集中力を強化する 60のヒント

(やる気の起きないときのモティベートのかけ方、テンションを高めるには)

 
(2)集中のしくみ


12 人は何に集中できるのだろうか

 集中力は、まず私たちが集中できるものから考えてみるとわかりやすいでしょう。当然のことながら、人間も生き物も、A.生存欲求と、B.種族の保持欲求が、もっともベースにあるでしょう。
 私がつくった「感性マップ」をみてください。Aとして、捕食、これは食べ物を捉えるのに五感を使う、そこでは、「感じる力」に集中する必要があります。マズロー※の第一ステップ、生存欲求レベルでの集中です。
 つまり、五感のそれぞれの集中力、それぞれのセンサーを鍛えるのがベースです。

 [五感]
  目―視覚……1.みえる 2.観る力
  鼻―嗅覚……1.匂う 2.かぐ力
  耳―聴覚……1.聞こえる 2.聴く力
  舌―味覚……1.味を感じる 2.味わう力
  手―触覚……1.さわって感じる力

 もちろん、刺激されて感じるだけでは、食べものにうまくありつけません。次に、自らその情報を求めて行動することになります。
 そこは、「情報先取力」、感じとりにいく力が求められるのです。
 つまり、ここで受身の集中状態から、積極的に注意し集中して、自らの欲を満たす行動に出る情報を得るわけです。

 食べものをとろうとして、自らが食べられてはいけません。そこで、身を守るための注意・集中も必要となります。これも、相手にさわられてから逃げる、あるいは戦うのでは、絶対不利です。
 ここでも自ら、情報を先取して備えることが必要なのです。これは個体保持であるのと同じく、種族保持でもありますから、けっこう強力な働きをもつのです。いわば、予防力、先見力のことです。

 ちなみに生物は、戦うか逃げるかを、命をかけて瞬時に判断します。人間もそういう点ではまだまだ動物と変わりません。ただ、他の生物と殺し合わなくてもよくなったものの、人間の敵は人間。人間間での抗争は絶えません。今の日本の社会では、私たちが昔ほど煩雑に、それによって命を失うものでなくなってきただけです。

 集中力が情報先取力として働くと、そこで(未来)予知力となります。それは、状況を見通す力です。それと同時に、他人の心を推量する共感力につながってきます。「今」から「将来」、「ここ」から「向こう」へ、時空が広がったのです。
 「仕事ができる」ということに集中力が必要なのは、先見力とともに共感力をもたらすからです。他人の心を推量する力も、情報先取力の一つです。

 さらに集中力が極まっていくとどうなるのでしょうか。
 私はそれを、C.本質把握力、D.創出力、E.表現力の3段階で考えました。
 本質把握力とは、目に見えないものを観る力です。直感力、洞察力といってもよいでしょう。
先取した情報から、正しく本質を把握する力です。さらにそこから、「A HA体験」、つまり、ひらめきを起こす、それがアイデア、発想力=創出力です。このあたりからは、人間の独り舞台です。
そして、それを芸術作品にまでしていく表現力、これらの3つのステージにも集中力は欠かせません。


13 快と不快も切り替えられる

 そこから逆に、ベースを掘り下げてみます。
 私たちは、好きなことは快刺激、嫌いなこと、ピンチは不快(嫌刺激)として感じます。人間もまた、生きのびるために快を好み、不快を避けるわけです。
 当然、集中力は、快のみならず不快を避けるにも働くということです。いけすの魚をトラックで運ぶのに、ぐったりしてしまうのを、天敵を同じ水槽に入れておくと、より長くピンピンしていると聞いたことがあります。つまり、不快情報が集中力を増すことになっているのです。
 といっても、快を求めることは、不快を避けることでもあるので、当然のことですね。

