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ヴォーカル、ヴォイストレーニングQ&A

[11]トレーニング一般

 

Q086

ヴォイストレーニングを受けています。しかしトレーニングを意識するとうまく歌えないのですが、それでも意識するべきでしょうか。
A086

トレーニングに慣れないうちは誰でもうまく歌えないと思います。たとえば、自転車でも、乗れるようになるまで結構苦労した覚えがあるでしょう。それと同じようなものです。

 幼い頃から三輪車でペダルの踏み方やハンドルの操作、速度などに慣れてゆきます。補助つきの自転車から補助をはずして何度も転びながら練習してようやくひとりで乗れるようになります。いつのまにか一所懸命考えながらペダルとハンドルを動かしていた頃など思い出せないくらい、乗っているのがあたりまえのことになるのです。

 歌うことも同じです。慣れぬ状態でヴォイストレーニングをしているのは、自転車の乗り始めのようなものです。最初はなかなか無意識にかっこよく乗れないのです。ヴォイストレーニングは自転車の補助輪と同じようなものです。その人の歌を間違った発声にならないように支えておき、やがては一人立ちできるようになるための準備なのです。今のあなたは、まだ補助なしでは乗れない段階なのです。だからヴォイストレーニングを意識しながらでなければ歌えないのでしょう。

 自転車を自由自在に操作するのは、はたからみればとても簡単そうですが、補助輪をとれない人から見ると神業のようにも見えます。あるときに、いきなりうまくなっていくのです。それまではヴォイストレーニングをある程度、どこかで意識して歌うようにならざるをえないのは仕方ありません。

 しかし、ライブのときは、全くトレーニングのことなど忘れてお客さんのためにがんばるべきでしょう。そのうち少しずつ、トレーニングが歌に反映されて、一致してきます。

 

Q087

タバコやお酒が声に悪いという話をききますが、実際はどうなのでしょうか。
A087

確かに声にとってよくないものです。声帯はとてもデリケートな器官なので、本当に声のことを考えるなら絶対に避けるべきでしょう。

 タバコが声帯に悪いのは、吸ったことのある人なら実感としてわかるはずです。肺と口の間に声帯はあります。タバコを吸うとタールやニコチンが煙となって体の中に入ります。声帯はその煙の通りみちに突き出た形になっているために大打撃を被るのです。長い期間、タバコを吸いつづけると、貝がらのようだった声帯がコンニャクのようにブヨブヨになってしまい声がかすれたり、出なくなっていきます。

 「酒は百薬の長」かもしれませんが、喉にはよくありません。お酒の影響に関しては、かなり個人差があるかもしれませんが、余程の人でない限り、飲んだら歌わないのを鉄則にしてください。なぜかというと、お酒は血行をよくすると同時に神経を鈍くする働きもあるからです。血行がよくなると声帯でも血のめぐりがよくなり、はじめは調子がよいかもしれませんが、その分、疲れも早く出てきてどんどん充血していきます。また神経が鈍くなるため、耳がきこえにくくなり、発声の感覚もつかみにくくなります。自分の声が聞こえないために、疲れた声帯で声をはりあげがちになり、それが危険な発声であることに気づかない状態になってしまうのです。カラオケボックスへ行ってビールを飲みながら朝まで歌いまくるなどというのは、ヴォイストレーニングをしている人は絶対にやるべきではないと思います。一度無理をしてこわした声帯はなかなか元には戻らないし治ってもクセになってしまうことが多いのですから、本当に無理は禁物です。

 ロックのヴォーカリストなどは絶えずタバコを吸っているイメージがあります。これは声帯を痛めつけることによって声がハスキーになると思ってのことかもしれません。しかし、あまり効き目はありません。ギターは音がひずんできても、ただエフェクターをはずせばよいことですが、痛めた声帯はとり返しがつきません。ドスをきかせた叫びは人の心を打つかも知れませんが、喉を正しく使わないと決して長続きしません。くれぐれも気をつけてください。

 

