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ヴォーカル、ヴォイストレーニングQ&A

[4]発音/言葉(母音)

 

Q030

ヴォーカリストとして、メロディやリズム、音程のトレーニングをしています。言葉にもトレーニングはあるのでしょうか。また、言葉のトレーニングは必要なのでしょうか。
A030

言葉のトレーニングは、役者、アナウンサー、その他にも言葉を使う仕事についている全ての人々が行っているトレーニングです。ところがヴォーカリストはほとんど、このトレーニングしていません。音楽スクールでも、言葉のトレーニングには、無関心のようです。これは大きな間違いです。歌は、音楽を演奏することにおいては他の楽器とかわりませんが、それだけでなくメロディーに“言葉”をのせることができるのです。ヴォーカリストが歌を歌うということは、言葉をメロディーにのせて語りかけるということです。ヴォーカリストにとって言葉はとても大切な要素なのです。

 しかし歌を歌うときの言葉は、音程やリズムをつけなければならない分、相手に伝えるのが難しくなります。そのための基本として、言葉のトレーニングをまず、しっかりとやらなくてはいけないはずなのです。

 言葉のトレーニングの第一段階として、日本語の音訓練から始めましょう。日本語は、アイウエオの5つの母音と55の子音と、ん(撥音)、きゃ、きゅ、きょなどの拗音の組み合わせで構成されています。150以下の音の組み合わせからできているのです。これらを充分にトレーニングしておきましょう。特にアイウエオの5つの母音は、口先での明瞭さではなく体の奥から声を発する感覚で、深い母音をマスターしていくことです。

 また、日本語以外の言葉、例えば英語などの歌を歌う場合は、日本語の音をもとにして、外国語をつくろうとすると必ずふしぜんなものになってしまいます。AIUEOといっても日本語での理想のアイウエオと外国の母音では全く違うからです。ともかく、英語、フランス語、イタリア語、ドイツ語など、どの国の言葉で歌うにしても、日本語の母音にこだわらずに、その国の母音を身につけることから始めることでしょう。私自身は、日本語をしっかりと音楽に使えるようにしていくには、イタリア語あたりの母音をマスターすることから始めるのもよい方法だと思っています。

<言葉のトレーニング>
 次の言葉をしっかりと読んでみましょう。
(1)アテンションプリーズ、アテンションプリーズ
(2)テス(ト)、テス(ト)、テス(ト)、ただいまマイクのテスト中
(3)アエイオウ、AEIOU


Q031

歌っていても、言葉がわからないといわれることがよくあります。もごもごと口のなかでこもってしまったり、言葉がはっきりとしないようなのです。言葉がはっきりしないのを直す方法は、どうすればよいのでしょう。
A031

まず、口をしっかりと動かし、開けることです。そうしないと声は前にでません。あるいは逆に、言葉をはっきりと言おうとしてむやみやたらに口を大きく開けすぎていないかを考えてみてください。口をいくら大きく開けてもムダに大きく開けている場合には、かえって平べったい口先だけの声になり、実際に使いにくい声になります。歌のための発声ですから、お腹から声を出すのが基本です。試しに口先はあまり開けずに、口の中を開ける感じでAIUEOとお腹を意識しながら声を出してみてください。少しこもった感じになるとは思いますが、口を開けているときより、口の奥の方でしっかりと共鳴しているのがわかるでしょう。

 始めから、すべての言葉をはっきりと発音しようとしすぎると、口がパクパクするだけで、音程をとってメロディーにのせるだけで精一杯となり、本来の言葉の持ち味やイントネーションを生かせなくなることが多いようです。

 ですから、個々の音の訓練をするとともに、体の底から言葉を言ってみることをトレーニングすることです。体から言葉が言い切れるというのがヴォーカリストの基本だということを忘れないでください。早口言葉のような練習も、それをふまえた上でなければ効果はありません。まずは深くひびきのある声を出すことの方に重点を置いてトレーニングを行ってください。

<言葉をはっきりとさせるためのトレーニング>
(1)アエイオウ
(2)アイウエオ
(3)アカサタナ
(4)ハマヤラワ
(5)アオイソラとトオイウミ


Q032

私の声は固いので、よくハミングをするトレーニングをするように言われます。ハミングというのは、何となく声にはならないのでトレーニングがうまくできているのか不安です。ハミングのトレーニングはどうするのか、気をつける点などを教えてください。
A032