 おいしいものをみつけても集中が働きます。一方で、飢えてどんなものでも食べなくてはいけないときに、食べられるものをみつけようとする集中力は、もっと強く働きます。
 一流のアスリートは、自らを逆境において苦行をします。勘をとり戻すための方法は、生命力を活性化させることだからです。
 そういえば、水耕栽培(水だけ)や荒地で栽培されたトマトは、たくさんの甘い実をつけるそうです。わざと環境を厳しくすると、潜在している生命力を大いに発揮するからだそうです。

 快も(避)不快も、生まれつき入っているものとそうでないものがあります。
 生きるための最低限のものは、五感でわかるように誕生とともに備わっているのです。
 熱いもの冷たいものは、生物は不快なものとしてさけます。くさいもの、まずいもの、痛いものも同じです。生命をおびやかすからです。
 この生命体共通の性質を利用すると、集中力を増すことに、私も確かなアドバイスができます。
 それには、人間の体にとってよいもの、つまり私たち人間の体の免疫性を高めることをすればよいのです。後述します。

14 育ちを知って利用せよ

 それとともに、各人の育ちからくるもの、これも利用できます。しかし、これは個性があります。どこでいつ育ったのか、どんなふうに育てられたのか、によって異なります。生まれてからの体験は、ずっと体と心のなかに入っています。

  童心……子どもの頃の経験
  地縁……育ったところの経験
  自然……自然との経験 などが主なところを占めます。

 たとえば、音楽の好き嫌いや得意不得意などというものは、幼いときから聞いてきた音楽に影響されます。母親や兄弟など、家族の趣向、小中学校の音楽の先生、近所の音楽好きの人、友人などの好みなどが、どこかで反映します。そこに興味関心を示すかどうかも、個人差もありますが、むしろ民族や地域差が大きいといえましょう。
 ですから、小さな頃から何に興味をもち、どう接してどう感じたかは、とても大切なことです。その時代、地域、つまり、とりまく環境によっても違います。さらに、その人の素質や受け止め方でも、大きく異なります。その感じ方を知るには、自分の記録をつくってみればよいのです。

○スピリチュアルな力を生かす
 前項で、自然と述べたのは、原自然もありますが、私としては天地の理、宇宙の意識まで、つまりスピリチュアルなものまで含めたく存じます。
 人間の頭では理解できないけれど、何かしら敬虔なものを感じる心を私たちはもっています。信仰心などもその一つです。そして、そのようなとき、人々は静かに落ち着き、集中しています。
 教会や仏教の儀式のなかで集中できない人をみることは、稀です。葬式の読経で騒ぐ人もいません。がまんしている人もいるでしょうが、人間の集中力はそのくらいにはあります。映画館やクラシックのコンサート会場でも、あれだけ人間がいても静かなものです。

○どのくらい集中力がもつか
 映画、小説、歌などに対して、あなたはどのくらい集中できますか。
 映画でも、おもしろいもの、つまらないものでは、くっきりとあなたの集中力は分かれるはずです。
 なぜおもしろいものに魅かれるのか、やはりそれで心身の状態がよくなるからです。
 それと俳優たちの集中力が伝染するというのもあります☆。より集中力のある人から、伝染させるのはよい方法ですね。

15 自分の好きなものを考えよう

・好きなものを、衣食住から捜してみましょう。
・コレクション、ブランド。
・時系列に小さい頃から興味をもったものを羅列してみてください。
・そこに学校、家庭、社会、文化、芸術、仕事など入れてみてもよいですね。
・旅、温泉、宴会…。
・あなたの履歴書の項目からも捜してください。
・特技もよいですね。
・資格も。
・今ついている職業も大きな参考になります。その希望の仕事も、遠慮せずに記入しましょう。
・他人の趣味、特技、コレクション
・休日やアフター5の過し方からヒントを得られることもあります。

