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ヴォーカル、ヴォイストレーニングQ&A

[6]声量/フレージング

 

Q050

私の声は、喉で出ているようなのですが、プロのヴォーカリストの歌っているところをみると、全身を使って歌っているように見えます。どうしたら、体から思う存分、声が出せるようになるでしょうか。
A050

声は声帯の振動によってでることには違いありません。声をうまく出すためには、声帯をうまく働かせることとそこで出た声をうまくひびかせることが大切なのです。しかし、声帯だけが声を決めているわけではありません。

 人間の体という楽器をヴァイオリンにたとえてみると、声帯は、ヴァイオリンの弦にあたります。そこを振わせて音をだすわけです。直接、弦を振わせているバイオリンの弓にあたる役目を果たすのが、肺から出る息です。息は肺を取り囲む筋肉の働きによって横隔膜を経てコントロールされています。声帯そのものをうまく使うわけにはいかないので、呼吸をコントロールすることによって、周辺の筋肉も含めたヴォイスコントロールを習得していくわけです。ですから、腹式呼吸の訓練が、ヴォーカリストのトレーニングに必修となります。

 また、声を大きくしたり、音色をつくりだすのは、ヴァイオリンでいう胴の部分にあたります。ここが、共鳴腔と呼ばれる部分です。体の共鳴腔は、口腔、咽頭、鼻腔などの声を共鳴させたり、拡大させる空洞のことを指します。そこを利用して、声をうまくひびかせることが大切です。

 

Q051

どうも声がうすっぺらく、情熱的に歌が歌えません。うすっぺらい声は直りますか。
A051

うすっぺらい声に聞こえるのは、声の共鳴の問題から起こることです。口の開け方、特に口の奥のかたちが大切です。腹式呼吸をもう一度復習して、母音の口の開け方のトレーニングをしましょう。うすっぺらい声になってしまうときは、口の奥の開け方が狭くなっていて、共鳴が少ないために、深い声が出ないという場合もあります。

<声に厚みをつけるトレーニング方法>
●口の奥がのどの方まで広がる感じでおくびをしてみてください。
●その口のかたちを変えないで、声を出します。明瞭な発音でなくあいまいになってもかまいません。
 例:アーエーイーオーウー

 このときは口の奥が開いているので、声は出しにくいかもしれませんが、うすっぺらい声ではなくなります。息ばかりもれてしまう人は口の奥の天井に声を当てる感じで、声を出してみましょう。これができるようになったら、あくびのように極端に口の奥を開けなくとも深い声が出せるようになっていきます。

 

Q052

僕はヴォーカリストですが、どうしても声のヴォリューム、パワーに欠けて、歌っていてももの足りない気がします。声がうまく出ないしヴォリュームがないのを直すよい方法は、ありますか。
A052

ハミングのトレーニングが効果的です。息を効率よくつかうためのトレーニングとして、ハミングはとてもよい訓練方法です。

<ハミングのトレーニング方法>
 まず小さな声でハミングから声を出しはじめて、だんだんハミングのまま声を大きくしていき、同時に口を少しずつ開けていきましょう。口を開けたときは「ア」の母音で声を出してください。ハミングをするときは、声の意識は鼻のつけ根あたりにポイントを置くようにします。その意識のポイントを口を開けても、変えないことが大切です。腹式呼吸での息も、そのポイントへ当てた感覚のまま、声を大きくしていってください。音程をいろいろと変えて、どの音でも自由にp(=ピアノ、小さい声)からf(=フォルテ、大きい声)まで声を出せるようにトレーニングしましょう。

 

Q053

何を歌っても一本調子に聞こえます。一本調子といわれないためにはどうすればよいのでしょうか。
A053

歌う前に、曲の内容を理解して、どこで盛り上げて、どこで語りかけるかなどといった構成を考えておくことです。強弱やテンポなどもある程度まで予め決めておいた方が歌いやすいと思います。

 一本調子になりがちな人は、選曲のときに、ノリのよいビート感のある曲を選びましょう。スローな曲や単調な曲は、簡単に思えますが、逆に歌唱力やセンスが出やすいものなので難しいのです。はじめは、曲自体がある程度、早いテンポのものを歌ってみましょう。曲にうまくのれるように練習しましょう。