Q088

私は賃貸アパートに住んでいるので、ヴォーカルの練習ができないのですが、 何かよい方法はありませんか。
A088

大きな声を出す練習は確かに近所迷惑です。私の知り合いのなかにも、エレベーターを待ちながら、そこがとてもひびく所だったので歌っていたところ、3階も上の人が歌声を悲鳴と間違えて大騒ぎになってしまったことがありました。大きな声を出している方は気にならなくても聞こえてくる人にとっては迷惑なことです。ヴォーカルのトレーニングは深夜は当然ですが、いつも周囲の人の事を考えて練習する必要があるでしょう。かといってスタジオを借りて練習するのは、そこへ行くまでの時間やお金がかかり、毎日続けるには難しいかもしれません。無理した結果、逆に次第に練習量がへっていくと、身につかなくなります。

 ヴォイストレーニングの基本に戻って考えてみましょう。声を出すしくみは大きく3つの作業に分かれます。「息」「声」「共鳴」です。簡単にいうと、息を出すことによって声帯をふるわせ、声帯で出た音を共鳴させるのです。ヴォイストレーニングの練習はこの三点を意識すればよいわけです。ですから、この三点をそれぞれ別々に練習すれば、近所迷惑はかなり防げると思います。そしてそれらを総合した練習だけ、大きな音を出しても大丈夫なときに、そういう場所ですればよいでしょう。誰でもこの、総合した練習が一番楽しいはずですから、これなら続けられるのではないでしょうか。とりあえずここではほとんど音のしない「息」のトレーニングを紹介します。

<息>(腹式呼吸)
(1)みぞおちのあたりで水平に体を切った切り口を意識します。(手でさわってみましょ
     う)
(2)その切り口のだ円形を全部の方向へ押し広げるようにして息を入れます。
(3)そのまま、切り口の下の部分から息をはく感覚をみつけてください。((2)の広げた
     だ円形の切り口はできるだけひろげたまま、残り少ないハミガキ粉のチューブをしご
     いて出すようなイメージです)
 (1)〜(3)までができるようになったら、今度はそれを使って息の量や長さをコントロ
    ールするトレーニングをします。息の量がわかりやすいように、「静かに!」の、シー
    ッと同じように、スーッと言いながら練習します。
(4)スーッ(ひたすら長く吐く練習、ムラをなくす)
(5)スースーッ(息が残っている状態から吸い直す練習)
(6)スッスッスッスッ(息の瞬発力をつける練習)

 

Q089

ヴォイストレーニング、ヴォーカルトレーニングを学びに行きたいのですが、何を基準に選んだらよいでしょうか。スクールと独学とどちらがよいでしょうか。
A089

ヴォーカルも一つの芸事だと捉えるのなら、しかるべき基本をしっかりとマスターしていかなくては、上達はおぼつきません。自己流でやっている人も少なくないのですが、声に関しては、第三者にアドバイスしてもらった方がよいでしょう。できたら、しっかりと声の判断ができる人につくことをお勧めします。

 楽器を教わる以上に、ヴォイストレーニングは、指導者の資質によるところが大きいので、気をつけて選ばなくてはなりません。大手のやっているスクールに入って、ものになった人は甚だ少ないのは、ヴォーカリストに本当に大切なことは、上っつらだけの指導では伝えわらないからです。汗一つかかないトレーニングをやっているところや、リズム、音程のトレーニングばかりをやっているところでは、上達するわけがありません。私のところにも、スクールをやめてくる人がたくさんいます。多くの人は、いかにもトレーニングしましたというふしぜんな歌い方しかできなくなってしまっているので、原点に戻すのにひと苦労です。いくら施設やカリキュラムが立派でも、ことヴォーカルに関しては、そんなことを判断の基準に入れるべきではありません。私は相談を受けても、カラオケでうまくなりたいくらいでしたら、スクールが早いけど、本当のプロのヴォーカリストになろうとするなら、それは遠回りにさえなりかねないとアドバイスしています。少なくとも、日本のスクールでお勧めできるところは、ほとんどありません。そこでは、小手先の技術ばかりでヴォーカリストに最も大切なアーティストの精神を学べる場になっていないからです。

 

Q090

トレーニングを受けるときには、グループと個人とどちらがよいのでしょうか。あるスクールに行ったところ、グループ指導だったので身につかなかったように思うのですが、やはり個人レッスンがよいのでしょうか。
A090