○自分の好きな人のことを考えよう
 好きな人のことを考えるとき、人間は集中するものです。男性なら女性のグラビア写真など、集中して見ているでしょう。袋とじなどといった子どもだましのものに、大の大人が興味をひかれるのも、先に述べた生きていくための集中力です。生と性は切り離せないのです。
 あなたの趣向、好きなタイプなど……。集中力ですから、その是非はどうでもよいのです。そこでとっても集中できる人は、その集中力をとり出して、より高次の目的のために生かそうということです。
 本能もまた、欲の塊ですから、これをうまくあなたが手なずけられたら、あなた自身の能力向上に大きく寄与するのです。女性も男性も集中力のある人に魅かれるのは、当然ですよね。

 性エネルギーを昇華して芸術やスポーツに生かすことは、あまりに一般化しています。そういう研究者の本もたくさん出ています。その理屈には触れません。そういうものも含めて、集中力を促すのはよいことでしょう。
 好きな人の写真(家族でもよい)をみて、仕事や勉強を始める、疲れてきたらまたみる、アルバム、写真集、写真などは、そういうためにあります。もちろん、頭を切り替えて使うのですから、そこではまり込んで出られなくなっては困ります。

○自分の好きな状態を考えよう
 あなたの大好きなシチュエーションは、どのようなものですか。
 たぶん、せわしないときよりもくつろいでいるときでしょう。
 狭いところよりは広いところ、縮こまっているよりは、伸び伸びとしているときでしょうね。
 その状態をイメージして、そこから集中に入るというのは、とても理に適っていますね。
 これは人それぞれに違いますから、じっくりとあなた自身のTPOを考えてみてください。

16 自分に得することを考えよう

 得したい。得することに集中する。これはもっと簡単ですね。現世利益、目にみえる目的だからです。サラリーマンやOLでは、目下、株を始めたとか、金融商品の取引が盛んです。デイトレーダーも増えています。その日に買った株が、その日にいくらに上がったか。これはパチンコよりもわかりやすいでしょう。株価全体の上昇時にはリスクの少ない投資ゲームですね。経済や数字嫌いの人も、価格のボードをみる目は集中しているでしょう。

 これは、お金が儲かるだけでなく、失うリスクもあるからです。つまり、集中力の二つの要素、プラスの好きなこと、マイナスのピンチを満たしているから、モティベートが高まるのです。
 虎の子財産を投じた人は、会社の会議で報告を聞くときには眠っていても、株価ニュースでは起きるでしょう。そういえば、出張旅費の精算時のみ、とても集中する人を私は知っています。

 銀行の預金では、集中力はあまり働きませんね。もちろん、何百万円も持って預けたり引き出したりするときは、とても集中しますね。動きもおかしく、挙動不審者のようになりかねません。
 この状態は、いつもより食うか食われるかというより、万一食われたら(盗られたら)というヒヤヒヤ状態です。ここでも集中力は、みずみずしく甦ります。
 はい、眠くなったら、現金を取り出して数えましょう。通帳の残高をみましょう。

 【TPO】 はじめての体験
      偉い人のいるところ
      ハイリスクハイリターンのところ
      身の危険を感じるとき
      恐怖、スリラー、脅されているとき

17 自分の欲しいものを考えよう

 これは、先に欲望リストで出しましたね。
 そこで、ここではモノではなく、本当に自分の欲しいこと、したいこと、して欲しいことについて書き出してみましょう。
 欲望リストって、お金とかモノとかが並びませんでしたか。いえ、構いません。若いうちは目にみえるものに魅かれます。年をとってもそうなら、さらに好ましい。お若いということだからです。現世に欲があるから、あの世にいかないのです。物欲にとりつかれても、死ぬことはありません。
 格好つけずに、欲しいものをストレートに書いてみましょう。そのうちお金で手に入るもの、入らないものもわかってきます。要は、こうして本当に手に入れたいものを見い出すのです。えっ、集中力の話? ですから、それで何を得たいのかっていうことです。

 世の中、お金の使い方というのは、難しいものです。使い方がよければお金は入ってくるのです。不思議ですね。お金がうまく使える人は、お金に困りません。少しでも早くこのことを知ると得します。お金を使って、お金を生み出すのですから。教育も考えるまでもなく、自己投資だったわけです。

