、どうぞ、と思います。

 

○具体的なケース(セカンドオピニオンとして)

 

 セカンドオピニオンとしてアドバイスするときに、他のトレーナーの指導のプロセスで、偏っているのを知りつつ口を出せないことは、よくあります。たとえば、その人の音がフラットしていたら、高めに直すため一時的に高くとるトレーニングをすることになるため、そこだけを第三者がみると「少し下げなくては」と注意したくなりがちです。

そうしたプロセスでの偏りは、トレーニングでは必然です。大きなギャップを設けて埋めようとするほど、目立ってしまうものです。もちろん、長時間かけて目立たせず、そのリスクも減らすのが正攻法ですが。早く大きく変わろうとするほど、一時、大きく偏るのです。でも、変わるために、トレーニングはするものでしょう。

「後に器が大きくなって吸収されるまで待つ、それでだめなら戻せるように見極めておく」、他人の声と共に心身を扱わざるをえないレッスンは、そうしたリスクを受け入れることに他なりません。そこはプロセスなのであって、一時の偏りを否定したら、大きくは伸びようも変わりようもないのです(そのため、ステージを控えるプロ歌手などには、本番や活動状況次第で、トレーニングメニュをセーブし変えざるをえないわけです。トレーニングにもオンオフがあるということです)。他のトレーニング法もそれ自体をみて、そのスタンスを位置づけ、メリットとデメリットは、アドバイスできるのですが、深いところはそのトレーナーのみぞ知る、そのトレーナー自身を知らずに踏み込めない領域もあるのが、当然のことなのです。

 

〇用語に対してのイメージでの解決の補助

 

一般的な注意と必ずしもそうでないことの例をいくつかあげておきます。

ハミング→口開けてもよい

「喉頭下げる」→必ずしも無理に下げなくてもよい

「軟口蓋を上げる」→上げ過ぎてもよくない、鼻音にしない

「喉をあける」→必ずしも無理にあけようとしなくてよい

「お腹に空気入らない」→肺に入るが、胸とお腹(肋骨[筋]と横隔膜)の動きで入る(呼吸筋のトレーニングとは別)

「腹筋は使わない」→本文参照

「胸式呼吸はだめ」→本文参照

「強い息を声にするのはだめ」→本文参照

「頭声・胸声(頭部共鳴・胸部共鳴)」→発声の体感(共振)での区別、頭や胸にひびくのを体感する

「共鳴腔にあてる、集める」→あてない、あたる

音程、リズム、発音への注意→発声とは別

地声と裏声→発声の様式(声帯振動)での区別(女性は裏声、男性はファルセット)

 

○「せりふ」と「歌唱」の両方を学ぶ

 

 歌唱のためには、せりふのトレーニング、せりふのためには、歌唱トレーニングをしましょう。「歌は語るように、せりふは歌うように」と言われます。それは底で結びついていて相互に補充しあっているのです。

日本の歌手やヴォイストレーナーの弱点の一つは、話し声が一般の人と変わらないことです(しかし、この弱点は、必ずしも、職において致命的なものではありません)。

「歌い手だから、話すのは声をロスするので、歌以外は声は使わない」これは、日本人らしい考えであり、確かにその通りでもあるのですが、まさに“歌唱用(合唱団用)の声”に囚われているのです(調子のよくないとき、本番前や特別な基礎レッスンの期間での、このストイックさを否定するわけではありません)。

 

○リラックス、脱力~柔軟体操とストレッチ

 

リラックス、脱力は、くせをとったり体の柔軟性を回復させるのに大切なことですが、どんな分野でも、それだけで身につくものはありません。これらは、身についているものの発揮が妨げられないようにするためのものです。身についているものが不足していたり補強が必要なときには、ただリラックス、脱力しても何にもなりません。

緊張で声が出ない人が、リラックスして声を出せても、オペラ歌手にはなれないし力強い声さえ出せないでしょう。でも、そんな必要もなく、とりあえず声が出せたらよいのなら、リラックスで目的達成です。