どちらにも一長一短があり、一概にはいえません。ただ、スクールのグループのトレーニングをみていると、楽譜通りに歌を覚えて、皆で歌ってみて、せいぜい、最後に一人一曲歌うくらいです。これでは、カラオケ教室と変わらないので、曲を覚えることくらいしか身につかないのはあたりまえでしょう。

 個人レッスンがよいかといっても、これも指導者のやり方いかんです。大体、30分間のレッスンで5〜10分発声をやって、歌を4,5回歌わせ、アドバイスして終わりというパターンが多いようです。これも、カラオケの域を出ないので、本当にプロをめざす人には、ものたりないでしょう。共に曲を覚えるところだけが目的です。本当はそんなことは、自分でやるべきことであり、大切なのは声の出し方や歌と声との関わり方、表現について突きつめていくことであるはずです。

 私は、グループというのは、やりようによっては、多くの人の声や歌い方を聞く機会がもてるわけですから、そこから学べるものは少なくないと思っています。自分の声はわかりにくいものですが、他人の声の判断は、案外と早く身につきます。先生がどういう声に対して、どのように指導しているのかもわかりますので、自分におきかえてみたときに、具体的に内容がつかめます。さらに、レベルの高いレッスンなら、歌い方から、オリジナリティまで、グループでは勉強することができます。

 それに対し、個人レッスンは、個々の抱える問題を個別のノウハウ、最もうまくあてはまるトレーニングなどを使って学んでいくのに最適です。自分がどこまで上達したか、今の課題が何であり、それをどうやって解決するのか、何のトレーニングをすればよいかを常に明確にすることです。これを指導者とあなたとが共に理解した上で進めていくことが大切なのです。

 

Q091

ヴォーカリストになるためにヴォイストレーニングを独習しています。独習でも正しく身につくものなのでしょうか。何かよい参考書があったら、教えてください。
A091

ヴォイストレーニングは、基本を執拗なまでに繰り返す必要があります。ときには単調に感じて、やめたくなるときも出てきます。そういうときに自分に厳しくできる人でなくては独習は難しいでしょう。しかし、絶対にできないものではありません。

 トレーニングとか練習というのは基本的には自分でやるものです。それをチェックしたり、新しいアプローチ法やヒントを授かったりするために習いにいくのだと思ってください。そこで、より深いこと、本物のこと、ある種の真理のようなものに触れ、自分の毎日行っていることの意義や効果を再確認し、そして、さらに修練を積んでいくわけです。ですから、私は、そのようなことを自分で盗める(自主的に学べる)場でなくては、あえて学びにいく必要もないと思います。そこにいることで何かトレーニングをやっているつもりになるような安心感しか与えない音楽スクールなどには行っても仕方ないといっているのも、そのためです。

 参考書というのも、一長一短があります。言葉や内容をうのみにしないことです。世の中には、そういう考え方や、そのように考えている人がいて、出版社があって、本が出ているという程度に考えてもよいでしょう。

 しかし、何もないより、少しでも質のよい本が出ていることは、刺激にも勉強にもなるので、片っ端から読んでみるのもよいでしょう。私の見ているかぎりではヴォーカルに関してはポピュラーの分野では、ほとんどよい本はありませんが、最近出ているなかでは声楽の本の方がよいように思えます。拙書も参考にしていただければ幸いです。

 

Q092

私は、まだ高校生で毎日が忙しくて、時間がとれません。しかし、ヴォーカリストになりたいと本気で思っています。今、毎日できるトレーニングはないでしょうか。また、いくつくらいから、ヴォイストレーニングをやればよいのでしょうか。
A092

ヴォーカリストと年齢ということでいうならば、そこには何の制限もなく、あなた自身の考えによると思います。あなたが、まだ若すぎると思うなら、早すぎるでしょうし、もう遅すぎると思うなら、遅いということでしょう。ヴォーカリストということが何を意味するのかということも、人によってそれぞれ違うでしょう。三十歳からでも歌っていきたいのだという人がいても、全く遅くないでしょうし、五、六十歳で歌いたければ歌ってもよいわけです。こういう問いへの答えは、所詮その人が自分の行動で出していくべきことだと思います。