 さて、本当に欲しいものは? 地位、名誉、名声、有名、知名度、仕事、好きな仕事、伴侶、子ども、孫、お母さん? 何でも並べてみるのです。
 わからなければ、他の人、自分のパートナーや子どもに願うことでもよいでしょう。
 優しさ、強さ、信用、信頼、人に好かれること、愛されること、モテること、すべてもっと具体的に書いてみましょう。案外と、スピリチュアルなものになっていきませんか。
 お金だって悪いわけではありません。でも、それも何かのためでしょう。えっ、金ののべ棒?家?それも何かのためでしょう。でも「無人島で一人で豪邸に住む」なんてことでいいのですか?

○お金だって必要だ
 お金に執着しないためには、使い切れないくらいお金をもつことが、もっとも即効的です。
 お金を嫌うと、お金に逃げられます。お金がないと生活できません。ですから、お金を追い掛けることに人生の多くをとられます。
 お金を貯める哲学は、簡単です。使う以上に稼ぐか、稼いだ分まで使わないことです。あたりまえですって。できていないから、貯まらないんでしょうが。とにかく、この逆では、仕事の目的も、お金だけに求められていきます。だからこそ、お金を無視してはいけないのです。
 お金は使いようによって、人生をよりよくする、そして自分の生を充実させ、子孫を繁栄させる(たとえ、それがあなた自身の子でなくとも)、手段だからです。

18 集中力は自己分析から

 これまで集中力をつけるために考えてきたのは、自己分析でした。自分の思いや考え方が大切、でも自分を知らずして、自分の能力はうまく発揮できません。
 好きなことなら、誰でも集中できます。ですから、好きなことについても、分析しましょう。必ずしも自分自身が自分の好きなところを一番よく知っているわけではありません。
 好きなことというのは、1.生まれや育ちに入っているもの 2.自分の将来にメリットをもたらすもの 3.切迫感や緊張感がたまらないもの、こんなところに分けられます。もちろん、これが重なっているとさらによいのです。

 たとえば、歌が好きで、プロになれたら、それで豊かな生活が夢みられて、しかもオーディションやらライブやら、ドキドキすることがたくさんあります。
 でも多くの人は、集中して、その夢を実現することをできません。才能も確かに必要ですが、才能を問えるところまでの努力をしないからです。やったという人はいますが、やれた人はもっとやっています。ほとんどは、持続力の差です。これも、集中力のもたらすものです。

 それでは集中して、練習だけしていればよいのでしょうか。いえ、一生練習していても、歌が楽しいのは本人だけなら、この夢はかないません。そのときには集中力を、もう少し先の方向に向けなくてはいけないのです。
 練習に練習を重ねて、プロになれる人とそうでない人との違いは、資質だけではありません。もし資質ということなら、そこに自分や演奏を客観視できる眼というのが必ず関わってきます。
 つまり、ただ集中して練習しているのと、プロになるために集中しているのは、次元が違うのです。問題は、自分にでなく、人に与える力があるかどうかなのです。そのために強度の集中力が必要とされるのです。

 わかりますか。先に述べたように、ただの集中は、ただのくり返しです。トレーニングしていてもオンしません。長く続けただけでは、そのことをやっていない人よりは、すぐれます。しかし、本当にやっている人には、勝てません。限界があるのです。五感で取り込むだけで終えてはなりません。
 そこで何ら本質を捉え、創造を行ない、表現し得てこそ、道は開けてきます。そのために行なうのが、本当の練習なのです。
 そこで、徹底して自分を客観視して、自分のよいところを生かし、悪いところを正すトレーニングが必要となります。そのために、上司や師が必要なのです。
 あなたがスポーツや学業、仕事で後輩を教えるとき、彼らのうまくいかない部分について助言し、直します。彼らが見えないところが、あなたには見えるからです。