とはいえ、声の必要性を高め、そこを目指しトレーニングすることが、確実に効果を上げる最大の秘訣なのです。つまり、緊張してリラックスどころでない状況で、どう声を使うのかを学ぶことが、実践としては大切です。心身の不調時でさえ動じない確固たる声を身につけるために基本があるのです(ちなみに、ストレッチは筋を伸ばすし、柔軟体操は関節を柔軟に動かせるようにしますから、こうして分けるのなら、本番前は、柔軟体操をする程度に留めることです)。

 

○体で覚える~見本の選び方が重要

 

機能として、目覚めさせる、解放し、バランスをとり、合理的に使う。 

足らないところを補強、鍛錬する。

体で身につける見本を表現者やトレーナーを参考にする。

見本といっても、それぞれにタイプも得意不得意(専門)も違うので、それを自分にプラスになるように選ぶのは、ヴォイトレと同じことです。それなりに時間もかかることでしょう。

この見本の取り違え、つまり、憧れの声、歌、アーティストと自分のもっているもの、個性とのギャップが、うまくいかない最大の要因であることが多いのです。ヴォイトレでの上達を妨げるのです。いかに自分に合った見本を選ぶことが難しく、大切なのかということです。

 

 発声の技術とその土台づくり、さらに表現と音楽性や芸術性、これらは、習得のプロセスでは、お互いに矛盾したり邪魔したりすることもあります。オペラ歌手などのように、目的とそれに必要な条件(期間、到達レベル)がかなり明確な場合は、指導者にプランニングも任せたいものです。

しかし、大体は、目標そのものから明確にする必要があります。そのためには、その世界や自らを知る期間が必要です。

 

元より、ことばと共鳴でさえ、対立します。リラックス、自然体というのも、どんな動き、発声もすぐにとれるということですから、大体は、両立しがたいわけです。

あなたが一つの声と思っているものでさえ、私には、いろんな声が聞こえてきます。徹底した整理の必要があるわけです。

 

○大は小を兼ねる☆~本当のトレーニングとは

 

 歌える人は、歌えない人のまねができます。せりふの言える人は、言えない人のまねができます。それは、まねするときに、部分的に力を抜いたり入れたりアンバランスにしてくせをつけるのです。

私は、「あなたの声なら首から上だけで出せます」と言うことがあります。息を吐いた後でまねします。つまり、私の体の充全な機能を抑制して出すと、初心者と似た声になるのです。トレーニングとは、その逆を行うことにほかなりません。つまり、最初は大きくつくるのです。ていねいに使えるために、です。

 

 運動能力や外国語の会話能力のように、慣れていくだけでも人並みに行うと人並みになります。つまり、発声器官そのものにさほど違いはないのです。

 それを、単に、目標レベルを、早く簡単に誰にでも楽に効率化したものにするか、最高レベルにセットするのかは、本人次第です。私は、後者の実現のためにあるのが、本当のトレーニングだと思います。

生来の発声器官のよし悪しでなく、使い方のよし悪しのところまでは、トレーニング次第なのです。ならば、目標と必要性を目一杯、高めた方がよいのです。そして、早く限界に到達して、そこからスタートをするのです。いつも、一つ上の高みを目指してがんばってください。

 


 

[6]「最近のヴォイトレの状況と、ここまでの歩み」         

(「大全」のためのあとがき)

 

○私と声の研究

 

 私は、音声、表現、舞台のための声の専門の研究所をつくり、ずっと指導と研究をしてきました。いつしれず、声がライフワークとなったわけで、医者や声楽家のように、それを専門にしたかったわけではありません。声、歌、芸能の世界についても、業界を客観視しうる立場にいるように努めてきました。声について知るには、文化、風土、歴史だけでなく、国際社会も日本のビジネス社会も学ぶ必要があります。それゆえ、早くから声を生涯賭けてのライフワークにしたともいえます。