 自分がその曲をどう表現したいのか、という主張がそこになければ、聴く人には、単なるノイズとして聴こえるだけで、歌い手の心が伝わるはずはないということを、いつも忘れないでください。

<声の調子に変化をもたせるトレーニング>
 ここでは強調する部分を変えることによって、言葉に抑揚をつけ、感情を使い分けるトレーニングをしてみましょう。
 下線部を強く言ってみてください。
(1)あなたが 愛した 私の花 ◎(あなたが に下線)
(2)あなたが 愛した 私の花 ◎(愛した に下線)
(3)あなたが 愛した 私の花 ◎(私の花 に下線)
(4)あなたが 愛した 私の花 ◎(私 に下線)

 

Q054

歌に思うように、メリハリがうまくつけられなくて悩んでいます。うまくメリハリをつけるためにはどうすればよいでしょうか。
A054

まず、曲の構成を考えておくことです。歌をうたう場合、曲のメリハリをきかすときと声や言葉のメリハリをきかすときとの2種類があります。声のメリハリをつけたいときは、どこで声を大きくはり上げるかということも大切ですが、小さな声の使い方がより重要になってきます。いくら大きい声でも、初めたら終わりまでずっと大きな声では、単調で一本調子になります。プロのヴォーカリストの“うまさ”は、聴かせ所をふまえて、これを自在に調整しているからです。語りかけるようにするとどんなに小さな声の部分でも聴き手にメッセージを伝えられます。

 しかしこの小さな声のときに、腹式呼吸、発音、発声の基本が身についているかどうかが、はっきりとでます。自由自在に声をコントロールできなければ聞かせられません。その上に初めて、言葉の意味や、メッセージを伝えるテクニックがのってくるわけです。大きく歌って盛り上げるところと小さく語るように聞かせるところとどちらのテクニックが欠けても、メリハリのある、聴き手の心に伝わる歌は、歌えません。

 そのための基本的なトレーニングとしては、歌詞を詩の朗読の要領で気持ちを込めて読んでみるのがよいでしょう。小さな声で読んだり、大きな声で読んだり、それを組みあわてたりして、表現というものをしっかりとつかみましょう。他の人にきいてもらうか、テープに録音して、気持ちが伝えられているかを確かめましょう。朗読がうまくできないときは、BGMにその曲のメロディをかけてみると気持ちを込めやすくなります。

<メリハリ、抑揚をつけるトレーニング>
 長く伸ばすところを変化させてみます。言葉が壊れず、意味がしっかりと伝えられるようにやってみてください。
(1)つーめたい こーとば聞いても
(2)つめーたい ことばー聞いても
(3)つめたーい ことーば聞いーても

 

Q055

スポーツ選手のように体を鍛えることは歌に有利でしょうか。
A055

一般にスポーツ選手は体を使って、何かをやっているという点では、歌と多くの共通する点があるといえます。集中力、勝負強さ、あがり防止、リラックス、基本の繰り返し、状況に応じた瞬間的な判断などのことです。ですから、必ずしもスポーツ選手のように鍛練していくことが歌に結びつくとは限りませんが、声をトレーニングしていく上で有利な条件を備えているとはいえます。体を鍛えることはヴォーカリストにとってのよい楽器づくりと言えるからです。しかし、いくら楽器としてよい体を持っていても、それを効率よく声として使うテクニックを知らなくては、何の意味もありません。よい楽器を正しい方法で歌えば、よい音が出ます。体を鍛え、正しい発声をマスターして声を出せばよりよい歌声になるでしょう。

 ちなみにプロ野球の選手や、相撲の力士などは、比較的、歌の上手な人が多いということは確かです。これもアーティストとしての総合力をもっているという点からもスポーツとヴォーカルとの共通点を見い出せるような気がします。

<体づくりのトレーニング>
●腕立て伏せ臥腕屈伸……10〜15回1セットで6セット。
●足腰を強くする運動……片足立ちでしゃがむほ立つをくり返す。10回1セットで6セット。
●懸垂屈腕……10回1セットで6セット。
●ディップ……静かに曲げ伸ばし。10〜30回1セットで3セット。
●バック・イクステンション、ベント・ニー・シット・アップ、カーフ・レイズ……ゆっくりとした動作で1セットずつ行なう。

 