声帯を、正しく合わせ、振動を自由自在にコントロールさせる訓練として、ハミングは大変、効果的なトレーニングといえます。ハミングは長時間トレーニングを続けても、喉を痛める危険が少ないので調子の悪いときでも、充分にトレーニングできます。
 次のトレーニングは、クラシックのオペラ歌手を目指す人たちの毎日の発声練習でも行われているものです。自分だけに聴こえる程度の小さな声量で練習を行ってください。
 ハミングのトレーニングをする際の注意としては、音量はできるだけ小さくてもよいから鼻のつけ根(メガネのひっかかる位置)を意識し、そこにひびきがくるようにしてみてください。

<ハミングのトレーニング>
○常にレガート(なめらか)に一音一音をつなげていくこと
○口は最初は閉じて、次に少し開いて行うとよいでしょう
○目はしっかりと開いて視点を定めてください。


Q033

私はヴォーカルをずっとやっていますが、今だに発音がよくないとか言葉が何を言っているのかよくわからないといわれます。歌っているときには気をつけているのですがどうしたら直りますか。
A033

他の人に正確に伝わる“明瞭な発音”には、1.唇の運動能力2.あごの運動能力3.舌の運動能力4.喉(声帯)の運動能力、この4つが全てスムーズに作動していなければなりません。しかし、話すときも歌うときも、いつでも、これらに注意しているということは、頭が重くなってしまうでしょう。却って明瞭な発音をしようとすればするほど、ふしぜんになってしまいがちです。これは体の余分な部分に力が入ってしまい、うまく動かなくなるためです。
 発音をクリアにするトレーニング方法をやってみてください。

<唇のトレーニング
 自分の好きな曲を一曲選びその歌詞を使って黙読をします。このとき、唇・舌・喉・あごなどは声を出して読むときと同様に動かしてください。声に気を取られない分、唇・舌・喉・あごの動きが明瞭に感じられます。つた、詞の意味を考えながら読むとメリハリもついて、より効果的です。口の動きがつかめてきたら、今度は声を出します。遠くの方にマイクをおいて録音し、チェックしてみれば、以前とは格段の違いがあることがわかるでしょう。後は、音読、録音、チェックをくり返し、不明瞭な部分を改善していきます。

 

Q034

僕は歌っているときに舌がうまくまわらないときがあります。いつも舌足らずの感じになります。発声練習をやっていてもうまくいきません。
A034

舌足らずの声も不明瞭に聞こえる声の一種です。まずは、唇のトレーニングを充分に行ってください。それから、舌のトレーニングをやりましょう。

 舌のトレーニングの基本は腹話術の話し方と同じです。あごと唇を使わずに舌と喉の運動だけで発音しなければならないので、舌足らずを直す練習として効果があります。顔の表情はなるべく変えないで、明瞭な発音になるように心がけることです。

<舌のトレーニング>
(1)鉛筆か指などを歯で軽くかんでください。唇は、力を抜いて開いたままにします。
(2)自分の好きな詩、文章を、唇・あごを動かさずに発音してみてください。
   唇を閉じなければ発音できないB・F・M・P・Vの子音は、d・h・b・t・dなどで代用してもよいでしょう。その他の音は、できるだけ正確に発音するようにしましょう。
(3)慣れてきたら何もかまずに同じことばでトレーニングを続けます。

 

Q035

速いテンポの曲を歌うとき、言葉がうまくついていきません。早く口がまわらなかったり、言い間違ったりします。うまく言えたときも、急いで言っているように聞こえ余裕がありません。
A035

言葉を話すときに、口を開けすぎてはいませんか。唇やあごの運動にエネルギーを多く使うと、言葉にするときに喉、舌の運動にエネルギーや気持ちがいきません。バランスよく、喉、舌、唇、あごの4つの運動機能が働いているかをチェックしてください。Q030から挙げてきたトレーニングを充分に練習してください。