出版やレクチャーなど、外向きの活動が多かった分、養成所をつくってからは、矢面に立たたされ、業界の内外を問わず、いや、むしろ、それ以外の分野の専門家や勘のよい人たちに、多くを指摘され、学ばせてもらってきました。今も、業界ではなく社会に目を向けて動いています。

 

未だ、日本人の音声の弱さは、「ヴォイトレの失敗」ということさえ問えない状況で、これは声の力が現実の社会に関わり切れていないことを表します。歌や芝居においては、スポーツ、芸能ほか、多分野のめざましい世界進出に比べると、もはや、ガラパゴス化してしまいました。

有能な人材は、歌よりお笑いを選び、音楽プロダクションまでお笑いタレントで支えられています。今、声の力を活かせているのは、お笑いタレントと日本各地のお祭りか、と思うのです。声の力でみれば、です。

私は、カラオケからヴォーカルスクール、ヴォイストレーニングまで、普及に努めたものの、その線上に活路を見出せないままにいます(カラオケも、自分のキィやテンポで自分の歌を歌うように使えば、すばらしいツールなのに、この日本では活かしきれず、です)。そうして、自らが先頭に立って立ち上げてきた“ヴォイトレ市場”と距離はとりつつ、研究所は、声楽家を中心としたトレーナーと共に、声の基礎レッスンや音声表現・舞台への研究を必要とする人にオープンしています。

 

○時流の変化と声楽のメリット

 

プロへのヴォイトレのあと、一般向けの養成所をつくって、ある時期からは声楽家のトレーナーを中心とした体制にしていったのも、ニーズに合わせたためです。それは、私自身が、目指したものと世の中とのズレの修正です。2000年前後に、ダメ押しのように、なおも変わっていった日本の業界への対応をせまられたためでした。ヴォイトレの対象は、歌手や役者だけでなく、声優、ミュージカル俳優、邦楽家、噺家、お笑い芸人、そして、講師、各界のリーダー、一般のビジネスマンと広がりました。

一方、平成で、歌とともに歌の中の声の力も、社会的影響を失っていったのです。それは、ここでいう“ヴォイトレ市場”とあまり関係のないことです。ヴォイトレは、実質、トレーニングでなく、ケア一色になっていったからです。その背景には、過保護な日本で育ったメンタルの弱い人、そして高齢者(ベテランのリバイバルも含め)の増加があります。

 歌い手は、声の力でなく、ヴィジュアライズされた魅力に存在基盤を移しました。演劇もミュージカル化して、ミュージカル(日本のミュージカル)に合う歌い手が求められるようになりました。つまり、強烈な個性派のアーティストではなくエンターテイメント化し、つぶしのきくタイプが実力派とみられるようになったわけです。Jポップやカラオケと連動し、音響技術に支えられた歌は、ハイテンポ化、ハイトーン化していきました(多くは、本人の生身の体や心と離れていったともいえるわけです。声とは、本来、体と心の表れ、象徴でした)。

 

そのトレーニングに“日本の声楽”という日本人のソプラノ、テナー中心に、西欧の模倣でそれなりに実績をあげてきたものがピッタリとはまったのは当然のことでしょう。その延長上に何があるかはともかく、10年を発声中心に磨き上げるメニュとしては、声楽には、世界の人々が長く継承してきた実績と基準があります。何よりも、全世界の人にも日本人に対しても、声が出せるようにすることに長らく貢献しているプログラムです。

その点、邦楽は、実績はあっても、発声において一般化するには、いくつもの複雑な課題があります。一方、私は、声楽を邦楽家、役者、声優のヴォイトレに使うことで、大きな効果を実感してきたのです。

声楽家は、2オクターブ近くのオリジナルキィ(原調)での歌唱発声、特に共鳴についての専門家です。今の日本のミュージカルなら、そのレベルを必修の基礎と考えるとよいと思います。

もちろん、声楽にも声楽家にもいろいろと問題はあります。声楽のノウハウも人それぞれ似て非なるものです。しかし、声そのものの力をていねいに10年がかりで養成していく点では、研究所の指針と一致していたのです。

 

○私と声楽と役者声

 