 つまり、あなたが今度は下のステップにいると考えればよいのです。すると、どこにもかしこにも学ばせてくれる師が、世の中にはたくさんいます。
 ところが、自分よりすぐれた人を自分のために生かせない人が、この世の中、大半なのです。
 まわりにすぐれた人などいない?そうかもしれません。でも、すぐれた人がいないというなら、すぐれていることが、あるいはすぐれた人がどういうものかわかるのでしょうから、あなたの思うすぐれた人に会いに行けばよいのです。会えない?死んでいる?本くらい残っていませんか。あなたは、どうしてその人がすぐれていると知ったのですか。

 まあ、どんなに人にも、すぐれているところとそうでないところがあります。だって、あなたもそうでしょう。あなたが自分だけすぐれていて、まわりがそうでないと思っているなら、少し重症です。
 私が思うに、どんな人からも、その人のすぐれている面とつきあい、学べるのが、本当にすぐれている人です。その定義からいくと、そういう人はどんな人からも、その人のすぐれていない面としか、つきあっていないのですから、もっともすぐれていない人となります。もはや、アドバイスをするより、合掌です。

 他人のすぐれたところに学ぶことに集中力が働く人の将来は、明るいものです。
 あなたよりもよい状態にいる人を、しっかりと認めるところから始めてください。そのよい状態とは、夢のところにリスト化しました。
 それでも、自分はすぐれている、まわりがバカだと思っているなら、もしその人が何十億円も、いや何千万円でも稼いでいる人なら、私には申す資格はありませんが、そうではないでしょう。ただ、生物の第一ステップで止まっている人です。

19 あなたの夢は何なのだろう

 人間の能力のもっともすばらしいのは、創造力です。自分の考えたことを創り出す力です。ですから表現することでメシを食べている人は尊敬されるし、賞などをもらいますね。
 創造するというのは、そんなに難しいことではありません。先の話を思い出してください。

 あなたが動物だとします。すると、雨が降って不快なら、どこか雨のあたらないところに逃げますね。しかし、人間なら、どうします?傘をつくり、さします。何度も雨が降ることを知ったら、雨露の防げる住居をつくります。あ、動物でも、そういうのはいますか。
 火事になったら動物は逃げますが、あなたは消そうとするでしょう。寒ければ、暖房を入れます。
つまり、環境に対して、大きく働きかけ、環境を変える力を、人間は誰もがもっているのです。

 そして、もう一つ、創造を楽しみ、好む心をもっています。あなたも、きっと、その一人です。
 動物はそんなことを考える頭もないし、あったとしても集中してそこまで構築できません。自分の巣づくりなどは、遺伝されたプログラムに少々の工夫くらいはします。都会のカラスも、ハンガーの針金で巣をつくるそうですね。しかし、海峡に橋をかけるようなことは絶対にありません。

文明の進歩もまた、創造力の進化によって成し遂げられてきました。大昔、海は渡ることができなかったのに、渡ろうと舟をつくった人がいた。それから何千年もして、どこかで橋をかけたいと思った人がいた。どこの海峡も橋がかかったのは、最近のことです。
 人間の夢がかなうのは、すべて創造力のおかげです。願わないし、つまり想像しないこと、イメージしないことは、実現しません。それをきちんとセットすることが、人生においていかに大切なのかを知ってください。

 すべてがかなうとまでは申しませんが、多くのことはかないます。本気で願ったのなら。
もしかなわなければ、それはかなわないだけの理由がきちんとあるのです。本人にはわからないのですが、みる人がみたら、すぐにわかります。神様でなくとも、人間にもすぐれた人がいます。すぐれたことをやった人には大体、わかります。

 なぜかって、大きなことをやった人は、何かしら人のために何かをしたから、その見返りにそれだけのものを得たのです。お金持ちでも、同じです。もちろん、その人の力だけではありません。多くの人の力があります。時流やシステムやそのほか、多くの要因がその人に味方したのは確かです。しかし、その人は、ぼけっとはしていなかった。他の人よりも、より集中して、自分の力を生かせるものに目一杯、投じたことには違いありません。