<言葉のトレーニング>
 ここではアナウンサー、役者さんなどの基本トレーニングとして使われる言葉の練習を紹介します。単に早口言葉のように速くしゃべるのではなくお腹から声を出し、言葉にメリハリをつけて発声します。

子音のトレーニング〔あいうえおの歌/北原白秋〕
 あめんぼ赤いなアイウエオ 浮藻に小えびもおよいでいる
 柿の木栗の木カキクケコ きつつきコツコツ枯れけやき
 ささぎに酢をかけサシスセソ その魚浅瀬で刺しました
 立ちましょラッパでタチツテト トテトテタッタと飛び立った
 なめくじのろのろナニヌネノ 納戸にぬめってなにねばる
 鳩ぽっぽほろほろハヒフヘホ 日向のおへやに笛を吹く
 まいまいねじまきマミムメモ 梅の実落ちても見もしない
 焼き栗ゆで栗ヤイユエヨ 山田に灯のつく宵の家
 雷鳥は寒かろラリルレロ 蓮花が咲いたら瑠璃の鳥
 わいわいわっしょいワイウエオ 植木屋井戸がえお祭りだ

 

Q036

私は、ヴォーカリストですが、とにかく、もの覚えが悪く、肝心の詞が覚えられなくて困っています。覚えたと思っても、すぐに忘れてしまいます。どうしたら、恥をかかなくてすみますか。
A036

意味がわからないまま歌詞を暗記するのは難しいし、一度覚えてもすぐに忘れてしまいます。そのヴォーカル科の大まかなストーリーを頭に入れておくのが歌詞を覚えるコツです。歌詞の意味を充分に考え情景を思い浮かべながら覚えていくようにすれば、ストーリーを追うことによって、言葉がしぜんと出てくるようになります。その際、歌詞はメロディと一緒に覚えるようにしましょう。前奏が始まったらしぜんにメロディと共に言葉が出てくるようになるまでがんばってください。

 またあなたの場合、苦手意識がプレッシャーとなってますます覚えられなくなっているということもありえます。歌詞を一語でも歌い損じたら途端に曲が台なしになるという考えは、この際、捨てた方がよいでしょう。詞を少々忘れたとしても充分にフォローは可能ですプロ手もよく間違えて歌っていますが、顔に出さないので観客にはわからないのです。間違ってもあわてずに、すまして歌い切ってしまうのもプロのテクニックの一つです。

<詞を覚える練習>
 自分の好きな詞を1番だけ抜き出して、その詞の内容を詞に使われている言葉をすべて入れて200字くらいで述べてください。詞の暗誦はそのあとに行ないます。

 

Q037

私は田舎から出てきて、まだ、なまりが直りません。歌っているときにも、ときたま、方言が出ているようで、歌ってからよく指摘されます。アクセントも迷うことが少なくありません。
A037

方言が直らない、アクセントが正しくないことをあまり気にしすぎないようにしてください。それもあなたの個性になります。

 地方によって発音はかなり異なりますが、正しい発声法で声を出してさえいれば、歌のなかではあまり影響することはないでしょう。

 歌詞にはメロディがついています。ですから、話す言葉のアクセント通りに、楽譜が書かれているとは限りません。ですから、メロディにうまく言葉をのせることができれば、話すときのように言葉のアクセントを気にする必要はないのです。しかし、正しいアクセントや発音で話している方が、歌うときでもしぜんに美しい言葉になりやすいので、少しずつ、身につけていってください。

 歌うときに、なまりがどうしても気になるという人には有効なトレーニングがありますので紹介しておきましょう。

<言葉を正しく発音するトレーニング>
 このトレーニングは言葉を音節に区切り、意味やアクセント、イントネーションを包括してしまうことによって“なまり”を修正するというものです。自分が歌う歌の歌詞を使ってトレーニングします。

(1)アクセントやイントネーションを一切無視して1音節ずつ明瞭に、すべて同じピッチ(音の高さ)、同じ音の長さで読みます。イメージとしてはロボットのような機械的な読み方です。
(2)声の高さを高くしたり低くしたり、いくつかパターンを変えてやってみましょう。
(3)慣れてきたらリズムだけ歌に合わせ、同じピッチで言葉を読む練習もしてみましょう。