 私が、アンチ声楽から入ったのは、私の公にしているものを読んでいる人や90年代に接した人には、よく知られていると思います。日本のオペラ歌手育成の実績は、決して世界に誇れるものではありません。

私が目指したのは、「一声でプロとわかる声」でした。十代での声は、素人並みより弱かったので、徹底して変える必要を感じ、10年、鍛え続けました。その後、トレーナーとして、毎日10時間のレッスンをして、結果として鍛えられました。

当初、劇団などで、声楽家が教えている役者の方が2、3年で声が大きく変わるのをみてきました。そのうちに、日本人にとっては、発声練習以前に、役者の声をベースにすることの必要性を実感しました。そして、ともかくも本質的なものへの勘と実践からの実感でスタートしたのです。今、思うとこれこそが開発すべき能力です(個人史は省略します)。

 

○目的の変容とレベルの低下

 

 研究所では、当初、プロの声の鍛錬中心でしたが、それだけでは、当然、偏りかねないので、感覚を育てるため、一流のアーティストの声や歌を徹底して聞かせることになりました(研究所史も省略します)。

そのころまでの私のやり方では、感覚として音楽などで磨いた耳から発声へ結びつけられない人と、元より、声の器質として鍛錬して開発できる余地(伸びしろ)の少ない人が課題として残りました。

これは、今では、その人の喉にふさわしい複数の声の見本と特定のトレーナーを個別に設定することで、ほぼ解決しています。その人の喉の可能性に合った見本と複数のトレーナー指導に委ねるのです(「自分の見本をどう選ぶか」ということです)。

この体制づくりの途上には、他の声楽家や外国人のトレーナー、プロデューサー、師匠など、他の専門家のフォローも随分と協力していただきました。つまり、研究所という組織でこそ、この弱点の克服も可能であったのです。

 

○低迷するヴォイトレ

 

 こうしたプロセスを、身をもって知ってくると、個人で教えているトレーナーのように自分以外の考え方ややり方を間違っていると感じ、自らは正しいなどとは言えなくなります。本当にそう思い込んでいる人が多いゆえに、ヴォイトレの全体のレベルが向上しないといえます。

問題は、どのレベルに目標をとるかということです。かつては世界を目指していたのに、その人の満足するところまでとなれば、それはトレーニングではなくケアです。そのくらいのことがヴォイトレであるなら、リスクも失敗も、あり得ません。

そうしたレベルで、生理的とか科学的ということでの理論や用語をもって批判や説得することには、現場にいる私は何ら意味を見出せないのです。

ヴォイトレに研究や科学、医学、生理学的知識が不要というのではありません。それを裏付けとして理解することで、よりよい考え方や方法が生み出せるし、何よりも、致命的な誤りを避けることができます。

しかし、その多くは、欧米のものや論文の引き写しのままで、そこからの実証はなく、いつまでも個別の体験評価、あるいは、権威の借用だけだからです。

医者というのは、ケア第一ですから、安全第一でリスクゼロをとり、リターンは考えません。そして、ヴォイトレという分野、ここに関わる人や関わりたい人もまた、メンタル面やフィジカル面に弱い人が増えているのがその傾向に拍車をかけているのです。

トレーナーも、克服したのはメンタル面だけで、フィジカルでは変わっていない、本人自身、変えてきていない、つまり、声も人並みか、それよりも弱い人がほとんどです。なのに、いや、それゆえ、理論とか方法に振り回されているようにみえます。そういうところで学んでも、足らないと思えば、研究所に来ていただければよいので、今は、それも役割分担と思っています。

 

○お坊さんの読経に学べ

 

私は、日本では、「ヴォイトレは失敗している」と言ってきました。世界に名だたる歌手も役者も出せていない。声楽でもそうでしょう。かつては、「日本では、お坊さんだけが日々の読経ヴォイトレで結果を出している、そこに学べ」と言っていましたが、最近は、お坊さんも喉を痛めるようです(とはいえ、お経を毎日、読んでいることで10年も経たずに声ができてきます。その声に、強さもひびきも説得力も敵わないとしたら、ヴォイトレとは、一体、何なのでしょう)。