 日本という村社会では、いまだ出る頭を打ちたがる人が多いのですが、そういう時代も大きく変わりつつあります。すべての人は集中力を使えばうまくできるように設計されているのです。もし、それを生かしきれないのは、あなたの設計図の詰め不足です。あるいは、そのなかに次のことが入っているからではないでしょうか。
 1.成功、お金、ビジネスは、汚い
 2.自分の好きなように生きるのはよくない
 3.他の人と同じようにしなくてはいけない
 日本では、清貧が美徳でした。竹林の七賢のような人生もよいでしょう、あなたが本当に願うなら。でも、一度しかない人生、あなたの夢は何なのか、もう一度、考えてみてください。

20 つまらないことをおもしろくしよう

 それでも仕事や人生もつまらないというあなたには、私もそうだったし、今もそうだよと、同意します。「たかが、人生」です。しかし、「仕事も人生も捨てたものじゃないよ」って、加えます。
どんな時代で、どんな境遇であっても、素晴らしく充実させ、豊かに生きた人がいたことを知っているからです。もっと、ひどい時代(というより、今ほど恵まれた時代は、どこにあったでしょうか)、ひどい暮らしに、夢さえ抱けない人がたくさんいたことも知っているからです。

 できる人には、よい仕事がいきます。その、よい仕事は、できない人には大変な仕事です。だから、こないのです。よい仕事は、その人しかできないという度合いが大きいものです。それゆえ自由度が高く、その人の才能を発揮させ、その人の力をさらに伸ばします。だから、報酬も大きいのです。ですから、多くの人があこがれます。

 しかし、あまりできない人は、うらやまなくてもよいのです。もしそんな仕事が与えられたら、ストレスになるか、失敗して大きな打撃を受けます。それが実力というものです。
 私が、中田英寿選手の代わりにワールドカップのサッカーの試合に出たら、ゲームの中で殺されるか、そのあとファンに殺されるか、絶対に第二戦に出ることもなければ、報酬がサラリーマン並みにもらえることもありません。即、失業です。命あるだけでも感謝です。
 彼のやった努力をやっていないのに、華やかなシーンのみうらやんでも仕方ないでしょう。中田になりたいということは、彼の努力、苦痛、毎日の練習を、過去からすべて引き受けることです。

 人は皆、分相応のところにいるのです。あなたの上司があなたの半分の力しかなくても、あなたより長く会社にいた、その分はあなたはかないません。歳月というのも、絶対的なものです。
 あなたが「無能な上司の下なら、辞めてやる」といって、辞めてもどうでしょうか。上司は困ったふりをしても、すぐ補充するでしょう。

 おもしろい仕事、好きな仕事をみつけるまで、ブラブラして探している人がたくさんいます。でもきっと、見つかることはないでしょう。そんなにおもしろければ、誰でもやっています。おもしろくなかった仕事を、おもしろくしてきた人がやっているのをみて、あなたはあれがおもしろいと思っているだけです。
 仕事をおもしろくしたり、好きになったりする人がいるだけで、そんな仕事はありません。というより、仕事として成り立ちません。もしあっても、きっと長くはもたないし、あなたがおもしろそうにみえても、やってみるとおもしろくなくなっていくものです。
 仕事は、人に役立ってこそおもしろいのです。そこまでにはそれなりの熟練期間があります。その力を集中力を持続してください。おもしろい仕事も、あなたがやればあなたにとってつまらなくなることも大いにありえます。めざすべきは、その逆のことなのです。

21 仕事へのとりくみを変えてみる

 それがムリな人は、自ら新しい土俵をつくるところへ集中してください。
 すでにしきたりのあるところで実力を認められていくか、誰も入ったことのない荒野を開拓していくか。大きくは、どちらかなのです。しかし、行きつくところ、同じことなのです。
 仕事というのは、相手がいてペイがあるので、必ずや成果を問われるものだからです。
 ということで、仕事への取り組みを変えてみましょう。


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