 

Q038

日本語で歌うのがとても苦手です。外国語もうまくないし、日本で歌っていきたいので、日本語でしっかりと歌えるようになりたいのですが、よい勉強法はありませんか。
A038

日本語は、歌としては扱いにくい言葉です。口先でも適当に発音できてしまう言語ゆえに、使い手は深みのない発声に慣れてしまいます。多くの人がイやウの発声でうまく声が出ないのも、普段のままの発声で歌おうとしているからでしょう。そんなわけで、日本語を正しい声の出し方で歌おうとすると、かなり意識的に努力することが必要になります。充分な声域や声量がとれず、言葉も途切れ途切れになってメロディにのりにくいのです。

 日本語そのものを歌いこなすノウハウは、やはり演歌のなかに多く含まれていると思います。ロック、ポピュラーも、字あまりにしたり、カタカナの言葉や英語を多用して歌いやすくするような工夫をしていますが、根本的な解決にはなっていません。

 私自身は、日本語で歌うためにはいわゆる日本人のしぜんな声ではなく、日本語を音楽的言語として発展させたところでのポピュラーな日本語(しっかりと体から出せる声の上にのっかった日本語)を使っていかなくては難しいと思っています。イやウの発声でうまく声が出ないのも、生のままの日本語を使って歌おうとしているからでしょう。そのために、ポピュラーな日本語がどういうものであるのかを知ることです。

 これは、ポピュラーソングで、外人ヴォーカリストが日本語の歌詞をつけて歌ったものを聴くとよくわかります。若干、日本語としておかしいところはありますが、音や声だけを聞くと、日本語としても充分にしぜんに聞こえるわけです。音楽的に日本語をこなすこともできることがわかります。

 さらに、日本語以外の詞もついている曲であれば、原語で歌ってみて歌のなかでのフレーズでの使われ方をとらえた上で、日本語詞で歌ってみてください。随分と違いがはっきりとわかるとおもいます。そのときにそのギャップを埋めていくつもりでトレーニングをすることです。

<音楽的日本語のトレーニング>
 音のひびきや流れをうまく捉え、くずさないようにつなげてみてください。
(1)あい、こい、ゆめ
(2)なんて あおい ひとみ じっとみつめて
(3)パパッパーパパ、ララッラーララー

 

Q039

私は長い間ずっと英語で歌ってきました。発音などは、そんなに悪くないと思っています。しかし、いつも こらのヴォーカリストに比べて、パワーや勢いが劣る気がするのです。特に英語自体も何だかとても違うようなのです。どうしてなのでしょうか。もっと英語らしくきこえるためのコツを教えてください。
A039
日本人のヴォーカリストで英語で歌っている人たちの歌い方をみると、何となく口先で英語を器用に発音しているだけのように感じます。プロの人でもほとんど、英語らしい雰囲気を出して聴かせているだけといってもよいでしょう。

 英語は、強い息を、舌や唇で音とするような言語です。そのため、日本語にない種類のパワー、勢いといったものがあるのです。ひいては、それがヴォーカリストの理想でもある深みのあるしぜんな発声につながるのですが、洋楽のコピーをやっている日本人ヴォーカリストで、その最も根本的な部分までマスターしている人はどれだけいるのでしょうか。発音を聞いたまま、口先でまねているだけで、実はかなり日本人的な英語、カタカナ英語で歌っている人がほとんどではないでしょうか。それではいつまで経ってもあなたが目指すところの「英語らしさ」は出ません。

 小手先のテクニックでこまかすよりも、しぜんな発声を身につける基礎トレーニングを積むことが、最終的には外国人ヴォーカリストと対等に渡り合える実力につながるのです。ですから、体からの深い息をなるべく深いところで声にするトレーニングを続けることです。

 他の国の言葉ですから、たとえ歌であってもそれを母国語としている人と同じレベルに使いこなそうとするためには、相当、使い込んでいかなくては、いけません。

 人前で歌う以上、やはり本当に英語らしい英語で歌うように努力していくしかないでしょう。言語は、単に発音の問題だけではありません。留学や旅行の体験や外国映画などから広く学ぶことをお勧めします。

[5]声域