つまり、日本人の心身が弱っているというところに嵌め込まれたのが、“ヴォイトレ市場”で、同様のことは、最近のフィットネスジムなどにも通じます。

そこでは、生理学や科学や知識での正確さが競われます。用語や言語の問題、喉頭周辺や声帯周辺の仕組みは、無視してよいものではありませんが、現場のヴォイトレで扱うのは、生身の人間の喉から出た声とその作品です。

 私は、現在も、国立障害者リハビリセンター学院のST(言語聴覚士)科の講師を続けています。ケアや知識、研究については、各専門家から最新のことを学んでいます。しかし、実用としては、分けています。ケアとして求められるなら、その対応をせまられるのは、仕事だから当然です。その点で、いつも両面から考え、アドバイスしています。

 

○メンタルの克服

 

 初期の私のメニュのいくつかは、喉の弱い人、声をあまり使ってきていない人、状態が悪くなった人などに確かにリスクがありました。しかし、当時は、20代半ばの健康優良児がメインだったので、トレーニングで喉を壊す人などいなかったのです。体づくりから始める余裕もありませんでした。

それが一般化していくと、本を読んで判断力のないまま思い込みで行う人が出てきました。そこで改訂してはトレーニング上の注意を増やし、トレーニングの分量も減らしていかざるをえなかったのです。

スポーツや武道の経験があれば、「応用と基本は違うこと」「基本は2、3年も経たないで身につかないこと」「それでも、まだ充分な基本ではないこと」「基本の力がなくて無茶をするとケガをすること」などは、わかるのです。そういう人の中では、真面目すぎてやり過ぎてしまう人に注意しなくてはなりません。頭で考えたり体だけを酷使しようとして、勘と実感を遠ざけてしまうからです。スポーツや武道をたしなんだといってもそこで一流のプロだった人は少数ですし、そうでない人は、その違いにこそ学べるものが大きいはずなのです。

こうしてみると、フィジカルでのトレーニングで、一つのことを長年かけて身につけていくプロセスを経験していない人がたくさん出てきたことも低迷の要因の一つでしょう。それが変革の理由です。

ヴォイトレそのものの目的は、日常のレベルへといくらでも下げていけます(私も、ときどき口腔ケアの仕事で呼ばれます)。

仕事や芸なら、その他の方法でも総合的に補えます。むしろ、声よりも他の能力を磨く方が早道です。そういうことで、発声専門のトレーナー、声そのものを養成していく、といえるだけの人は、そうはいないのです。むしろ、少なくなってきたと思うのです。

 

○パワーをつける~器づくり

 

 私は、10年以上、しっかりと声の研鑽を積めるように研究所をセットしてきました。そこは変わりありません。

2、3年でうまくなって、そこから先、頭打ちになるのは、声のパワー、インパクトがないからです。それは、後からつけにくいから、最初が肝心なのです。

昔は、「大きな声が出なくては歌手や役者になれない、声の職につけない」と言われていました。生の声の力で問われていたからです。今は、そうではなくなりました。 しかし、長く仕事を続けるうえで大切なのは、「タフさ、声の強さ、喉の強さ」です。そういうことでは、今も同じです。そういう基礎がないから、30代、40代でも声に変調をきたすのです。人生100年時代、それでは通じません。

 

本当に大切なのは、声量や声を強くすることではありません。そうして「自分の器を大きくするトレーニングで自分の限界を知り、個性を知り、さらに、自ら、声を管理できるようになること」です。

 初期のトレーニングの大切さは、どの分野でも基礎の徹底です。肉体を使うものなら体づくりです。それを、メンタルトレーニングばかりやフィジカルトレーニングばかり、あるいは、応用ばかりとか、基礎と応用のどちらも中途半端に行っているのが現在のヴォイトレのように思えます。

海外も似てきていますが、正しいとか間違いを超えて、ソフトなものとハードなものなど、その人の個性重視でいろんなものが共存できているところもあって、そこは、さすがだと思います。