 特に若い人に言っておきたいことは、二十歳から始めるのは遅すぎるとか、二十五歳ではもう引退だ、などと、今の日本のおかしな風潮に自分の考えを左右されないで欲しいということです。ヴォーカリストの場合は、そこに出てくるメッセージを支えるのは、人間としての総合力みたいなところがあるのですから、年齢など、本当に関係ありません。二十歳でも、うまい人はうまいし、十年やっているといっても、へたな人はへたなのです。だからこそ実力派志向でいくなら、正しくトレーニングしなくてはいけないわけです。

 そのために私は、どっぷりとトレーニングに集中できる二年間をとりなさいと言っています。二年くらいたたないと、本当の意味で体は変わらないからです。

 それまでにやっておいて欲しいことは、ブレスのトレーニングと、言葉のトレーニングです。これを正しく教えてくれる指導者について学ぶことです。私のところにも、年に1、2回、沖縄や北海道からも講習を受けにくる人がたくさんいます。そういうところでエッセンスを学び毎日続けることが大切です。

 

Q093

僕はバンドを組んで、ヴォーカルをやりたいのですが、よいメンバーが集まりません。雑誌などの告知欄で捜したり、スタジオのビラをみて応募してみるのですが、いつもうまく続きません。よいメンバーをみつけ、長続きさせる方法を教えてください。
A093

実力のあるヴォーカリストには、相応のバンドのメンバーが集まります。少なくとも今の日本では、実力のあるヴォーカリストは希少価値で多くのレベルの高いバンドはそういうヴォーカリストを捜しているからです。

 そのように考えると、まずは自分の力をつけることでしょう。初心者バンドはあくまで初心者であり、音楽のまねごとをやっていたからといって、先が開けてくるわけでもありませんし、力もつきません。だから、長続きもしないのです。

 自分がどのような歌をどう歌っていきたいかということがはっきりしないと、どのようなバンドがよいのかも、わからないではありませんか。

 一般的にヴォーカリストより、バンドの方がレベルが高いので、初心者のヴォーカリストの立場はとても弱く、バンドのなかでも、苦労することが多いようです。バンドのメンバーも、ヴォーカリストの育て方など知りませんので、すぐにオリジナルのキーで相当に高音を必要とするような歌い方を要求して、そのヴォーカリストの将来を壊してしまうことも少なくありません。

 刺激を得るのに、バンドの仲間とわいわいやるのも楽しいでしょうが、基本の力をつける時期にはトレーニングする時間や余裕がなくては、困ります。

 

Q094

ヴォーカリストというのは、皆、ヴォイストレーニングをやっているものなのでしょうか。何となく、トレーニングをしてヴォーカリストになれるというのは信じられないのですが、本当になれるのでしょうか。
A094

これも、ヴォーカリストの定義をはっきりとさせないと答えらないことです。あなたが、どういう人たちをヴォーカリストと思っているかによっても、答えは違ってくるでしょう。俳優やタレントさん、コメディアン、CMのモデルさん、若くて顔が可愛いだけのアイドルが、すぐに歌いだす日本では歌を歌えばヴォーカリストですが、こういう人たちがヴォーカリストだとすると、きっとトレーニングよりも別の要素が占める割合が大きいでしょう。その辺のライブに出ているヴォーカリストでも同じです。あなたが本当にすごいヴォーカリストだと思って聴いた人が何人いますか。

 ちょっと歌がうまければライブに出れる今の日本において、このレベルに達するのは、トレーニングとか勉強といったものは、さほど必要ないでしょう。

 しかし、音楽や歌は国境を越えるといわれます。私はヴォーカリストと名乗るくらいであれば、体一つで世界中のどこにいっても、通用する力をつけることを目指してください。ヴォーカリストといいながらも、一曲で認められないなら自己満足にすぎないと思っています。

 そうでなくては、カラオケ名人やサラリーマンや社長さんのなかでも本当に歌のうまい人がいるのですから、区別できないわけです。つまり、ヴォーカリストとは歌うために強化された体をもっている人のことであり、そういう定義があってはじめて、そのためのトレーニングというのがあるわけです。