Q056

私は、声を張りあげて歌うのが、好きではありません。汗をかきながら、歌っている人をみると、何かバカみたいと思ってしまいます。そもそも歌に声量は必要なのでしょうか。
A056

結論からいうと、声量はあった方がよいことは確かです。声を張りあげたくなければ大きく使わなければよいのです。何ごともないよりあった方がよいのです。

 しかし、声の大きさは、あくまでも、自分の歌を相手に伝えるための表現上で必要とされることの一つにすぎません。自分のメッセージが上手に伝えられるならば、それで充分です。激しい気持ちを表現したいときに、大きな声を出さずとも表現できるなら、きっと、その方がよいでしょう。しかし、うまくなっていくにつれ、自分の感情をよりストレートに伝えたくなってくると大きな声が必要となってくることがきっとでてくるような気がします。さらにつぶやくように小さな声で表現するためにも逆に、そこで体を使えなくては歌が通用しません。つまり、器(フォームといってもよい)というのは、大きくつくって小さくできますが、その逆はできないのです。ですから、声量の幅をもっていることは、より豊かな表現ができる可能性をもっているといえます。続けていくほどにヴォーカルとしての世界も広がり、深まっていくことでしょう。そのためには、声をしっかりと出せるところからやる方がわかりやすいし上達するのです。多くの人を感動させるのに、パワーはなくてはならないものなのです。

<言葉をていねいにしっかりと発するトレーニング>
 下に上げる言葉を力強く、はっきりと言ってみましょう。
(1)今日も小雪の降りかかる
(2)白い犬と黒い猫
(3)またひとしきり、午後の雨が瞳をぬらす

 

Q057

僕はパワフルなヴォーカリストをめざして、日夜トレーニングに励んでいます。そのためになによりも声量を豊かにしたいのですが、どのような練習をすればよいですか。
A057

声量がある人の歌には余裕が感じられます。そんな様子を見ると、誰しも「声量さえあれば…」と思うようです。日頃から大きな声を出している人が声量が豊かであることは確かです。しかし、それがそのまま生かされないところが歌のむずかしさなのです。

 大声で歌えばスケールの大きな歌になるというわけではありません。歌というのは一曲すべてを通じてどのような印象を与えるかが大切なのですから、トータルでのバランスが問われます。最初から最後まで大声で歌っていると、味もそっけもない一本調子の歌になりがちです。特にポピュラーの場合はマイクを通すわけですから、声量=実際の音量ではありません。ヴォリューム調節でいくらでも大きくできるのです。

 つまり、人がパワーのある歌を聴いて豊かな声量だと感じるのは、ヴォーカリストの声の大きさそのものではなく、声を大きく聞かせられるテクニックによるものだということです。これは、声量のメリハリのつけ方といってもよいかと思います。

 たとえば、自分が出せる声量の60〜80%で1曲を歌い通すよりも、20〜70%の広い幅で声量を使い分ける方が声は大きく聞こえるのです。この場合、80%の声よりも70%の声の方が大きく聞こえます。

 人間の感覚はものごとを相対的にとらえます。最初は大音量にびっくりしても、慣れてくるとそう動じなくなって、そのうち飽きてきます。しまいにはうるさくなって拒絶反応が起きます。それに対し、小さい音量から徐々に大きくなっていくと感情が盛り上げられ、高揚します。そして曲というのは、だいたいそのようにつくられています。ですから声をさらに大きく出そうとする前に、今ある声量を使い分けてみてください。その枠内でしっかりとコントロールできていて、乱れない声が出せるようになれば、それだけでもずいぶんと変わるはずです。

 もちろん声が大きく出る方が有利なことには違いありません。大きな口の動きで声を響かせる発声練習とフレージングや息のトレーニングをセットでやってみましょう。

 成果がでてきたところで忘れていけないのは、今度は逆に小さな声量でしっかりと歌えるようにトレーニングすることです。これは本当に体を正しく使って歌えるようにならなくてはなかなかできません。豊かな声が出せるフォームが完成して、その上で初めてできることなのです。しかし、その小さい声量が使えなければ大きな声量は生きてきません。プロは小さな声を生かす技術を持っているから、アマチュアがなかなか真似できないようなメリハリをつけて歌うことができるのです。

[7]共鳴