たとえば、セス・リグスは、すばらしい声をもつ世界一著名なカリスマトレーナーの一人ですが、それゆえ、偏ってもいます。特に日本人に対しては。だから、彼が教えても彼のような声にはなりません。しかし、彼の周辺には、全く逆のタイプの方法のトレーナーもいるということです。

 

○美空ひばりにみる話し声と歌声の一致

 

 美空ひばりは、現在でも、日本の歌い手の女王で、その声は天才と言われるほどすぐれた使い方をしていました。彼女のベースは、大正期の一流の歌手、役者です。そして、子役として男の子を演じてきました。日本人の歌手には少ない太い声は、役者としての喉声がベースだったと考えられます。

昭和40年代のスランプのときは、太い声に偏り過ぎていましたが、かつて、作曲家、船村徹が見出した裏声の復活によってオールラウンドな歌手となりました。端唄、小唄からビートルズのコピーまで完璧にこなせたのです。30曲くらいは、途中で水も飲まずに一気に歌っていたようです(まねてはなりません。念のため)。

日本の声楽家は、歌のためにしゃべるのをセーブし、しゃべる声は普通の人が多いのですが、海外のオペラ歌手では、しゃべる声もすばらしく、そのまま歌います。一般の人のレベルで、日本人とは大きな差があるのです。本当は、歌い手はしゃべるところでも鍛えることが必要です。しかし、それは歌唱に入り、ハイトーンなどの調整期には両立しえないのです。

できるだけ、早めに声量、大きな声を意識して伸ばしたいものです。十代までの合唱団の歌唱、発声法のようなものしか知らないようでは伸びにくいようです。スポーツクラブでも複数の種目を経験した人の方が伸びると言われています。

 

○毎日、歩くように声を使う

 

 「毎日1時間、声を出していない人が、1時間、せりふを演じたり歌えるわけがないでしょう」。しかも、歌は、高低強弱で、まさに“階段”です。すると、そういう人は、声を小さくして、つまり、段差をなくして凌ぐのです。マイクに頼るのです。これでは、「歌になっても声のトレーニングにはなりません」。

鍛錬ということばが、嫌われているようでもありますが、それをスポーツのように「全力で精根尽きるまでやると力が抜けて身につく」ように思ってはなりません。喉はそこまで耐えられないからです。いや、耐えられる喉をもつ人もいますが、かなり少なくなっています。そこでは徹底して合理的に鍛錬していかなくては変わらないでしょう。

 

メンタルの問題が大きくなってきましたが、これもフィジカルからメンタルを鍛えるのです。いえ、勘と実感を磨いていくと言った方がよいでしょう。

このフィジカルにおける総括的な発声の問題は、結局のところ、解剖生理学やケアの医学で「神経系などのコントロール」というように説明されています。筋トレ・呼吸トレ害悪論の根拠になったようなものです。

しかし、そうした正論と思われる批判を受け入れたところで、トレーナーや本人は、よりローリスクローリターン傾向になるだけです。

ハイリターンが目的であれば、期限や成果などのリスクとどう兼ね合わせていくのかです。そこは、全くスタンスが違うのです。そこを逃げずに、前向きに挑戦させられるのが、トレーナーという存在でありたいと思っています。

 

 喉を酷使しない、充分休める、声を無理に使わない、風邪のときは出さない云々は、当然ふまえておくことです。しかし、現場での仕事は、そういうリスクのオンパレードです。

 下手なヴォイトレをするよりは、「海外へ行って生活する」「出家する」ことをお勧めしてきました。あるいは、当初からずっと提唱してきましたが、「腹から笑い転げる」方がましです。全ては、結果をみて声がどうなのかです。ここではヴォイスのトレーニングですから、声の結果をみてということです。

最後に、日本人はコピー好き、原調好きですが、ファンはともかく、業界の関係者には、アーティストの喉への手厚い配慮をお願いしたく存じます。楽器のように弦を張り替えたら済むものではない、本当に貴重なものなのですから。