 どうせ日本人だから、もう年だから、今までやってこなかったから、ヴォーカリストになれないというのは、言い訳にすぎません。最高のレベルをめざしてやるべきだと思います。ヴォーカリストをめざしたいのたら、何となくトレーニング、ではだめでしょう。やるならしっかりしたトレーニングをやることです。ヴォーカリストが皆、ヴォイストレーニングをやっているわけではありません。今の日本のポピュラー界では昔ほど本当に厳しいトレーニングについてはあまり行われていないように思います。ヴォーカルのスクールやヴォイストレーニングの教室は多くなりましたが、あまり効果をあげていないようです。ヴォイストレーニングをやっているというヴォーカリストも多くなってきましたが、何となく単に曲を正しく教えてもらうだけで、いつまでたっても表面的なことをやっているだけにすぎないことが多いようです。

 私自身は、本当のヴォイストレーニングとは、声を出す楽器である体そのものを、よりヴォーカリストとして使えるところまで変えていくものであるという立場でとらえています。ですから、プロのヴォーカリストのもっているもの、何年もかかって身につけたものをいかに早くトレーニングによって体に覚えさすのかということが中心です。

 ヴォーカリストになれるとかなれないということではなく、最低限度の力、プロとしてやっていくのに必要とされる実力をつけるのがトレーニングなのです。

 

Q095

ヴォーカリストをやっていく上で楽器を弾くことができた方がよいのでしょうか。音楽理論やリズムトレーニングも専門的に習った方がよいのでしょうか。
A095

歌も音楽であることにおいては、音楽の知識や理論も最低限必要です。楽譜が全く読めなくともヴォーカリストにはなれますが、それほど大変に労力のかかることではないので、こういうことを考えた機会に勉強を始めてはいかがでしょう。

 ヴォーカリストでありながら、バンドのベースやギターの音のチューニングがはずれているのが全くわからなかったり、歌のテンポやドラムのリズムを指示できないというのは、決して得なことではありません。

 自分のステージをするのに最高の条件づくりをすること、これもヴォーカリストの大きな役割の一つです。

 

Q096

ヴォーカリストにとって、声のよくなる食べものとか、食べるとよくない食べものなどはありますか。
A096

食べものに関しては好きずきですから、あまり、気にしないことではないでしょうか。辛すぎるものや刺激の強いもの、冷たいものなどはよくないといっている人もいますが、私自身は、あまり関係ないと思っています。もちろん、とても素晴らしい声を聞かせなくてはいけない一流のクラシック歌手などは別かもしれませんが、ポピュラーのヴォーカリストでしたら、食べもので、歌が影響されるような頼りのない声の鍛え方をすべきではないでしょう。

 ただ、喉も楽器ですから、楽器として考えるなら、よいこと、悪いことというのは、あります。たとえば、歌ったり、練習しているときに急に冷たいものを食べたり、飲んだりしないことです。たとえば、喉がほてってきたからといって、氷をかじったり、コーラをがぶのみするのは、よくありません。炭酸飲料もあまりよくないでしょう。

 食べものは、スポーツ選手と同じで、栄養価の高いものがよいでしょう。インスタントラーメンの生活から、パワフルな声は難しいでしょう。ちなみに声楽家は、大食かつ美食家が多いそうです。

 

Q097

一日どのくらいヴォイストレーニングをすればよいのでしょうか。また、風邪のときはヴォイストレーニングをしてもよいのでしょうか。
A097

基本的にヴォイストレーニングに関しては、質のよいトレーニングを正しく短時間集中して行うことです。だらだらとやっても効果がありません。何時間やるかということよりも、毎日わずかでもよいから続けてやることの方が大切です。声が出せないときには息を吐くトレーニングだけでもよいから、一日も休まず続けてください。

 そういう毎日のなかで少しずつ、ヴォーカリストとして使える体となってくるのです。 本当に正しくトレーニングをすると初めての人なら十分くらいで疲れてしまいます。日本人は正しい姿勢を維持することに慣れるだけでも大変に苦労します。

 私が個人レッスンでみていますと、大体、十五分くらいでそのときの一番よい状態がでて、三十分くらいまで保てるかどうかという人が多いようです。それ以降は、やや質的におちていきます。集中力も同じことでしょう。

 風邪のときの判断も個人差があり、紙面で答えられる問題ではありません。喉が痛いときはやめた方が無難でしょう。ある程度、基本ができてくると、風邪によって声がでなくなったり、喉に影響がでることはなくなってきます。

 しかし、こういうときはトレーニングにふさわしい体調ではないのは確かです。集中力も落ちます。その人のキャリアやレベルとともに、喉の強さとも関わってくるので最終的には自分で判断していくしかありません。しかし、トレーニングの目安としては、喉が痛くなる前にやめるということです。次の日に喉が痛くなるのは、間違ったトレーニングであるか、やりすぎたための結果だと思ってください。

 

Q098

寝不足や不規則な生活は歌によくありませんか。また、体力がないとヴォーカリストになれないのでしょうか。
A098

これもヴォーカリストとして、どのようなスタンスで考えていくかということによりますが、スポーツ選手にとってよくないことは、ヴォーカリストにとってもあまりよくないと思ってください。しかし、一睡もできなかったからといって歌えないというわけではありません。

 ただトレーニング中のときには、毎日、自分の体調と声とを丹念にチェックしていくわけですから、あまり不安定な要因をつくらないことにこしたことはありません。

 寝不足だと声が出にくくなったり、喉にかかって、ひびきにくくなります。ということは、やはり、声にとってもよくないということなのです。

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Q099

自宅で声を出すために防音ルームのユニットを購入しようと思います。いろいろなメーカーから発売されているようですが、広さとか、あればよい備品(オプション)について、教えてください。また、いくらぐらいのがよいですか。
A099

防音ルームに関しては、私もいろいろな方の相談を受けて、実際にアドバイスしてきました。できたら、専門メーカーのもので、担当者がしっかりしているところを選ぶことです。

 よく大手のメーカーで出しているものを全く知識のない下請けの業者さんが設置してトラブルをおこすことがあるようです。防音ルームに関しては、単に組み立てればよいというものではないからです。

 防音ルームの広さや高さは、事情が許すのならば、大きいほどよいと思います。しかし、ヴォーカリストが一人で練習するのですから、狭くとも場所が確保できるだけでもよいとしなくてはいけないかもしれません。価格は、ユニット式のもので百万円近くします。防音工事だと、もっとかかります。

 スタジオ代で毎日千円近くかかるのでしたら、二、三年で回収できる投資額だと思います。防音ルームは、外からも物音が入らないので、録音スタジオなどでテープづくりをしている人には一石二鳥かも知れません。

 防音効果としては、ガラス製で30デシベル、普通のものは30〜40デシベルの遮音効果がある、となっているようです。メーカーのショールームに行って、実物を必ず試してみることです。ヴォーカリストやピアノの最大音量を出すと、大体そのユニットの外には音が漏れるものです。ただ、そこでかなり小さくなるので部屋の壁や家の壁といったところで完全に外に音が抜けなくなるといった具合です。入れたからといって家の中の人に全く聞こえない精度のものではないので念のため。

 

Q100

ヴォーカリストになるため、あるいは、ヴォイストレーニングのために参考となるような言葉があれば教えてください。毎日の練習のときの信条、励みにしたいと思います。
A100

自分の中に音楽・歌・世界を作り上げていく喜びを得るためには様々な試練が待っています。以下の心得を胸に刻んで努力してください。

<ブレスヴォイス・トレーニング信条>
(1)練習は自分で行うもの
(2)一日トレーニングして、一日寝て、1つ身につく
(3)一日休めば三日戻る
(4)伸び悩んでいるときが伸びているとき
(5)悩みを課題にすること
(6)できると思わなくては何もできない
(7)人は結果しかみない。結果を出すことが目的である
(8)常に過程(今日一日)を大切にすること
(9)基礎づくりにかけた歳月と努力が器となる
(10)オリジナリティを磨くこと、自分の価値を発見すること
(11)行動が習慣を変える
(12)すぐれた人間のパワーと行動力を糧とせよ
(13)他から学べ、盗め 一から十を学べ
(14)才能とは続けること、信じること
(15)急がずあせらず、自分のペースで、コツコツと

あとがき